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AIユニコーン企業のPreferred Networksは半導体の開発も加速

レンテックインサイト編集部

AIユニコーン企業のPreferred Networksは半導体の開発も加速

 近年、AI市場が急速に拡大しており、大手からスタートアップまでさまざまな企業が開発に取り組んでいます。その中で日本では、株式会社Preferred Networks(PFN)が深層学習などの最先端技術を活用し、製造、交通、小売、化学、材料探索、金融などさまざまな業界が抱える課題の解決につながるAIソリューションを開発・提供しており、国内有数のユニコーン企業(評価額が10億ドル以上のベンチャー)としても知られています。そうしたソリューションの開発に際して大規模な計算資源が必要であることから、PFNは多量の計算を効率的に実行するために独自の計算機クラスターを開発しています。そして、その計算機クラスターに搭載するAI処理用(深層学習を高速化するための)プロセッサーの開発も2016年ごろから行っています。

 PFNは、神戸大学の牧野淳一郎教授(現在は神戸大学の特命教授とPFNのVPコンピュータアーキテクチャ担当CTOを兼任)や、台湾のアルチップ・テクノロジーズなどと連携しながら、第1世代となるAI処理用プロセッサー「MN-Core」(製造はTSMCの12nmプロセスを採用)を2020年に発表しました。そして、MN-Coreを搭載した計算機クラスターを構築し、社内の開発などに用いた結果、3次元モデルの復元、画像認識モデルの自動最適化、材料探索の高速化など、さまざまなAIワークロードにおいても高い処理速度を実現できることを確認し、2020年6月~21年11月の間に、スーパーコンピューターの省電力性能ランキング「Green500」で世界1位を3回獲得しました。

2023年に第2世代を開発

 PFNは、2023年にNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の委託業務として、演算性能を約3倍、電力性能を約33%高めた第2世代品となるAI処理用プロセッサー「MN-Core 2」(製造はTSMCの7nmプロセスを採用)を開発。第1世代品を搭載した計算機クラスターについては自社プロジェクト内の活用に制限していましたが、MN-Core 2を搭載した計算機クラスターについては外部にも提供しています。

 具体的には、大規模言語モデルのファインチューニング用途などに、MN-Core 2を搭載した計算機クラスターの機能をクラウドサービスで提供することに加え、計算機をオンプレミスで提供するもので、トライアルユーザーに対して2024年9月から先行提供を開始。また、PFNが提供するAIソリューションにおいて、計算機クラスターをAI計算基盤として提供することなども計画しています。PFNの計算機クラスターは、さまざまなAIワークロードにおいて高速な処理を実現できることから利用者の開発期間を短縮でき、開発コストの低減などに寄与します。

 2024年11月には、大規模言語モデルなどの生成AIに最適化したAI処理用プロセッサー「MN-Core L1000」の開発を開始しました。生成AI利用時(推論)において、GPUなどの既存プロセッサーに比べて最大10倍の高速処理を実現できる性能を有し、2026年から提供を開始することを目指しています。L1000は、2016年から開発を続けるMN-Coreの設計思想に、最新の3次元積層技術を融合。具体的には3次元積層DRAMを採用し、メモリを演算器に対して垂直方向に積載する3次元積層メモリにすることで、従来のハイエンドGPUに搭載されているHBMと比べてメモリ帯域幅を拡大します。また近年、AIプロセッサーで利用が広がるSRAMに比べて大容量かつ安価なDRAMを採用し、メモリの大容量化と高速化を安価に実現しています。

 PFNは、韓国のサムスン電子や半導体設計会社のGAONCHIPSとの取り組みも進めており、サムスン電子から2nm GAA(Gate All Around)プロセスや2.5Dパッケージ技術「I-Cube S」のターンキー半導体ソリューションといった技術の提案を受けながら研究を進めています。

幅広い企業と連携

 2024年8月、PFNは金融大手のSBIホールディングス株式会社(東京都港区)と、次世代AI半導体の開発および製品化に向けた資本業務提携で基本合意しました。PFNの第三者割当増資を引き受けるかたちでSBIが最大100億円を出資し、PFNが開発している次世代AI半導体の社会実装などを支援しています。また、業務提携の内容としては、PFNの次世代AI半導体の製品化に向けた共同研究ならびに開発、PFNの資金調達などファイナンス面での協力を挙げています。

 そしてPFNは、2024年12月にSBIグループからの出資や金融機関からの融資により、総額190億円の資金調達を実施しました。SBIグループ、積水ハウス投資事業有限責任組合、株式会社日本政策投資銀行、三菱商事株式会社、株式会社ワコムから出資を獲得し、株式会社商工組合中央金庫、株式会社三井住友銀行、株式会社三菱UFJ銀行、株式会社りそな銀行から融資を得ました。資金調達によって人材の採用を強化しており、MN-Coreシリーズの開発・製造・販売にも資金を投じています。特に、MN-Core L1000の開発を加速しており、生成AI基盤モデル「PLaMo」の性能強化を図るとともに、それらを活用した幅広い領域のソリューションプロダクトの開発、その開発に必要な大規模な計算基盤の拡充を行っていく考えです。

 2025年1月には、PFN、さくらインターネット株式会社(大阪市北区)、Rapidus株式会社(ラピダス、東京都千代田区)の3社で、国産AIインフラの提供を目指して連携することで基本合意しました。最先端プロセスの省電力AI半導体を用いたクラウドインフラの実現を目指しています。さくらインターネットは、幅広いサーバー・クラウドサービスを提供しており、2023年にはガバメントクラウド(政府共通のクラウドサービスの利用環境)のサービス提供事業者に国内事業者に条件付きで選定されました。直近は生成AI向けクラウドサービスの取り組みを強化しています。ラピダスは、2nmプロセスを用いたファンドリー事業の実現を目指し、北海道千歳市で最先端半導体ファブ「IIM-1」を運営しています。

 3社は、PFNが今後新たに設計するMN-Coreシリーズの最先端モデルをラピダスが製造し、さくらインターネットが有する生成AI向けクラウドサービスに関する知見を組み合わせます。生成AIなどのAI技術が社会・産業を支えるインフラ技術として発展が見込まれる中、3社は技術やノウハウを融合し、国産AIインフラの整備を目指しています。

 冒頭に述べたように、PFNは国内有数のAIユニコーン企業として知られていますが、前述した取り組みが進むことで、国内有数のAI半導体企業としても存在感を発揮していくことになるでしょう。

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