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連載「フカヨミ 製造業界の今を切り取る」個人的に注目しているFA・自動化のニッチな技術トレンド

レンテックインサイト編集部

  レンテック・インサイト連載2回目は、個人的に注目している2021年のFA・自動化の技術トレンドについて触れていきたいと思います。

DX、デジタル化の裏で広がるユニークな技術

 2021年の製造業のトレンドは、これまでに続いてデジタル化やDX(デジタルトランスフォーメーション)が中心になっていくのは間違いありません。それに関連して、ロボットやAI、IoTの製品とサービス、ソリューションが市場を賑わし、特に協働ロボットやAIを使った予知保全、遠隔監視、シミュレーションなどが注目を集めるでしょう。
 とは言え、いまさらそんな当然のトレンドを後追いしても面白くありません。そこで今回はちょっと頭をひねって、デジタル化やDXの陰に隠れながら、それでも現場の自動化や省力化、効率化に役立つであろう、ニッチなところで盛り上がっている技術トレンドをご紹介します。

省配線だけじゃないPoEのメリット

 1つ目の注目技術は「PoE(Power over Ethernet)」です。
 PoEはEthernetケーブルで電力供給ができる技術で、要は電力と通信用の2本のケーブルが必要だったところが1本にできるという技術です。こう聞くと、省配線になるからネットワーク構築や配線作業に便利になることがメリットと考えがちですが、ここでは違います。
 PoEに注目している理由は、電力+通信を使った「制御・監視・センシング」。PoEに対応し、PoEで接続された機器であれば簡単に制御・監視・センシングが可能になります。通常、機器の制御や監視をするには、それ用に特別な機能や機器を加える必要がありますが、PoEではそれが必要ありません。簡単手軽に制御も含めたIoT環境が構築できてしまう。それがPoEのメリットです。
 いまのところPoEは小電力で動く監視カメラや照明、ネットワークスイッチ等で使われていますが、2018年には最大90Wまで電力供給が可能な「PoE++」という規格が誕生しています。90WあればPoEでコンピュータを動かすこともでき、そうなるとコンピュータを内蔵したスマート機器やIoTなどにもその用途は広がります。
  安定した通信と電力供給が可能だが、ケーブルが2本必要だった従来の有線と、通信と電力供給には不安があるが、ケーブルが必要ない無線・ワイヤレス。さらにここに、安定した通信・電力供給が可能で、しかもケーブルは省配線仕様のPoEが加わって来たのが今の状況。第3のネットワークインフラとしてPoEに注目しています。

止まらない工場・データ信頼性を支えるUPS

 2つの注目技術が「UPS(無停電電源装置)」です。UPSはすでに普及している技術で、いまさらUPSに注目しているのかと言われそうですが、私としては「今だからこそUPS」なのです。
その理由は、DXやスマートファクトリー、止まらない工場などがトレンドになり、データやAI活用が叫ばれていますが、それを本当に実現しようと思ったら「電力を絶え間なく届けること」が大前提として必要になります。DXや止まらない工場は強固で安定したインフラがあってこそ初めて成り立つ。その重要性が高まっている今だからこそ、電力の供給を止めないためのセーフティネット、万が一停電してしまっても、データを保存して守る、機械を正常にシャットダウンできる間を作るUPSが重要だと考えます。
 特にDXに関連した話で言えば、AIなどデータを現場で活用していくためには、収集するデータの正確性が重要になります。いわば「データの信頼性」です。例えば、瞬停や停電でデータが欠損すると、それだけでデータの信頼性は落ち、それを使って動くAIの能力は下がります。不十分なデータであってもAIが推測して補完するから大丈夫だというものもありますが、果たしてそれを鵜呑みにして信頼してもいいのでしょうか。重要なのは、データを損なわず、すべて収集すること。これだけでもUPSの重要性を理解できると思います。
 これまでUPSは電力や水道ガス、病院やデータセンターなど社会インフラや施設向けに普及してきました。しかしここに来て、UPSメーカーが工場や製造現場の生産装置やデータ収集装置向けの産業用の小型UPSを出してきています。いまコロナ禍でメーカーは自社の事業継続、いわゆるBCPに力を入れており、それに関連した設備投資を増やしている状況です。UPSもその範囲に含まれる製品であり、需要は拡大傾向。いまさらながらUPSに注目です。

是か非か ラズパイの産業活用

 そして最後は「ラズベリーパイ(RaspberryPi、通称ラズパイ)」です。皆さまのなかでも趣味で楽しんでいる方もいらっしゃると思いますが、そのラズパイを産業分野で使えないかという話題が一部で盛り上がっています。
 ラズパイは、コンピュータに必要なCPUや各種インターフェースを1枚の基板上に集約した超小型コンピュータで、シングルボードコンピュータの一種です。もともとはイギリスのラズベリーパイ財団が子供向けの教育向けに開発したものですが、数千円で購入できる手軽さと、プログラムを組めば様々なものを動かすコントローラーとして使えることから、電子工作を趣味にする人や技術者の勉強や遊び道具として大人の間でも大流行しています。センサやモータ、アクチュエータ等と組み合わせ、IoT機器やロボットなど色々なものが作られています。
 特に最近は愛好家の一部で「ラズパイのPLC化」がブームで、OpenPLCやCODESYS等のソフトPLCをラズパイにインストールしてシーケンス制御を行うことが流行し、専門誌がラズパイPLC化の特集を組んだりしています。これまでPLCやシーケンス制御といえばFA業界特有のものでしたが、ラズパイPLC化を機に、あらためてその制御技術に触れてみようという人が増えてきています。
 その一方で、PLCやシーケンス制御の専門家であるFA技術者のなかにもラズパイ愛好者は多く、製造現場でラズパイを使ってみる、ラズパイで制御機器を作ってみるといった例が出てきています。「すぐに壊れてダメ。信頼性が重要な産業用ではラズパイは使えない」「安く手軽に現場で使えるツールが作れて便利。壊れたら変えれば良い」と評価は二分していますが、ラズパイは製造現場で使える/使えないの議論は盛り上がっており、注目度は高め。
 また、ヨーロッパ系のメーカーではラズパイの産業利用はすでに視野に入っており、一部の制御機器メーカーは産業利用に仕様を合わせた産業用ラズパイを発売しています。通常のラズパイとは大きな価格差がありますが、現場で使えるラズパイとして話題になっています。
 業界内外でユーザーが増え、産業用に特化した製品も出てきていることから、2021年はラズパイの産業利用がはじまるのではと期待しています。

 このほかにもラズパイの中でも触れたソフトウェアベースのPLCであるソフトPLC、保守・保全業務の効率化を目指して推進している「スマート保安」に関連して、スマートグラスやドローンの産業活用など、まだまだたくさんあります。そうしたユニークな技術はまた別の機会にご紹介できればと思っています。

■著者プロフィール
剱持知久
オートメーション新聞 編集長/ものづくり.jp株式会社 代表取締役 
1975年群馬県生まれ。明治大学院修了後、エレクトロニクス業界専門紙・電波新聞社入社。2007年に日最大の製造業ポータルサイト「イプロス」で編集長を務める。2015年3月〜FA・制御・自動化、製造業DXの専門メディア「オートメーション新聞」編集長(現職)となり、2016年に製造業に特化したWEBサービスを展開するスタートアップ・株式会社アペルザの立ち上げに参加。2016〜18年「ものづくりニュース by aperza」編集長。2020年に独立し「ものづくり.jp株式会社」を設立。日本の製造業の利益創出をテーマに取材活動を行っている。趣味は釣り。

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