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「観測可能性(Observability)」の時代へ ITシステムの可視化と最適化の未来

レンテックインサイト編集部

「観測可能性(Observability)」の時代へ ITシステムの可視化と最適化の未来

近年、クラウド化やマイクロサービスの普及によりサービスの可用性が高まる一方、従来のモニタリングでは対応しきれないインシデントや問題が発生するケースも。そこで注目されているのが「Observability(観測可能性)」です。本記事では、Observabilityの基本概念や従来のモニタリングとの違い、導入のポイント、主要ツールの特性などについて、分かりやすく解説します。

観測可能性(Observability)とは?従来のモニタリングとは何が違うのか

観測可能性(Observability)とは、‟ITシステムの内部状態をリアルタイムで把握し、分析・最適化を可能にする能力の度合いおよびそのために用いられる技術”です。

近年、クラウド環境やマイクロサービスアーキテクチャの普及により、システムの複雑性が増しており、従来のモニタリングでは対応が難しくなったことを背景に、Observabilityの重要性が高まっています。

観測可能性(Observability)と従来のモニタリングとの違い

従来の監視(モニタリング)が事前定義された指標の監視に留まるのに対し、Observabilityはシステム全体のデータを活用し、障害の根本原因を特定するアプローチを取ります。

項目 従来のモニタリング Observability
目的 事前定義された指標の監視 システム全体の挙動を理解し、未知の問題にも対応
主要データ メトリクス中心 メトリクス、ログ、トレースの統合分析
主な活用例 しきい値超過のアラート 障害原因の特定、パフォーマンス最適化

従来のモニタリングは、特定の指標(CPU使用率、メモリ使用量、レスポンス時間など)を監視し、事前に設定されたしきい値を超えた場合にアラートを発する仕組みが中心でした。しかし、Observabilityはそれを超え、システム全体の振る舞いを可視化し、未知の問題にも対応できる点が特徴です。 そのための指標として用いられるのが、メトリクス、ログ、トレースといったデータ要素です。

メトリクス(Metrics):CPU使用率、リクエスト数、メモリ消費量などの数値データを収集し、システムの健全性を監視する。トレンド分析や異常検知に有効。

ログ(Logs):システム内で発生したイベントを記録し、障害の詳細な原因を特定するために活用。エラーログやアクセスログなどが含まれる。

トレース(Traces):アプリケーションの処理フローを可視化し、リクエストがどのコンポーネントを経由しているかを把握。特にマイクロサービス環境でのボトルネックの特定に有効。

ITシステムの複雑化とObservabilityの重要性

近年、ITシステムは急速に複雑化しています。特に、クラウドや分散アーキテクチャの普及により、従来の単一サーバー環境とは異なり、多数のコンポーネントが相互に連携しながら動作するようになりました。その結果生じたのが、以下のような状況です。

・クラウド化 : サーバーレス、コンテナ、Kubernetesなどの活用が進み、動的なリソース管理が必要に。
・分散アーキテクチャ : マイクロサービス化により、システムの依存関係が複雑化し、一ノードの障害が全体に影響を及ぼす可能性が増加。
・リアルタイム分析の必要性 : ユーザーの要求に即座に対応し、障害発生時の影響を最小限に抑えるために、高度な可視化と分析が求められる。

Observabilityを実現することで、これらの課題に対応し、システムのパフォーマンス向上や障害対応の迅速化を実現できます。

Observabilityを実現するための主要ツールと活用ケース

Observabilityを実現するためには、システムの挙動を可視化し、リアルタイムで分析できるツールが不可欠です。具体的なツールと、それぞれの特性を見ていきましょう。

・Prometheus:オープンソースの監視・アラートツールで、メトリクス収集に特化。Kubernetesなどのクラウドネイティブ環境で広く利用されている。
・Grafana:ダッシュボードを使ったデータ可視化ツール。Prometheusなどと連携し、システムのリアルタイムモニタリングを可能にする。
・Datadog:インフラ、アプリケーション、ログを統合管理できるObservabilityプラットフォーム。クラウド環境との親和性が高い。
・New Relic:アプリケーションパフォーマンス監視(APM)を中心に、システム全体の健全性をリアルタイムで把握できるObservabilityプラットフォーム。

上記のようなツールを組み合わせてObservabilityを実現することで、例えば以下のケースのような課題解決につながると考えられます。

大手ストリーミングサービス企業のケース

<課題>

特定の時間帯にユーザーアクセスが集中し、映像の遅延やバッファリングが発生。従来のモニタリングでは、インフラ負荷の増加は検知できたものの、どのユーザー層で影響が出ているかの特定が困難だった。

<取り組み>

トレース分析を活用し、視聴地域別のレスポンスをリアルタイムで可視化。問題が特定のネットワークプロバイダ経由のユーザーに集中していることを発見し、CDN(Content Delivery Network)の最適化を実施した。

<効果>

影響を受けるユーザー層の特定が早まり、ピンポイントな対策を行えたことで、視聴中断率が低減。カスタマーサポートへの問い合わせ件数も減らすことができた。

EC物流企業のケース

<課題>

大規模な物流拠点の管理システムで、入出庫処理の遅延が発生し、配送のスケジュールに影響。従来の監視手法では、システムの稼働状況を把握できても、どのプロセスがボトルネックになっているかが特定できなかった。

<取り組み>

メトリクスとログを組み合わせ、倉庫内の各プロセスの処理時間を詳細に分析。特に、バーコードスキャナの応答時間と在庫管理システムの処理待ち時間に問題があることを特定し、ハードウエアの最適化を実施した。

<効果>

入出庫の処理時間が短縮され、配送の正確性と迅速性が向上。結果として、顧客満足度の向上と業務効率の改善につながった。

Observabilityツール選定の3ポイントと代表的なツールの特性

Observabilityの実現には、自社のシステムに適したツールの選定が重要です。適切なツールを選ぶことで、システムの可視性を向上させ、障害対応やパフォーマンス最適化をスムーズに進めることができます。そこで押さえるべきなのが、以下の三つのポイントです。

【1】既存の監視ツールとの統合

Observabilityの導入はゼロからではなく、既存の監視ツールと連携して段階的に行われるケースが少なくありません。その際には、以下の点を確認することが重要です。

・既存のログ管理ツールやAPM(アプリケーションパフォーマンス監視)ツールと統合できるか
・クラウド環境(AWS、Azure、GCP)やオンプレミス環境との互換性があるか
・異なるデータフォーマット(JSON、Syslog)やObservability標準規格(OpenTelemetry)に対応し、統合的にデータを収集・解析できるか

【2】スケーラビリティの高さ

企業のシステムは日々進化し、利用ユーザー数の増加やサービスの拡大により、監視対象が増えていきます。そのため、ツールが将来的なシステム拡張に対応できるか(スケーラビリティ)を検討する必要があります。

・大規模環境への適用可否:増加するログやメトリクスデータをスケールアウトして処理可能か
・分散システム対応:マイクロサービスアーキテクチャを採用している場合、コンテナやKubernetes環境に適応できるか

【3】運用負荷の大きさ

Observabilityツールの導入は、監視強化と同時に運用負荷を増やす可能性もあります。適切なツールを選定し、運用負荷を抑えることが求められます。

・データ収集・可視化の自動化:ダッシュボードの作成方法は分かりやすいか
・アラートの柔軟性:不要なアラート(ノイズ)を減らし、適切な異常検知が行えるか
・メンテナンス性:定期的なアップデートやカスタマイズは容易に行えるか

また、前述のObservabilityを実現するための代表的なツールの特徴を整理すると、以下のようになります。あくまで一部の例ではありますが、こうした特性を踏まえて各ツールを選定、あるいは適切に組み合わせることが重要です。

ツール 特徴 適用環境
Prometheus 時系列データ収集に特化。オープンソースでカスタマイズ性が高い。 マイクロサービス環境
Grafana 可視化ダッシュボードの作成が容易。Prometheusと連携可能。 リアルタイムデータ可視化が必要な場合
Datadog 統合型監視ツール。ログ、メトリクス、トレースを一元管理可能。クラウド環境での導入が容易。 大規模クラウド環境
New Relic フルスタックのObservability機能を提供。APMに強み。 アプリケーションの性能監視

システム複雑化の課題を解くため、Observabilityが不可欠に 「障害の原因が特定できない」「問題が発生しても対処が後手に回る」。

システムの複雑化が進む中、こうした課題を抱える企業は増加傾向にあります。Observabilityは、システムの状態をより深く理解し、未知の問題にも柔軟に対応できる環境を整えるための技術であり、そのための指標でもあります。ぜひ自社の課題に合ったObservability戦略を検討し、安定したシステム運用を実現してください。

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