デバイス上で推論が完結するエッジAIは、AIアクセラレータの実装により、そのポテンシャルをさらに高めることができます。本記事ではAIアクセラレータの役割や、その導入メリットについて解説します。導入に際しては注意点も踏まえた上で、課題解決に役立てることが大切です。
エッジAIは、クラウドへの通信を介さずに、デバイス自体で機械学習モデルの推論を完結させる仕組みです。
従来の運用では、カメラやセンサーが取得したデータをまずクラウドに送信し、そこで分析した結果をデバイスに返していました。これに対しエッジAIは、処理をデバイス側で行うため、通信遅延がほぼ発生せず、オフライン環境でも動作が可能です。ネットワーク帯域や通信コストを大幅に削減できる点も大きなメリットとして注目されます。
一方、NPUやエッジTPUなどのAIアクセラレータは、ディープニューラルネットワークの計算に特化した専用ハードウエアです。
これらは行列演算や畳み込み処理を並列化し、高い演算性能を低消費電力で実現します。CPUやGPUだけでは数百ミリ秒以上かかる推論が、NPUでは数ミリ秒で完了することも珍しくありません。
エッジAIの導入によって、リアルタイム性が求められる画像認識や音声解析、予兆保全などのアプリケーションで高精度かつ高速な処理が実現します。結果として、デバイスの付加価値を飛躍的に向上させてくれるわけです。
AIアクセラレータの主なメリットには、スループットの向上、レイテンシの短縮、コストパフォーマンスの改善などが挙げられます。
AIアクセラレータは行列演算など、ニューラルネットワーク特有の重い計算を並列化して処理できる専用ハードウエアです。
その結果、従来のCPUやGPUと比べても強力な推論スループットを実現し、1秒間に何千枚もの画像を連続解析するといった大規模なリアルタイム処理にも対応可能です。
アクセラレータ内部でのデータ転送やオンチップメモリ利用を最適化することで、応答時間を数十ミリ秒から数ミリ秒以下にまで短縮できます。
これにより、ドローンの障害物回避や産業機器の異常検知など、即時性が求められる用途でのエッジ推論の実用レベルでの普及が期待されます。
AIアクセラレータはニューラル演算に特化して回路が設計されています。そのため、汎用CPUやGPUと同等の推論性能を発揮しつつ、数分の一程度の消費電力での動作が可能です。
バッテリー駆動のIoT機器やウエアラブルデバイスで、24時間365日の稼働が必要な場合においては、エコ運転が可能であることは大きなアドバンテージとなります。低消費電力が可能になれば、常時AI推論を実行しつつも、バッテリー交換といったような定期的なメンテナンスが少なくなり長期間運用に貢献します。
専用ASICとして製造されるAIアクセラレータは、量産効果により非常に低コストで提供できます。
これにより、エッジAI対応デバイス全体の製造コストを抑えながら、高度な推論性能を組み込むことができ、最終製品の価格競争力を維持しつつ差別化を図ることが可能です。
AIアクセラレータ実装に際しては、互換性の問題や精度低下などへの対応とともに、検証品質の向上に向けた計画策定が求められます。
AIアクセラレータを搭載したSoCは、ベンダーごとにドライバやSDKの仕様が大きく異なります。
まずは採用候補のアクセラレータが利用するソフトウエアスタックが、自社が使うOSや開発ツールチェーンと互換性があるかを確認し、必要なバージョンやライセンス条件、メンテナンス体制まで事前に調査しておきましょう。
モデル量子化では重みを8ビットなどに落として演算量を削減しますが、その際に本来の精度が失われる可能性があります。
プルーニングで不要なパラメータを削る場合も同様です。量子化・プルーニング後には必ずテストデータを用いた精度評価を行い、必要に応じて再トレーニングやファインチューニングを実施して性能を担保することが重要です。
多くのAIアクセラレータは、オンチップのSRAMやフラッシュメモリに制限があるため、モデルサイズを最適化しなければ動作しません。
モデルを分割したストリーミング実行や、パラメータ圧縮、レイヤーごとの動的ロードなどの手法を検討し、アクセラレータが搭載可能な容量内に収まるように設計しましょう。
開発初期段階から試作機を用いた実機検証と負荷テストを計画し、推論速度や消費電力、温度上昇などを継続的に測定します。
シミュレーターだけでは分からない動作不具合や性能劣化を早期に発見し、設計にフィードバックすることで本番環境での安定稼働を確保できます。
近年では、AIアクセラレータを単独で搭載するだけでなく、CPUやGPUと緊密に統合したAI SoCが登場しつつあります。
これにより、汎用処理と専用推論の切り替えがシームレスになり、エッジデバイス上で大規模モデルの一部をローカルで処理することが可能になるでしょう。
さらに、複数のエッジデバイス間でモデルを分割・分散実行するアーキテクチャも研究が進んできました。各デバイスが部分モデルを担当しつつ協調して推論を行うことで、単一デバイスの性能制約を超えた高度な解析やリアルタイム性が実現します。
例えば、工場の複数センサーが協調して異常を検知したり、ドローン群が連携して空間認識を行ったりと、これまで以上に柔軟でスケーラブルなエッジAIシステムの構築が期待されるところです。
今後はこれらの技術を活用し、より多彩なユースケースを実現する動きに注目が集まるでしょう。