組織の意思決定において、従来のKKD(勘・経験・度胸)に基づいたアプローチは、データやエビデンスに基づいたものに移行しなければならないと言われています。しかし、経営判断や生産管理、マーケティングなど上流の意思決定と比べ、現場での判断や戦略決定には、まだまだ十分にデータが用いられていないことも多いのではないでしょうか。
そこで今、企業に求められているのが「データの民主化」です。データの民主化とは何か、なぜ今データの民主化が求められるのか、具体的にどのようなプラットフォームやツールが必要となるのか。
こうしたポイントについて、分かりやすくご紹介します。
「データの民主化」とは、企業や組織内のすべての従業員が部門や役職にかかわらずデータへのアクセス権を持ち、理解した上で業務に活用できる状態を実現することです。
データの民主化は単なるデータの共有とは異なり、誰にでも活用しやすく設計された共通の情報プラットフォームやBIツール、困った際に頼れるガイドラインやヘルプデスクなどを用意し、データの利活用が組織全体で可能になる仕組みと文化を確立することを意味します。
その達成により企業が得られるメリットとしては以下のようなものが挙げられます。
データの民主化により、意思決定の際に必要な情報をすぐに取得できるため、上司や各部門に確認を依頼する時間が省略されます。また、感覚や経験に頼る意思決定から脱却し、データに裏付けされた客観的な判断が広まります。
従業員のデータリテラシーが高まることで、自身の業務に関連する課題を、データを使って分析し、改善策を講じることが可能になります。例えば、データを用いて自身の業務効率を客観的に把握する環境が整えば、管理職の負担減や業務生産性の向上にもつながります。
異なる部門間のデータを参照可能になり、データという共通言語ができることで既存の枠にとらわれないアイデアが生まれる土壌が形成されます。また、従業員同士の協働も容易になります。
特定の役職や部門に独占されることなく全従業員が必要なデータにアクセスできる環境を整えることで、不公平感の解消や組織の意思決定への納得につながります。その結果、従業員のエンゲージメントの向上や連帯感の醸成においてもプラスの効果を発揮すると考えられます。
現在、データの民主化に注目が集まっているのには、テクノロジーの発展と企業が組織文化を入れ替える必要性の高まりという二つの要素が大きく影響しています。
クラウド技術の進展により、大量のデータを低コストで一元管理し、どこからでもアクセス可能な環境が整いました。さらに、人工知能(AI)やビジネスインテリジェンス(BI)ツールが進化し、非技術者も自然言語でデータを収集し、加工、分析できる可能性が広がりました。
また、データが部門ごとにサイロ化(分断、隔離されること)したり、個人の直感や意見に頼った判断が蔓延したりといった問題を解決し、データドリブンな組織に生まれ変わる必要性が多くの企業で叫ばれています。
そのような状況でデータの民主化が求められるのは必然的な流れといえるでしょう。
データの民主化を実現するには、どのような技術的な基盤やツールが必要なのでしょうか。以下に、データの民主化を支える主要なプラットフォームとその機能について詳しく解説します。
データウエアハウス(DWH)やデータレイクは、データの民主化を実現するための基盤となるプラットフォームを構成する技術です。これらのデータプラットフォームは、異なる部門やシステムに分散しているデータを一元化し、統合的に管理します。
売上データや顧客情報などを構造化データとして集約し、分類・整理・タグ付けなどして使いやすい形で格納するデータベースです。ここからデータを呼び出し、加工・分析して業務に活用します。
データウエアハウスより柔軟性が高く、構造化データだけでなく、半構造化データや非構造化データ(SNSの投稿やセンサー情報など)も格納できるデータベースです。機械学習のデータセットなど非構造化データの活用が活発化する中で、より重要性を高めています。
データウエアハウスやデータレイクなどの活用について詳しくは、下記記事もぜひご一読ください。
・データウエアハウス(DWH)、データレイク、データマートは何が違うのかデータの民主化を実現するには、データを全従業員が「活用できる」環境を用意することが不可欠です。それには、セルフサービス型のBIツールやAIを搭載したデータ分析ツールの導入が有効です。
Tableau、Power BI、LookerなどのBIツールは、データを可視化し、簡単に加工できる環境を提供します。これにより、従業員は高度なデータ操作やプログラミングの知見を持たなくても、直観的にデータを分析できます。
近年はAIを搭載したノーコードのデータ分析ツールも普及し始めており、データを与えて「売上の増減を確認したい」「どの製品が最も利益率が高いか?」など自然言語で質問をするだけで、分析を行える環境が整いつつあります。
リモートワークなども普及し働き方の多様性が高まった現代の状況において、データの民主化を達成するためには、リアルタイムでのデータ共有も欠かせません。そこで基盤となるのがクラウドとコラボレーションツールです。
クラウド型のデータプラットフォームの最大の利点の一つは、場所やデバイスに関係なくデータにアクセス可能な環境が整うということです。リモートワークが増加している現代において、クラウドの役割はますます重要になっています。
Google WorkspaceやMicrosoft Teamsなどのコラボレーションツールとデータプラットフォームを連携させることで、データを用いた議論や情報共有が行える環境が整います。データ基盤の構築にあたっては自社のコラボレーションツールとの相性など、総合的な検討が求められます。
データの民主化に必要なプラットフォームは単なる技術的基盤ではなく、組織文化の変革を支援する重要な役割を果たします。機能だけではなく、UI/UXやツールごとの連携なども考慮して、適切なプラットフォーム・ツールの導入に臨みましょう。
データの民主化は企業の競争力を高めるために非常に有効な一方、その達成は容易ではなく、新たなリスクの要因ともなります。ここでは、データの民主化を進める際に留意すべき二つの重要なポイントを解説します。
データの民主化が進むということは、企業内のより多くの従業員がさまざまなデータにアクセスできるようになるということです。そこでデータの漏えいや不正利用の可能性が懸念されると感じた方は多いのではないでしょうか。しかし、重要なのはアクセス制御やゼロトラスト型の監視、ガイドラインなどを導入して、適切な民主化を実現できる環境を整えるということです。
データの民主化といえどもすべてのデータに全従業員がアクセスできる環境を整えなければならないわけではありません。むしろ、適切にデータを民主化するためにこそ、アクセスが制限されるべきデータは何かを検討することが重要です。
また、誰がいつどのデータにアクセスしたかを記録し、この‟データ利用にまつわるデータ”も適切に管理することが、データの民主化の成功を左右します。
データの民主化を達成するにあたって、データ自体やツールを用意すること以上に重要なのは、データを従業員が正しく理解し活用できる環境や文化を醸成するということです。そこで、データの意義を理解しその誤用や不適切な利用を防ぐためのデータリテラシー(データを理解し、使いこなす能力)を高めるための取り組みは欠かせません。
例えば、データプラットフォームの使い方を学ぶための研修やワークショップを実施することはもちろん、社内に学びを共有し、データの民主化の効果を実感できる場を用意することも有効です。成功事例は積極的に共有し、評価などにも反映させることで社内のデータリテラシーは引き上げられていきます。その際、変化は段階的に起こるものと考え、長期的な視点で施策に取り組むことを意識しましょう。
また、データの民主化は組織文化の大きな変革を伴うからこそ、トップダウン型のアプローチが重要です。経営陣や管理職によるデータ活用の事例や実績を積極的に発信し、あるべきデータ活用の姿を明確に打ち出すことが成果を得るためには不可欠と考えましょう。
テクノロジーと社会の変化を背景に企業のデータ活用で注目を集める戦略の一つ、「データの民主化」について解説しました。データ人材が不足していると嘆く企業は少なくありませんが、不足しているのは高度な技術を持つ人材ではなく従業員が活用できるデータそのものなのかもしれません。データ活用の環境と文化を整備して自社の競争力を高めるために、データの民主化をぜひ推進していきましょう。