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AIデータセンターへの投資が国内でも活発化

レンテックインサイト編集部

AIデータセンターへの投資が国内でも活発化

 AIデータセンター/サーバーへの投資が日本でも拡大しています。国が整備を支援しており、AI開発の重要インフラとして、今後投資がさらに拡大するとみられています。中核となるAI処理用の半導体にはエヌビディア製品がほぼ全社で採用されており、この牙城を崩すには、チップ性能だけでなく、ソフトウエアを含む総合力が求められています。

 こうした背景の一つに生成AI市場の拡大があります。生成AIの市場は2023年に一気に拡大し、2024年もその勢いは増しています。JEITA(電子情報技術産業協会)は、生成AIの世界市場が2023年の106億ドルから2030年には約20倍の2110億ドルに達すると予測しています。こうした生成AI市場の拡大に合わせて、計算基盤となるAIデータセンターの整備がグローバルで進んでおり、GPUなどを搭載したAIサーバーの需要が急伸。サーバー製品などを手がけるSuperMicroの業績を見ると、2024年6月期通期の売上高が前期比2.1倍の149億ドルに拡大し、2025年6月期は売上高が260億~300億ドルまで伸長すると予想しています。

 日本においても、2022年末に経済安全保障推進法における特定重要物資の一つとしてクラウドプログラムが指定され、AI計算基盤の整備を国として支援する方針が示されました。こうした流れを受けて、企業による投資計画も複数発表されており、通信大手のソフトバンクはAI計算基盤の拡大に向けて約1500億円の設備投資を計画。同じく通信大手のKDDIも、生成AI開発用の大規模計算基盤の整備に、4年間で1000億円規模の投資を計画しています。また、マイクロソフトは、日本におけるAIおよびクラウド基盤の増強に2年間で29億ドルの投資を計画。オラクルも日本市場において、AIやクラウドインフラなどに10年間で80億ドル以上の投資を計画するなど、海外企業によるプロジェクトも出てきています。

各社がエヌビディア製品を採用

 こうしたAIデータセンターの整備を計画している企業の多くが、サーバーの中核デバイスとしてエヌビディアの高性能GPUを活用しています。しかし、需要が急増しているエヌビディア製品は入手困難な状況が続いており、電力低減などの面からスタートアップ企業のAIチップの採用を検討する動きや、海外では大手IT企業による半導体の内製化の動きも出てきています。一方で、クラウドサービスを展開する企業などからは「エヌビディア製品が中核となるトレンドは、少なくとも数年は続く」という声が聞かれます。その理由として挙がったのが、エヌビディアが2007年から提供している「CUDA」(GPUをグラフィック処理以外の汎用の計算用途に使えるようにするための統合開発環境)です。

 現在、生成AIのモデル作成において、深層学習モデルの「Transformer」や、フレームワークとして「PyTorch」などが活用されていますが、「TransformerやPyTorchは、CUDAと親和性が高い。そのためエヌビディアの製品であればAIモデルが確実に動作する」(国内クラウドサービス事業者)といいます。

 つまり、AIデータセンター/サーバーには、処理能力の高さや消費電力の低さといった要素以上に、生成AIモデル開発者が使いやすい計算基盤であることが求められ、「エヌビディア製品に比べて消費電力が低く、処理性能が高いAI半導体も出てきているが、CUDAをはじめとしたソフトウエアも含めた総合力ではエヌビディアが抜けている。また、エヌビディアがCUDAの提供を開始してから15年以上経っているため関連するツールも充実しており、CUDA関連のエンジニアも多くいる」(同)という状況であるため、AIクラウド関連の事業者はエヌビディア製品を採用するというわけです。

 現在、大手IT企業が自社でデータセンター向けのAI半導体の開発を進めていますが、一方でアマゾン、グーグル、マイクロソフトは、エヌビディアの新アーキテクチャー「Blackwell」を用いたシステムを構築する方針を示しています。AIチップのスタートアップ企業などでは、CUDAの代替ソフトを含めたエコシステムの構築に時間と投資が必要です。こうした状況から、ソフトウエアも含めたエヌビディアのエコシステムを打破するには、まだ時間を要することになりそうです。

 各社が採用を公表しているBlackwellは、エヌビディアが2022年に発表した「Hopper」の後継となるGPU向けの新アーキテクチャーです。Blackwellアーキテクチャーを用いたGPU「B200」は、1040億個のトランジスタを構築したダイを10TB/秒のチップ間リンクで二つ接続して一つのパッケージに統合した構造で、2080億個のトランジスタを搭載しており、製造はTSMCの4NPプロセスを用います。現在データセンター向けのGPUとして採用されている「H100」と比べて、B200は2~3倍の性能を有します。そしてB200とエヌビディアのCPU「Grace」を組み合わせた「GB200」は、H100の約6倍の性能を発揮でき、さらに処理するAIモデルが高度なものであればH100に比べて最大30倍の性能を実現できます。

 BlackwellアーキテクチャーのGPUを搭載したシステムを用いることで、LLM(大規模言語モデル)のトレーニング時間を短縮できます。また、BlackwellアーキテクチャーのGPUであれば、最大10兆のパラメーターにスケールアップするモデルのAIトレーニングとリアルタイムLLM推論が可能で、LLM推論の運用コストとエネルギーを最大1/25に削減できます。そのため、これまでのシステムでは対応が難しかった超大規模なAIモデルでも現実的な時間の中でトレーニングすることが可能となります。

スタートアップ企業が開発を加速

 一方で、打倒エヌビディアに向けてAI半導体を手がける海外スタートアップ企業の勢いが増しています。大規模な資金調達を行う企業やイグジットする企業も増えており、AI市場の拡大に伴い、今後さらなる成長が見込まれています。

 近年、AIスタートアップ企業にはベンチャー投資会社などから多くの資金が投入されており、AI半導体を手がける企業にも同様の傾向が見られます。直近でも独自のAI半導体「LPU」(Language Processor Unit)を手がけるGroqが2024年8月に6億4000万ドルの出資を得ました。また、AI処理に用いる世界最大サイズの半導体を展開するCerebrasは、IPO(新規上場)に向けて2024年7月末に米国証券取引委員会に書類を提出しました。

 AI半導体スタートアップ企業は、独自チップを活用したシステムやソリューションを提供するビジネスも強化しています。GroqはLPUをベースにした開発者向けの垂直統合型AI推論プラットフォーム「GroqCloud」を提供しており、利用する開発者は36万人を突破。Cerebrasも、独自半導体を搭載した大規模並列システムによるAIクラウドコンピューティングサービスが、事業の拡大に大きく貢献しています。ほかにもSambaNovaが独自のAI半導体を用いたシステムを展開しており、理化学研究所などに採用されています。そして、こうしたサービスの展開には、インフラの整備に向けた資金が必要となることから、IPOを含めた資金調達が活発化しているようです。

 AI半導体スタートアップ企業に絡んだM&Aも出てきており、2024年7月にソフトバンクグループが、AIプロセッサー事業を展開するGraphcoreを買収しました。Graphcoreは、AI計算に特化したプロセッサー「IPU」(Intelligent Processing Unit)を開発しており、ソフトバンクグループは、AI領域における展開を強化する中、Graphcoreの買収によって半導体分野のグループ群を拡充する考えです。

TSMCの業績をAIが牽引

 生産面で見ると、AI半導体スタートアップ企業の多くは、製造委託先としてTSMCを選んでいます。TSMCはAI関連が好調で2024年7月の売上高が単月ベースで過去最高を記録するなど、AI半導体関連で高シェアを誇るエヌビディアだけでなく、スタートアップ企業の需要も確実に取り込んでいます。ファンドリー事業を強化しているサムスン電子も複数のAI半導体スタートアップ企業に出資しており、前述のGroqとは次世代LPUの製造に関するパートナー契約を締結しています。また、2027年の量産開始を目指すRapidusもTenstorrentやEsperanto TechnologiesといったAI半導体スタートアップ企業と連携しています。

 現在、AI半導体は、データセンター/サーバー向けで主に使用されていますが、PCやスマートフォンなどにAIを実装するオンデバイスAI市場の拡大に伴い、AI半導体を手がけるスタートアップ企業の重要度がさらに増し、大手企業によるM&Aなどがさらに拡大することも予想されています。M&Aの好例としては、クアルコムが2021年に実施したNUVIAの買収が挙げられます。NUVIAは高性能チップ開発を手がける2019年設立の企業で、クアルコムはNUVIAの技術などを活用したAI PC用SoC「Snapdragon X Elite」を2023年10月に発表しました。現在、Copilot+ PC向けなどで引き合いが拡大しており、クアルコムにおける新たな成長事業として期待が高まっています。

 一方、クアルコムとNUVIAの取り組みは懸念も出てきています。NUVIAへライセンスを提供していたArmが、クアルコムがNUVIAの技術を活用するためにはArmの許可が必要であると主張しており、NUVIAとArmのライセンス提携のもとで開発された設計をクアルコムは破棄すべきとして訴訟を起こしているためです(クアルコムもArmの主張を不当とし反訴を提起)。AI半導体スタートアップ企業に関する動きが活発化する中、M&Aや共同開発などが拡大した場合、こうした設計技術に関する問題が増えてくることも予想されています。

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