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「ツール乱立」を防ぐ情シスの調整術 導入判断と運用のポイント

レンテックインサイト編集部

「ツール乱立」を防ぐ情シスの調整術 導入判断と運用のポイント

業務効率化や生産性向上を目的に、現場主導で導入が進むSaaSや業務支援ツール。その一方で、社内システム全体の複雑化や情報の分断、セキュリティのばらつきなどの原因となることもあります。

そのような問題を避けるために、情報システム部門が果たすべき役割とは何でしょうか。

本記事では、「ツール乱立」を防ぐ情報システム部門の調整術を、体系立ててご紹介します。

なぜ「便利なはずのツール」が業務の非効率を生むのか

SaaSや業務支援ツールは、現場の業務効率を高める有効な手段として広く活用されつつあります。しかしその一方で、導入プロセスが現場主導で加速した結果、社内IT環境が“ツールだらけ”の複雑な構成になるケースも。

本来は業務のシンプル化や生産性向上のために導入されたはずのツールが、かえって管理負荷やセキュリティリスクを増大させる─そんな逆転現象が起きているのです。

ツール導入が“現場主導”で進むことで生じる「部分最適」問題

SaaSの普及は、現場主導の“セルフ導入”を大きく後押ししました。業務課題を感じた担当者が独自にサービスを導入する、というケースも少なくありません。

独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が発行する『IPA NEWS vol.59』(2022年10月号) では、現場ごとにシステムが乱立する「部分最適」に陥り、全体最適が図られないという問題が発生していることがIPA理事長富田 達夫氏により指摘されています。

現場主導のツール導入は一見効率的に見えるものの、全社的な視点でのITガバナンスや戦略的なシステム統合を阻害する要因となり得るのです。

利便性の裏で進行する“ツール乱立”の実態

現場主導の導入が加速する一方で、全社的な最適化が行われないままツールの数だけが増えると発生しがちなのが、次のような課題です。

  • 同機能のツールが部署ごとにバラバラに導入され、契約・利用状況が把握できない
  • ツール間の連携がないため、情報が点在し、業務データの分断が起きる
  • 契約・アカウント管理が属人的で、退職者アカウントが放置される
  • 企業のセキュリティ基準に準拠しない外部サービスが、無断で業務に使われる

このように、便利なはずのツールが“全体で見ると不便”という皮肉な構造が、業務の効率化やセキュリティ対応の足かせになっています。

このような事態を防ぐには、情報システム部門が「現場と経営をつなぐ中立的な調整者」として、全社的な視点でツールの評価・選定を支援し、運用設計と統制を行う必要があります。

ツール選定プロセスにおける情報システム部門の役割とは?

ツール乱立を防ぐために重要なのは「どのツールを、どの基準で、どう使っていくか」を全社視点で整理し、選定プロセスを体系化することです。その選定プロセスを情報システム部門はどのようにハンドリングするべきなのでしょうか。

ここでは、現場の創意工夫を活かしながら全社最適を実現するための、情報システム部門の関与ポイントと設計視点を整理します。

導入相談を“オープン化”する──相談しやすい体制づくり

まず必要なのは、「現場が情報システム部門に相談しやすい空気感」の醸成です。「情報システム部門に頼むと時間がかかる」「却下されるだけ」といった心理的ハードルが存在すれば、相談のないシャドーITの要因となります。

このハードルを取り払うには、以下のような仕組みが有効です。

  • 導入相談用の簡易フォームを社内ポータルに設置し、気軽に相談できる窓口を用意する
  • 「1次相談→PoC→本格導入」のステップ制を明示し、導入までの流れを現場と握り合う
  • 定期的に「IT利活用ミーティング」を開催し、各部門のツール導入状況や課題を共有する

こうした工夫により、現場にとって“IT利活用をサポートしてくれるパートナー”としての立ち位置を情報システム部門が確立することが重要です。

【関連記事】
セキュリティを脅かす「シャドーIT」のリスク どのように防ぐべき?

ツール選定の評価基準をガイドラインとして明文化

現場の選定が属人的・短期的な視点に偏りがちな一方で、情報システム部門は全社的・中長期の観点から評価する立場にあります。そのために必要なのが、公平かつ実務的な評価軸の整備です。

セキュリティ、ガバナンス、連携性、管理のしやすさ、コスト構造、サポート体制など、全社的な視点からツールを選定する場合に着目すべきポイントは多数存在します。

これらの評価基準をガイドラインとして明文化することで、現場と情報システム部門が共通のフレームワークでツール選定を行うことが可能となります。その際、デジタル庁が公表している『政府情報システムにおけるクラウドサービスの適切な利用に係る基本方針』なども参考にしてみてください。

「交通整理役」ではなく「合意形成支援者」としてツール選定に関わる

複数の部門が類似したSaaSや業務支援ツールの導入を検討する際、情報システム部門(情報システム部門)には単なる「交通整理役」ではなく、全社的な視点からの「合意形成支援者」としての役割が求められます。

  • 業務要件が本当に異なるのか、それとも調整できるのか
  • 部門ごとのITリテラシーや業務プロセスの違いに対応できるツールとなっているか
  • 部門ごとの要望に対応できるカスタマイズ性はあるか

このように、情報システム部門が導入の初期段階から各部門と連携して必要な問いを提示し、合意形成を支援する体制を構築することで、ツールの乱立や情報の分断を未然に防ぐことができます。

ツール運用フェーズでガバナンスを機能させるには?

ツールの選定に情報システム部門が関与し、現場との合意形成ができたとしても、それだけで「乱立」は解消しません。導入後の運用フェーズでガバナンスが機能しなければ、再び個別最適が進んでしまうからです。

ここでは、選定されたツールが全社最適な形で定着・活用されるために、情報システム部門が担うべき運用設計と統制の要点を解説します。

利用状況の可視化とモニタリング体制の構築

運用ルールを整備しただけでは、実際の利用状況が追えません。導入後の「利用状況の可視化」こそが、ガバナンスの柱となります。

SaaS管理ツール(SSPMやITAMなど)やBIツールを利用し、定期的に以下の情報をモニタリングしましょう。

  • ツールごとのアクティブユーザー数・ログイン頻度
  • 部門別の利用状況
  • アカウントの稼働状況?
  • ツールごとの費用対効果(ROI)

特に、複数ツールを横断的に利用している場合は、全社的な可視化基盤を整備することが重要です。

「使い続けられる仕組み」を設計し改善を続ける

導入時は注目されても、半年後・1年後には忘れられてしまう──SaaSツールにはありがちなリスクです。そうした形骸化を防ぐには、以下のような「使い続けられる仕組み」を設計することが必要です。

定期的な活用レビューの実施(利用部門との振り返り)

ユーザー数や頻度、利用状況など前述のモニタリング指標を用いてSaaSツールの活用状況を定期的に評価し、現場人材とともに課題を発見するための場を設けましょう。

他部門への展開を見据えたテンプレート・ナレッジの共有

他部門への展開を見据えて、成功事例や効果的な活用方法を文書・マニュアル化し、グループウエアや専用チャットでナレッジとして共有しましょう。

機能アップデートやベストプラクティスの周知・教育

SaaSツールは定期的に機能のアップデートが行われます。それらを共有する場として、定期的なトレーニングセッションの実施やユーザーコミュニティの形成を促すことで、部門を超えたツールによる交流が生まれ、社内のIT活用も活発化することが期待されます。

SaaS時代、情報システム部門が果たすべき役割の再定義が求められている

IT活用が全面化した現在、情報システム部門は現場と協調しながら、整ったルールと運用基盤を提供することが求められています。そこで重要なのが、「ITを基盤とした全社最適の推進者」という情報システム部門の役割の再定義なのです。

ツール乱立の防止は、組織のITリテラシーと、情報システム部門の全体を見る設計力にかかっています。選定フェーズ、導入フェーズ、運用フェーズで情報システム部門がどのような役割を果たすべきか、本記事や本サイトの関連記事を生かして、役割の更新を進めていきましょう。

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