建設業界のDXは、日本では大きな余地があることから注目を集めている取り組みです。民間レベルはもちろん、法改正も踏まえた国レベルでの動きも見られるなど、デジタル活用の機会は同業界で広がりつつあります。
この記事では、建設DXを大きく後押しする法改正として注目される、改正建設業法について、制度の概要やどのような変化が期待できるのかについて、解説します。
改正建設業法、および公共工事入札契約適正化法(入契法)は、2024年6月に成立した建設業の生産性向上を推進するための仕組みです。
この法律は、労働者の処遇改善と生産性向上によって2029年度までにほかの産業を上回る賃金上昇率を達成すること、そして技能者・技術者の週休2日を100%とすることを目指すために制定されました。
この法改正により企業は、賃金の引き上げや資材高騰に伴う労務費へのしわ寄せ防止、 働き方改革に取り組むことが求められます。労働者の就業環境を改善するとともに、円安などを背景とする資材費高騰の補填が労務費から行われないよう、原価割れ契約などの禁止に取り組まなければなりません。
また、この改正の目玉となっているのが上記のミッションや働き方改革を後押しするためのICT活用です。これについては、後ほど解説します。
建設業法の改正が実現した背景には、建設業界全体に蔓延するDXの遅れや就業環境改善の進まなさがあります。
肉体的な負担が大きく、残業が発生しやすい建設業界は、ほかの業界と比べて労働者に敬遠されやすい領域です。これに加え、負担に見合った賃金の支払いが行われていない問題も改善が進められてこなかったことから、今回の法改正に至りました。
建設業界は成長性のある分野でありながら、人手が集まらない、生産性が改善しないなどの理由から今後の停滞が懸念されています。建設業法の改正により、職場環境や生産性が向上すれば、優秀な人材の確保や高度にデジタル化された質の高い業務遂行につながる可能性が出てきます。
建設業法の改正によって、具体的に現場にはどのような変化がもたらされるのでしょうか。注目のポイントとしては以下のものが挙げられます。
労働者にはそれぞれの技能に応じて適正な賃金の支払いを行うことが努力義務とされました。また任せる業務に応じて正しく労働者を評価するなどして、正しい処遇確保に努めなければなりません。
請負契約の締結に際し、建設業者は当初の見積もりよりも請負代金が高くなる、あるいは工期が伸びるなどの事態が発生した場合、請負契約を締結する前に相手に通知することも義務付けられました。労務費の圧縮による就業環境の悪化を回避する目的で制定され、資材の高騰などのしわ寄せが労働者や就業環境に現れないようにするための予防措置です。
また、極端に短い工期で請負契約を結ぶことも法律で禁止されました。労働者の長時間労働を防止し、現場の安全性や離職率に悪影響を与えないためです。
ICT活用と関係のある変更点としては、専任の主任技術者および監理技術者の配置義務化が挙げられます。公共性の高い施設の施工などにおいては、原則的に主任技術者の配置などが建設業者に義務付けられています。
ただし、ICTの活用などの条件を整えることで、監督者が複数の現場を兼任することも可能です。専任の管理者を複数配置するコストを考えると、ICT環境の整備が望ましいといえるでしょう。
上でも少し触れていますが、改正建設業法は建設業界におけるICT活用を推進する意味合いの大きい制度でもあります。
上述のような、ICT環境の整備に伴う先任者の設置義務緩和に始まり、施工体制台帳の提出義務を合理化し、ICTを通じて施工体制を確認できる場合、台帳の提出を免除されるようなものがその代表例です。
また、今回の法改正では努力義務となっているものの、一定規模の建設工事を下請けに発注する特定建設業者については、下請け事業者がICTを活用できるよう、指導に努めることも明記されています。
改正建設業法は、大きくDXについて触れている取り組みではないものの、その実態は強くICT導入を後押しするルール改正です。
新しい法改正については2025年をめどに施行されていく予定であるため、関連事業者は早期から労働環境の改善やDXに向けて動いていく必要があるでしょう。