昨今では、ローカル環境で高度なAI機能を活用できる「AI PC」に注目が集まっています。これまでのAIはクラウドサービスで活用するのが主流でしたが、ローカル環境でAI処理を完結できるAI PCによって、AIの活用シーンが大きく変わりつつある状況です。しかし、そもそもローカル環境でAIを動かせることには、どのようなメリット・デメリットがあるのでしょうか。そこで本記事では、AI PCでAIを活用するメリット・デメリットを簡単にまとめて解説いたします。
AI PCは、NPU(Neural Processing Unit)と呼ばれるAI処理に特化したプロセッサを搭載したことで、ローカル環境でもAIを高速に処理できるパソコンです。現在はMicrosoftが提唱するWindows OSベースの「Copilot+ PC」や、Appleの「Apple Intelligence」が動作するMacなどがAI PCとして認知されており、2024年から本格的に販売されています。
従来は、AIの高度な処理を行う場合はクラウドサーバーにデータを送付し、ネットワークを通じて結果を受け取るケースが大半でした。しかし、AI PCであれば、文章の生成や画像処理、翻訳などを自分の手元のパソコンだけで行えます。さまざまなAI機能を気軽に利用できる新ジャンルのパソコンとして、大きな注目を集めている状況です。
ここでは、AI PCでAIを活用するメリットについて解説いたします。
AI PCの最大の特長は、ネットワークを介さずにローカル環境でAI処理を実行できる点にあります。クラウドサービスでAIを利用する場合、ネットワークの通信速度やクラウドサーバーの負荷次第で処理が遅延することが少なくありません。しかし、AI PCの場合はNPUを活用して自分のパソコン内部でAI処理を実行できるため、上述した原因による遅延が発生しにくいのです。これにより、画像処理や自然言語生成などの処理をより短時間でこなすことが可能になります。通信環境を気にせずに、いつでも・どこでも高速なAI機能を活用して業務効率化などを実現できる点が、AI PCの大きなメリットといえるでしょう。
クラウドサーバーにデータを送信せず、ローカルのみでAI処理を行えることは、セキュリティの観点でも大きなメリットとなります。特に、個人情報や社外秘のデータを扱う場合、クラウドへのアップロードには少なからずセキュリティリスクが伴います。そのため、サイバー犯罪を懸念する企業や組織にとって、AI PCでのローカル処理は情報漏洩のリスクを最小化する有効な選択肢の一つとなるでしょう。社内規定やコンプライアンスが厳格に定められている環境では、ローカル環境で業務を完結できるAI PCの導入が魅力的に感じられるはずです。
OSやハードウェアによっては、AI PCならではの新機能が提供されはじめています。たとえば、Microsoftは「Copilot+ PC」の注目機能として「Recall(リコール)」と呼ばれる機能を発表しています。「Recall」はパソコンの画面上に映っていた情報を自動で記憶しておき、後から検索することで、過去に閲覧したテキストやファイルを素早く呼び出せる機能です。このように、クラウドサーバーでの処理が前提のAIでは実現しづらい、ローカル環境ならではの検索機能や連携が可能になる点も、AI PCの大きな魅力の一つです。今後は、各社からさらに多様なAI機能が開発・提供されると考えられています。
次に、AI PCでAIを活用するデメリットについても解説いたします。
AI PCは従来のパソコンに比べてNPUを搭載していたり、AI処理に最適化されたメモリやストレージが必要になったりするため、端末自体の価格が高くなる傾向にあります。特に、ノートパソコンタイプのAI PCは、コンパクトな筐体に高性能なチップを搭載しなければならないため、比較的高価になりやすいです。ローカル環境でAIを活用する明確なニーズがなければ、せっかく導入しても十分に性能を引き出せず、初期投資を回収できなくなる恐れがあります。費用対効果を十分に検討しなければ宝の持ち腐れになりかねない点には注意が必要です。
AI PCはクラウドサーバーほどの性能を発揮できない点もデメリットです。クラウドサービスでは高性能なサーバーが何十台も並ぶデータセンターで処理されるため、膨大なデータであっても高速かつ並列に処理できますが、ローカルのパソコンには当然そこまでの性能はありません。そのため、ビッグデータの解析やAI処理を行いたい場合はクラウドサービスを利用したほうが効率的です。AI PCが処理できる範囲はあくまでも小〜中規模なものであることを理解しておきましょう。
AI PCはローカル環境でAIを活用でき、非常に利便性が高いものですが、現時点では全員におすすめできるものではありません。「ローカル環境でAIを活用する必要性がどれほどあるのか」「AIを使うことで実際に業務効率化やコスト削減につながるのか」といった点を十分に検討する必要があります。すでに日常的にAIを使っていて、機密データを外部に出したくないといった明確なニーズがある場合は、AI PCが有効な選択肢となるでしょう。一方で、AIを試しに使ってみたいといった状況であれば、一般的な性能のパソコンとクラウドサービスの組み合わせでも十分でしょう。AI PCならではのメリットとデメリットを正確に把握し、自分や自社の目的・用途をしっかりと考えたうえで導入を検討してください。