ホームITLBO(ローカルブレイクアウト)とは?拠点ネットワーク再設計時に押さえるべき基本と実装のポイント

IT Insight

LBO(ローカルブレイクアウト)とは?拠点ネットワーク再設計時に押さえるべき基本と実装のポイント

レンテックインサイト編集部

LBO(ローカルブレイクアウト)とは?拠点ネットワーク再設計時に押さえるべき基本と実装のポイント

各拠点からインターネットへ直接アクセスする「ローカルブレイクアウト(LBO)」は、クラウド利用の進展とともに企業ネットワークの再設計で注目を集める構成です。SaaSやWeb会議の通信効率向上に貢献するLBO。その一方で、適切な制御がなければセキュリティや可視性の低下を招く恐れもあります。

本記事では、LBOの概念から基本構成3パターン、リスクとその対処法まで、基本と実装のポイントを詳しく解説していきます。

ローカルブレイクアウト(LBO)とは?

ローカルブレイクアウト(LBO:Local Breakout)とは、「拠点からインターネットへ直接アクセスさせるネットワーク構成」を指します。具体的には、拠点に設置されたネットワーク機器やSD-WAN機能を利用して、本社VPNを経由せず、インターネットへ直接通信させる構成です。

LBOが注目を集めている背景には、クラウドサービスの爆発的な普及と働き方の柔軟化があります。現在、Microsoft 365やSalesforce、Google WorkspaceといったSaaSの利用が急増しており、業務トラフィックに占める外部クラウドとの通信の割合が増加しています。

そのため、すべての通信を一度本社VPNに集約する中央集約型のネットワーク構成が通信のボトルネックとなるケースも。

例えば、以下のような症状に思い当たるところはありませんか。

  • ファイルアップロード/ダウンロード時の遅延
  • Web会議の音声・映像の乱れ
  • 帯域逼迫によるツールの応答遅延や接続エラー

これは、本社を経由させる必然性が薄れたにも関わらず、従来の構成が維持されていることによる構造的な問題です。

LBOは、TeamsやZoomのような通信量の多いWeb会議アプリ、Microsoft 365やGoogle WorkspaceのようなSaaSサービス、CDNを活用したWebコンテンツなどへの通信を、拠点から直接インターネットに送ることで最適化します。これにより、通信経路が短縮され、クラウドサービスの応答性が向上し、「クラウド利用が遅い」「Web会議が不安定」といった現場の声を解消する有力な手段として導入が進んでいます。

LBOの基本構成3パターン──それぞれのメリット・デメリットを比較

LBO(ローカルブレイクアウト)を、実際に導入・運用するには、「何を、どのように、どこまで制御するか」を明確に定義する必要があります。 LBOの基本構成は、特定のトラフィックを直接インターネットに接続する仕組みです。これには、オンプレミスのファイアウォールを使用する方式、クラウドベースのセキュリティサービスを使用する方式、そしてこれらを組み合わせたハイブリッド構成があります。

1.SD-WAN + オンプレ型ファイアウォール

拠点にSD-WANルーターを配置し、必要なトラフィック(通信)だけを直接インターネットへアクセスさせます。同時に、拠点に設置されたファイアウォールでセキュリティ検査を行います。

メリット

柔軟なルーティングが可能で、オンプレミスの機器で詳細な制御ができます。

デメリット

拠点数が増えるごとに機器の管理や運用の負荷が増加します。

2.SD-WAN + クラウド型セキュリティ(SASE/SWGなど)

ローカルブレイクアウトされたトラフィックを、クラウド上にあるSWG(Secure Web Gateway)などのサービスで検査・フィルタリングします。これにより、セキュリティ運用を一元化することができます。

メリット

セキュリティポリシーを集中管理でき、拠点ごとの機器管理負荷が軽減されます。

デメリット

インターネット回線の品質や、接続拠点(PoP)の場所によってパフォーマンスが影響を受ける可能性があります。

3.ハイブリッド構成(トラフィックごとに制御を分ける)

特定の種類の通信、例えばMicrosoft 365などのSaaSへの通信はLBOで直接インターネットに、業務システムや機密性の高い通信は従来通り本社VPNに、というようにトラフィックの種類に応じて経路を使い分ける方法です。

メリット

既存の構成からの移行リスクを抑えつつ、段階的にLBOを展開することが可能です。

デメリット

設計や運用がやや複雑になる傾向があります。

LBOの導入にあたっては、自社のトラフィック特性やセキュリティ要件、既存ネットワーク資産などを踏まえて、どの構成が適しているかを見極める必要があります。オンプレ型で堅牢性を重視するのか、クラウド型で運用の効率化を図るのか、あるいは段階的な移行を選ぶのか。

まずは自社のネットワーク要件を明確にし、適切な構成選定につなげていきましょう。

LBO導入でよくあるリスクとその対策

LBOは拠点からインターネットへ直接アクセスさせる構成であり、適切に制御しないとさまざまなリスクを招く可能性があるのも事実です。主なリスクとその対策を見ていきましょう。

まず、リスクとして挙げられるのが以下のようなケースです。

拠点ごとのセキュリティレベルのばらつき

LBOは各拠点から直接インターネットにアクセスするため、拠点ごとにセキュリティ対策が異なると、セキュリティレベルにばらつきが生じます。

シャドーITや不審サイトへの接続リスク

拠点ごとの通信を適切に制御しなければ、従業員が許可されていないクラウドサービスを利用したり(シャドーIT)、悪意のあるサイトにアクセスしたりするリスクが高まります。

通信ログや利用状況の一元的な可視化の困難

従来、本社VPNを経由していた際に取得できていた通信ログや利用状況の情報が、拠点から直接インターネットにアクセスすることでブラックボックス化し、中央での把握・制御が難しくなります。

このように、LBOは“ただ実装する”だけでは逆に統制が失われ、セキュリティリスクを拡大させてしまう可能性も否定できません。そのため導入する際には、「どの通信をLBOの対象にするか」「どうセキュリティポリシーと整合させるか」といった設計思想が極めて重要になります。

これらのリスクを軽減し、LBOを「設計された最適化」として機能させるためには、以下の対策が有効です。

「選択的LBO」の採用

すべての通信を一律にローカルブレイクアウトするのではなく、トラフィックの種類ごとに出口を使い分けるアプローチです。例えば、信頼されたSaaS通信は直接インターネットへ、業務基幹システムや機密性の高い社内アプリケーションへの通信は引き続き本社VPNを経由させるといったように、LBOを選択的に展開することで、リスクと効果のバランスを取ることができます。

クラウド型セキュリティソリューションの活用

SWGやZTNA、FWaaSなど、クラウド上でトラフィックの検査・制御を行うセキュリティサービスを活用することで、拠点ごとの物理機器設置を省きながら、セキュリティレベルの均質化と運用負荷の軽減を両立できます。特にSASE(Secure Access Service Edge)のような統合型の仕組みは、ゼロトラストの実現にも有効です。

【関連記事】
ITセキュリティにおけるゼロトラストの価値と実践法

セキュリティ統制の中央管理

通信ポリシーやフィルタリングルール、アクセスログの取得・保管などを中央で一元的に管理する仕組み(SIEM、SWGなど)を整えることで、LBO環境下でも可視性と制御性を維持できます。これにより、セキュリティポリシーの一貫性を保ちつつ、全社的なリスク管理を可能にします。

運用体制の構築

LBOは技術だけでなく運用面での支えがあってこそ安全に機能します。そのため、IT部門が定期的に通信状況を監査・分析し、ポリシーの見直しや改善を行う運用体制を整えることが欠かせません。加えて、利用部門への教育やガイドラインの策定も、セキュリティリスクの低減に不可欠といえるでしょう。

「誰が、どのような状況で、何にアクセスするのか」が重要な時代へ

従来のネットワーク設計では、「どこを通すか」「どこに集約するか」という構造面が主な設計要素でした。しかし、クラウド時代においては「誰が、どのような状況で、何にアクセスするのか」を踏まえ、動的に制御する柔軟性がネットワークに求められています。

ローカルブレイクアウトは、ネットワーク再設計の第一歩です。柔軟でセキュアなネットワーク環境を構築し、クラウド時代に適応したネットワーク再設計を進める一環として本記事をぜひご活用ください。

IT Insightの他記事もご覧ください

Prev

Next