近年、地球温暖化による気候変動によって世界各地で異常気象が続き、各国政府は温室効果ガスの削減を強く訴えています。日本国内においても2050年のカーボンニュートラル達成という目標が設定され、国内企業には自社製品の省エネ化や、製造工場から出るCO2の排出削減などの対策が求められています。
そうした中で水素やアンモニアなど、CO2を出さない燃料ガスへの転換を図る企業が増加しています。一方でそれらのガスは爆発や中毒のリスクがあるため、漏れ対策を重点的に実施する必要があり、万が一に漏れを検出できる可視化技術が求められています。
この記事では見えないガスを可視化するカメラの現状について解説します。
ガス漏れ検知技術は石油精製所や化学工場などで、事故防止のために用いられてきました。例えば化学工場では、製品生成時に副次的に発生する水素の爆発リスクがあるため、センサーで検知して警報を鳴らして設備を停止させるなどの安全対策を取っています。
ガス漏れ検知には従来、吸引式ガス検知器(嗅覚性探知機)が用いられてきました。一酸化炭素や硫化水素など匂いがあって毒性のあるガスを検知して、爆発や中毒などの事故の抑制をすることが可能です。一方で検知に時間がかかったり誤検知を起こしたりといった測定精度の問題、測定者が危険にさらされるといった安全上の課題があります。
そうした課題に対応できる技術として、非接触の測定技術が注目されています。例えば赤外線を利用したガス可視化カメラでは測定者は対象物から離れたところから測定できて、測定精度も高く、ガス成分の波長で検知するため正確です。そのため、すでに工場やプラントなどで配管や設備からのガス漏れ検知に利用され始めています。
ガス可視化カメラで検知ができるガスの種類について一例をご紹介します。
●メタン:都市ガスの主成分で可燃性ガス
●エタン:冷媒などで利用、環境影響のある有害ガス
●エチレン:合成樹脂の製造に利用
●ブタン:エアコン冷媒や化学製品の原料となる可燃性ガス
●トルエン:塗料のインクなどに利用、人体への影響が強い
●メタノール:バイオ燃料や工業燃料で使われ、毒性がある
●ホルムアルデヒド:合成樹脂の製造で使用され、無色で刺激性がある
そのほかにもガス可視化カメラでは複数のガス種が検知可能ですが、詳細は各メーカーに問い合わせが必要です。また水素やアンモニアといった次世代燃料の可視化も実用化が進んでいます。
ガス可視化カメラを導入すると、漏れ箇所を正しく特定できる、広範囲の測定ができる、測定者の安全が確保できるなどのメリットがあります。
吸引式ガス検知器(嗅覚性探知機)ではガス漏れ箇所の特定が難しいですが、ガス可視化カメラでは画面上で色分けされて表示されるため、ガス漏れ箇所を正確に特定できます。
ガス可視化カメラは測定可能な範囲が広く、遠方から周辺一帯のガス漏れを測定することが可能です。対象物が高所にあっても測定者は地上から測定できます。
可燃性ガスや毒性のあるガスを検知しようとすると、従来の方法では測定対象(危険個所)に近付く必要があるため測定者に危険がおよぶ可能性があります。ガス可視化カメラであれば危険個所から離れて測定することができます。
赤外線を使ったカメラでは、コニカミノルタが業界で最小最軽量のモデル「GMP02」を発売しています。独自の画像処理技術によりノイズを除去した明瞭な測定画面や、天候や状況に合わせたモード選択が可能な点が特徴です。
バッテリー内蔵でコンパクトなため、持ち運びに便利で緊急時でもすぐに現地で使用可能です。メタン、エタン、プロパンなど多くのガス種類に対応しており、3秒以内の検知時間でスピーディーな測定ができるため安全対策への活用が期待できます。
東芝は半導体レーザーを使用してガスを可視化する技術に取り組んでいます。半導体レーザーカメラは半導体に流した電流により、レーザーが発振して投光する原理によってガスを検知する仕組みです。
QCL(面発光型の量子カスケードレーザー)は3μm~13μmという波長域の光を発振させることができ、波長を合わせることで様々なガスをピンポイントかつ高感度で検知でき、温室効果ガスのメタンや二酸化炭素や、サリンなどの毒性ガス検知にも利用できます。0.2%程度の低濃度領域や10m離れた遠距離下での測定実験に成功していて、工場の配管からのガス漏れなどを遠距離から正確に発見する用途などで期待されています。
地球温暖化対策のための水素やアンモニア利用、工場内の爆発や中毒事故の抑制などのためにガス可視化カメラの活用が進められています。ガス可視化カメラは赤外線やレーザーを用いて、正確で安全な測定ができる特徴があり、今後は画像処理や通信機能などの充実によりIoTにより更なる安全管理に役立てられることが期待されます。