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日本政府が進めるGX戦略とは?
レンテックインサイト編集部
昨今では、世界各国でカーボンニュートラルと経済成長の両立を目指す取り組みである「GX」が進められています。日本政府もGX戦略を練っており、直近では2024年12月に「GX2040ビジョン(案)」が公表され、注目を集めました。本記事では、日本政府が進めているGX戦略が具体的にどのような内容なのか、ポイントを絞ってご紹介します。
日本政府が進めるGXとは?
GXは「Green Transformation」の略称であり、温室効果ガスを大量に排出する化石燃料を中心とした社会構造から、太陽光や風力などのクリーンエネルギーを中心とした社会構造へと大きく転換しようとする取り組みです。単にエネルギー源を変えるだけでなく、国全体の産業・経済構造や人々のライフスタイルそのものを変革する大規模な試みとなっています。
日本政府は2022年から「GX実行会議」を開催し、産官学の有識者を交えながら具体的な施策や目標を検討してきました。昨今では、「SDGs(持続可能な開発目標)」や「パリ協定」で示されたように、カーボンニュートラルの実現と経済の持続的成長の両立が世界各国で模索されています。日本もこの流れに沿ってGXに取り組むことで、新たな成長を生み出そうとしている状況です。
「GX2040ビジョン(案)」から読み解く日本のGX戦略とは?
2024年12月26日に開催された第14回GX実行会議では、昨今の国際情勢の変化などを背景に、これまでの戦略をさらにアップデートした「GX2040ビジョン(案)」が公表されました。
「GX2040ビジョン(案)」では、約30年続いた日本の停滞を打破する大きなチャンスとしてGXを捉えており、GX分野への大規模な投資を通じて革新的な事業を生み出し、高度な産業構造を構築していくという方針が示されています。具体的には、GX産業構造のポイントとして、以下の6つの取り組みが挙げられています。
- 企業経営・資本市場の制度改善:企業が社会課題の解決を通じた成長戦略を策定し、投資家や株主からも評価されることで、大胆な設備投資や研究開発投資、人材投資が促進されるような事業環境を整備する
- イノベーションの社会実装や政策協調:国内外の学術機関との提携を積極的に進め、新たな技術やビジネスモデルを商用化し、新たな産業を創出する
- 大企業からの積極的なカーブアウト:大企業や既存のサプライチェーンの中に眠っている可能性が高い未開拓の事業分野に切り込める人材・技術を独立させ、新たな産業として育成するための政策的支援を進める
- GX産業につながる市場創造:GXに関連する製品・サービスを積極的に調達できるような環境の整備や、GX分野のスタートアップの製品・サービスの調達を促すための支援を行う
- 中堅・中小企業のGX推進:中堅・中小企業がエネルギー消費量やCO2排出量の見える化を行えるように省エネ設備の導入を支援したり、GXに関する製品・サービスの開発や新事業への挑戦を支援したりする
- 新たな金融手法の活用:トランジション・ボンド(低炭素経済社会に転換するためのプロジェクトを資金使途とする債券)の発行や、GX機構による債務保証や出資などの金融支援を通じて、GX関連分野への投資を促進する
「分野別投資戦略(ver.2)(案)」で示された重点分野とは?
同じく第14回GX実行会議で公表された「分野別投資戦略(ver.2)(案)」では、GXを推進する上で特に重要となる16の分野が示されました。各分野におけるGXの方向性や投資を促進するための具体的施策などを以下にまとめています。
- 鉄鋼:脱炭素化に向けた製造プロセスの転換や新たな製造技術の開発・実装を加速し、「グリーンスチール」の供給を拡大する
- 化学:ケミカルリサイクルやバイオ原料・プロセスへの転換に投資することで原油由来のナフサを低減し、⾼機能かつ低炭素化学品の供給を拡大する
- 紙パルプ:紙の需要減少に伴う余剰分のパルプを、バイオマス素材・燃料に転換し、バイオリファイナリー産業へとトランスフォーメーションする
- セメント:石炭ボイラーからの燃料転換や、CO2の再利⽤技術の実装によるカーボンリサイクルセメントの⽣産拡⼤を目指す
- 自動車:電動車(EV・FCV・PHEV・HV)や合成燃料・バイオ燃料などの脱炭素燃料の開発・導入を促進するとともに、電動⾞に必要な充電・⽔素充てんインフラを整備する
- 蓄電池:需要拡大に伴って国内生産能力を確保するとともに、全固体電池などの次世代電池の実⽤化に向けた技術開発を加速させる
- 航空機:次世代航空機のコア技術(⽔素燃焼、⽔素燃料電池、⾶躍的な軽量化、ハイブリッド電動化など)を開発しつつ、設計・共同開発・飛行実証を進める
- 持続可能な航空燃料(SAF):製造能⼒や原料のサプライチェーンを確保し、国際競争⼒のある価格で安定的に供給できる体制を構築する
- 船舶:水素燃料船やアンモニア燃料船などのゼロエミッション船の普及と、国内生産基盤の構築を進める
- くらし:断熱窓への改修や高効率給湯器の導入、太陽光などの再エネや蓄電池の活用により、ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)やZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)を普及させる
- 資源循環:廃棄物の削減やリサイクルの促進、サーキュラーエコノミー(循環型経済)の実現に向けたインフラ整備と技術開発を行う
- 半導体:電⼒の制御や変換を担い省エネ・低消費電力化に貢献するパワー半導体の生産基盤構築や、電気と光で回線を構築する光電融合などの次世代技術の開発を促進する
- 水素等:幅広い分野での活用が見込まれる水素のサプライチェーン構築に向けた集中的な投資を促進するとともに、利⽤環境の整備を⾏う
- 次世代再生可能エネルギー:ペロブスカイト太陽電池、浮体式等洋上風力、次世代型地熱などの実用化に向けた技術開発と導入を支援する
- 原子力:高速炉や高温ガス炉といった次世代革新炉の開発・建設を促進し、原子力発電の安全性向上を目指す
- CCS(CO₂の分離・回収・貯留):削減しきれないCO2を地中に埋めるCCSの本格展開に向けたビジネスモデル構築や設備投資を進める
GXの取り組みが日本の将来を大きく変える
本記事でご紹介した通り、GXは日本経済の停滞を打破するチャンスとして捉えられています。政府も積極的に戦略を練りながら、企業や研究機関を支援する方針を打ち出している状況です。政府が公表するGX戦略を知ることで、これからの日本でどのような分野や企業が注目されるのかが見えてくるかもしれません。