AIやIoT、クラウド技術の進展、そしてリモートワークの普及により、データセンターの需要はますます高まっています。日本国内でもデータセンター市場は成長を続けていますが、一方で地理的な集中や電力供給といった課題も浮上しています。本記事では、国内のデータセンターの現状と直面する課題、そして今後の方向性について詳しく解説します。
日本のデータセンター市場は着実に成長しています。総務省の「令和6年版 情報通信白書」によれば、2022年時点で市場規模は2兆円を超え、2027年には4兆円を上回ると予測されています。生成AIやクラウドサービスの急速な普及により、企業のITインフラ投資が拡大し、全国的にデータセンターの需要が高まっているのです。
世界のデータセンター数を見ると、米国が5,000以上と突出しており、欧州が2,000以上、日本は約200と少ない状況です。しかし、日本のデータセンターは信頼性や災害対策の面で高い評価を受けています。
特にアジア地域では、中国が最大のデータセンター立地国ですが、政情やインフラの安定性から、日本がデータ流通のハブとして期待を集めています。このような国際的な立ち位置の変化は、今後の海外投資やグローバルクラウドベンダーの戦略において、日本がより重要な拠点となる可能性を示しています。
データセンターの需要が高まる一方で、国内ではいくつかの課題も顕在化しています。主な課題として、データセンターの地理的集中による災害リスクと、電力需要の増加に伴うインフラ整備の遅れが挙げられます。
国内のデータセンターの約6割は関東に集中しており、特に東京圏に偏在しています。これは、低遅延でのサービス提供や、優れた交通アクセスなどの利点があるためです。一方、地方には小型のデータセンターが多数設置されています。
関東地域にデータセンターが集中する状況は、災害リスクに対して脆弱で、大規模災害が発生すると全国的なネットワーク障害が発生する懸念があります。東日本大震災の際には、大きな影響は限定的でしたが、長時間の停電や通信障害のリスクが浮き彫りとなりました。災害大国である日本では、単なる耐震設計だけでなく、地理的分散やデータのバックアップ体制の強化が求められています。
近年は生成AIの普及などの影響でGPUなどの高性能プロセッサの需要が高まっており、それに伴ってデータセンターの電力消費も増加しています。さらに、建設費の高騰や送電網の整備遅延が、新規データセンター建設の大きな障壁となっています。
多くのデータセンターでは7kVを超える特別高圧電力を必要としますが、首都圏の密集地では既存の送電インフラが限界に達しており、新たな電力の引き込みには時間がかかる状況です。送配電事業者による新設投資もこれまでの増加率を前提として計画されていたため、急速な需要増加には対応しきれていません。こうしたインフラ整備の遅れが、国内データセンターの供給体制にとって深刻な課題となっています。
データセンターが抱える課題に対応するため、日本政府は地方分散を推進しています。2030年代には、オール光ネットワークの導入により、地方分散やエネルギーの地産地消を実現することを目指しています。
データセンターの関東集中を抑制するため、政府は「デジタル田園都市国家インフラ整備計画」を策定し、データセンターの地方分散を支援しています。令和3年度から合計600億円規模の予算を投じ、東京や大阪を補完・代替する中核拠点の整備が進められています。また、国内を周回する海底ケーブルの整備や、国際海底ケーブルの多ルート化など、通信インフラの強化も同時に進行しています。
2030年代のAI社会を支えるために、次世代通信基盤として「Beyond 5G」や「オール光ネットワーク」の整備も進んでいます。オール光ネットワークは、端末からネットワークまでのすべてを光通信で構成することで、低遅延・低消費電力・大容量通信を実現します。
この技術によって、ユーザーとデータセンター間の距離の制約が緩和され、地方へのデータセンター配置が現実的な選択肢になると期待されています。特に再生可能エネルギーに恵まれた地域では、地産地消型のデータセンター運用が可能となり、脱炭素社会の実現にも寄与します。
世界的なデジタル化の進展を背景に、日本においてもデータセンターの重要性は今後ますます高まると考えられます。しかし、災害リスクや電力インフラの課題、地理的な偏在などの問題を解決していくことが必要です。
政府主導による地方分散政策とオール光ネットワークの導入は、持続可能なデータセンター運用への道を切り開いています。デジタル社会の構築に向けて、自分たちの地域がどう関わっていけるか考えてみてはいかがでしょうか。