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AIやPC分野で攻勢をかけるクアルコム

レンテックインサイト編集部

AIやPC分野で攻勢をかけるクアルコム

 クアルコムは、スマートフォンを中心としたモバイル分野向けに、優れた技術優位性、幅広い製品ラインアップを持つモバイルプロセッサー「Snapdragon」シリーズを展開しており、モバイルプロセッサー市場において圧倒的なトップシェアを有しています。2023年9月には、アップルと新たな供給契約を締結。アップルが2024年、2025年、2026年に発売するスマートフォン向けにクアルコム製の5G対応モデムチップが供給されます。ちなみに、クアルコムとアップルは、2017~2019年に特許侵害などをめぐる法廷闘争を展開していました。その前段階となる2016年にアップルはiPhoneの一部機種でインテル製モデムチップを採用。その後、クアルコムに対する特許使用料の支払いを停止し、2018年にはiPhoneにおいてクアルコム製品の使用を完全に停止しました。しかし、インテルが5Gモデムチップの開発で遅れをとったことなどから、アップルとクアルコムは2019年4月にすべての訴訟を取り下げて和解。アップルがクアルコムに対してライセンス料を支払うことで合意し、2020年に発売された5G対応iPhoneにはクアルコムのモデムチップが採用されました。

M&Aを積極的に推進

 クアルコムは2023年5月、半導体ファブレス企業のAutotalks(イスラエル)を買収すると発表しました(買収額は非公表)。Autotalksは車車間・路車間(V2X)通信用のチップセットに強みを有し、クアルコムは本件を通じて車載・交通インフラ関連向けの製品群を拡充しています。Autotalksは2008年に設立された企業で、V2Xチップセット市場のパイオニアとして、優れたセキュリティと性能を有する最先端V2X通信ソリューションを提供しています。同社のV2X用チップセットを搭載することで、自動運転に必要な各種センサーからの情報を補完して安全性、接続性、信頼性の高いコネクテッドカーが実現でき、衝突事故の減少やモビリティー性能の向上に寄与します。クアルコムは2017年からV2Xの研究開発に投資しており、自動運転などに加え、スマート交通システムにもV2X技術が必要になると見ています。その中で、Autotalksを買収することで、先端のV2X技術を取り込むとともに、クアルコムの2020年にわたる自動車業界での経験とAutotalksのV2X技術を融合することで、新たなV2Xソリューションを創出し、ドライバーや道路利用者の安全性向上に貢献することを目指しています。

 また、2022年6月には、Cellwize Wireless Technologies Pteの買収を発表しました。Cellwize社はモバイルネットワークの自動化とマネジメントのリーディングカンパニーで、Cellwize社の5Gネットワーク展開、自動管理ソフトウエアプラットフォームによって、クアルコムの有する5Gインフラストラクチャソリューションを強化しています。

PC向けのSoCを発表

 クアルコムは2023年10月に開催された年次イベント「Snapdragon Summit 2023」で、PC向けの新SoCなど新製品・新技術を複数発表しました。その発表の中で大きな注目を集めたのが「Snapdragon X Elite」。AI向けに構築されたPC用SoC(System on Chip)で、130億を超えるパラメーターを持つ生成AIモデルをオンデバイスで実行でき、競合他社に比べて4.5倍のAI処理性能を備えます。CPUには新たに開発した「Oryon」を搭載。そして Oryonには NUVIA(米カリフォルニア州サンタクララ)の技術が活用されており、競合他社と比べてCPU性能は最大2倍、消費電力は1/3を実現しました。

 NUVIAは、クアルコムが2021年1月に買収を発表した企業です(買収額は約14億ドル)。NUVIAは2019年2月に設立され、創業メンバーはアップル、グーグル、ブロードコム、AMDなどで20種以上のチップ開発に携わった経歴を持ち、これまでに100件以上の特許を取得した実績を持ちます。

AI関連の取り組みを拡大

 2023年5月には、Snapdragonコンピューティング プラットフォーム上で実行される生成AIと、Snapdragon搭載のWindows11 PC上でオンデバイスAIアプリケーションを構築するための開発者向け環境を新たに発表しました。開発者とクラウドサービスプロバイダーは、デバイス上での生成AIソリューションにより、クエリと推論をPCやスマートフォンなどのエッジデバイスに移し、生成AIをより利用しやすい価格で信頼性の高い、プライベートなものにすることが可能です。

 このほか2023年11月には、クアルコムと、組み込みシステムなどの開発を行うサンダーソフト(ThunderSoft、中国・北京市)の合弁会社であるサンダーコム(Thundercomm、米サンディエゴ)が、大規模言語モデル(LLM)をIoTエッジデバイスに実装できる「ThunderSoft Rubik LLM」を開発しました。開発品は、サンダーコムの「TurboX C8550」(クアルコムのハイエンドSoC「QCS8550」を搭載した高性能なシステムオンモジュール)に実装。TurboXシリーズは、遅延のないスムーズな操作と迅速なデータ解析を実現でき、LLMを実装することで、エンドユーザー向けに多様な機能を提供できます。音声認識機能や自然言語処理機能の向上が見込まれており、高度なスマートスピーカーや音声アシスタントデバイスの開発が可能となります。また、リアルタイムの画像処理、顔認識、動画生成を、セキュリティカメラやドライブレコーダーの運転支援機能の開発などにも応用できます。海外ではすでに活用が進んでおり、AMR(自律移動型ロボット)に音声対話機能などを実装した事例があります。現在、株式会社マクニカなどの販売パートナーと提携を強化し、顧客企業との共同開発も進めています。

 クアルコムは、圧倒的なシェアを有するモバイルプロセッサーをベースに、前述のようなPCやAIでも攻勢をかけ、さらなる事業の拡大を図る考えです。

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