
AI運用を高いレベルで実現するための方法として、注目を集めているのがオンデバイスAIと呼ばれる手法です。この記事では、オンデバイスAIはクラウドAIとどう違うのか、導入する具体的なステップ、導入時の注意点や落とし穴などを解説します。
オンデバイスAIという言葉が頻繁に使われるようになったのは、比較的最近の話です。DX推進に伴う課題の洗い出しが進んだことや、クラウドAIとの差別化についての知見が広く知られるようになったことで、オンデバイスAIの導入意欲が高まっています。
DXを推進する企業では、業務効率化や新サービス開発のために大量データのリアルタイム処理が不可欠です。
しかし、従来のクラウド依存型アーキテクチャでは、通信状況や帯域の制約によって遅延が発生しやすく、製造ラインの異常検知などの即時性が求められる用途には不向きです。
また、データ量が増大するほど通信コストが跳ね上がる問題もあります。顧客情報や製造機密を外部サーバーに転送することで内部統制やセキュリティ監査のハードルが高まる点も、AI導入を消極的なものとする要因といえるでしょう。
オンデバイスAIは、一言で言えばエッジデバイスや組み込み機器上でAIを運用する技術です。
クラウドAIの場合、ネットワーク通信に伴う遅延が発生しますが、オンデバイスAIはそれがありません。そのため、ドローンの自律飛行や自動運転の障害物回避といった、瞬時判断が求められる用途に最適です。
さらに、ネットワークが不安定な現場や電波が届きにくい場所でもオフライン稼働が可能で、常時オンラインの維持が難しい拠点でも継続的なサービス品質を確保できます。

オンデバイスAIの導入に際しては、以下のような順序で進めることがおすすめです。その手順を見ていきましょう。
まずは、リアルタイム性やオフライン動作のメリットが活きる業務から着手します。
オンデバイスAIのメリットを踏まえて、どのような業務に導入するのが最も適しているか検討を進めましょう。
運用目的が固まったら、実際に稼働させるエッジデバイスを選びます。オンデバイスAIを運用する上では、そのための要件を備えたデバイスが不可欠です。
中でもNPU(Neural Processing Unit)搭載デバイスは、モデルを高速実行しつつバッテリー稼働時間を確保できるため非常に強力です。最近では製品の多様化も進んでいるため、予算や目的に応じたマシンを選びやすくなってきました。
ハードウエアが決まったら、実装する軽量推論ライブラリを導入します。既存の機械学習モデルを量子化やプルーニングなどによって圧縮し、デバイス上で動かせる形式に変換する作業がポイントです。
実装に際しては、まず小規模データセットで初期検証を行い、推論結果の精度と応答速度を測定します。実機を用いた社内PoC環境でテストを繰り返し、実際の業務フローに組み込んだ際の課題を洗い出しましょう。
信頼性・保守性・運用コストの観点から改善点を整理し、本番導入に向けたロードマップを策定します。
オンデバイスAIを導入する上では、以下の注意点についても意識しておくべきでしょう。業務にあったキャパシティと、常にモデルを改善していくワークフローの構築に目を配らなければなりません。
オンデバイスAIに搭載するモデルは、導入時のデータ分布に最適化されていますが、現場の環境や入力データは刻々と変化します。
定期的な再学習を怠ると、推論精度が徐々に低下し、誤検知や見逃しといった重大なトラブルにつながりかねません。
更新サイクルは、季節変動や稼働条件の変更を踏まえ、四半期ごと・半年ごとなどのスケジュールを明確に定めましょう。
エッジデバイスには、限られたRAMやフラッシュストレージしか搭載されておらず、大規模モデルをそのまま載せることはできません。運用規模に合わせてモデルの軽量化を図る必要があります。
また複数モデルを切り替えて運用する場合は、モデル切り替えタイミングの管理方法や、古いモデルのクリーニング手順をあらかじめ設計しておきましょう。
オンデバイスAIの導入は、組織に大きな恩恵をもたらしてくれる取り組みの一つです。まずは「1機種・1タスク」に絞り、小規模かつ短期間のPoCで効果を検証しましょう。
導入が比較的容易なケースとしては、特定の製造ラインでの異常検知や、倉庫内での在庫管理支援などです。
初期投資と運用負荷を抑えつつ、具体的な改善効果を示すことで、ステークホルダーの理解と、さらなるAI導入に向けた予算の獲得をスムーズに進められるでしょう。