昨今の製造業では、AIを活用した業務改革や効率化が進められています。その中の一つがAIによる自動見積であり、非効率的な見積業務の改革に成功したという事例が徐々に増えてきました。そこで本記事では、製造業での実装が進んでいるAI自動見積の仕組みやメリット、代表的なサービスについて解説します。
近年、2D図面や3D CADデータから必要な材料や部品、製造工程を自動で推測し、見積を簡単に作成してくれる自動見積サービスが増加しています。特に最近では、AIを活用した自動見積サービスが増えており、より精度の高い見積が可能になりました。
AIによる自動見積の流れは、一般的に次のようになっています。
1.取引先名や材料の種類、数量、納期などの基本的な情報を入力する
2.2D図面や3D CADデータをアップロードする
3.AIが形状の特徴などを認識した上で、類似製品の過去の実績や事前に設定したコストテーブルを基に見積価格を算出する
このように、基本的にはAIが過去の実績を基にして見積を行うため、過去の実績データが少ない場合や、全く新しい製品群の場合には精度が下がってしまいます。しかし、学習用のデータさえあれば対応可能な範囲を継続的に広げていくことが可能です。
以前から行われている人の手による見積には、次に挙げるように多くの課題がありました。
●形状の把握や材料費・加工費の計算、見積書の作成などに工数がかかる
●エクセルなどに手で数値を打ち込んで計算するため、間違いが発生しやすい
●個人のスキルや経験によって見積内容が変わるため、ブラックボックス化しやすい
●役職者や製造担当者が見積をしており、本来やるべき業務に集中できない
これらの課題の解決に役立つのが、AI自動見積です。AI自動見積を活用すれば、見積業務にかかる工数やヒューマンエラーを削減できます。また、見積担当者のスキルや経験に関わらず精度の高い見積を行えるため、見積業務のブラックボックス化を防ぐことも可能です。
ここでは、日本国内で提供されている代表的なAI自動見積サービスをいくつかご紹介します。
SellBOTは、株式会社REVOXが提供しているAI自動見積サービスです。主に機械加工・表面処理加工・板金加工・金型加工に対応しており、PDFまたはTIFの2D図面をアップロードすることで、AIが過去の類似の実績に基づいて見積金額を計算します。見積方法はレスポンス重視型と工程重視型を選択でき、前者ではたったの数秒で見積を完成させることが可能です。見積内訳が見えるためなぜAIがそのような計算をしたのかが分かるほか、過去実績と比較して加工時間などを修正するとそれを自動で学習していくため、データが蓄積するほど精度が向上します。
Orizuru 3Dは株式会社コアコンセプト・テクノロジーが提供している3Dデータを管理・表示・検索するためのソリューションです。3D形状データからAIで特徴を抽出し、以下の三つのアプローチによって見積を自動化します。
●コストテーブルによる原価積算
●類似する過去実績の参照
●機械学習による価格推定
また、3Dモデルを活用した工作機械での製造自動化まで対応しており、3Dモデルから加工パターンを判定してパラメータを自動で設定し、NCプログラムの生成まで行えます。このように、見積から製造までの業務をまとめて効率化できる点も大きなメリットです。
ESTIMATEはDMG MORI Precision Boring株式会社が提供する金型/加工見積システムです。樹脂/プレス金型設計用の「ESTIMATE for MOLD/PRESS」と、機械/金型部品加工用の「ESTIMATE for MACHINING」の2タイプに分かれており、いずれもAIによる機械学習機能を搭載して見積精度を向上できます。
「ESTIMATE for MOLD/PRESS」では、見積対象物件の製品図や仕様書から見積用の金型構造を半自動的に作成し、部品代や加工賃などの詳細な見積内訳まで作成します。「ESTIMATE for MACHINING」では、2D図面もしくは3Dモデルから部品加工の見積を短時間で算出でき、3Dモデルからはフィーチャー(形状)認識機能によって半自動的な見積作成が可能です。
AIを活用することで、非効率的かつ属人的だった製造業の見積業務が大きく変わりつつあります。2024年現在は金属加工や樹脂加工といった部品加工の分野で主に活用されていますが、ほかの分野にも徐々に広がっていくでしょう。AI自動見積が今後どこまで進化するのか、注目していきたいところです。