昨今の製造業は、社会環境の急激な変化によってサプライチェーンの寸断や人手不足、コスト増大といった課題を抱えています。これらの課題を解決する手段の一つにデジタル技術を活用したDXが挙げられますが、「どこから手をつければよいか分からない」「部分的にしか取り組めていない」といった悩みを持つ企業は多いです。本記事では、そのような企業が知っておきたいスマートマニュファクチャリングという概念について、経済産業省とNEDOがまとめた「スマートマニュファクチャリング構築ガイドライン 」を参考にしながらご紹介します。
スマートマニュファクチャリングは概念的なものであり、共通して用いられている明確な定義はありません。経済産業省とNEDOが2024年6月に公開した「スマートマニュファクチャリング構築ガイドライン 」においては、「ものづくりの全体プロセス(マニュファクチャリングチェーン)をデジタル技術を用いて最適化すること」と説明されています。
よく似た言葉に「スマートファクトリー」がありますが、こちらは工場や生産現場をデジタル化するという意味で使われるケースが多いです。一方、スマートマニュファクチャリングでは、サプライチェーンやサービスも含めて、ものづくりのプロセスすべてをデジタル化することを目指します。そのため、スマートマニュファクチャリングを実現するための取り組みの一つとして、スマートファクトリーがあると考えるとよいでしょう。
スマートマニュファクチャリングを考える際は、ものづくりの全体プロセスを4つのチェーンに分けると理解しやすくなります。ここでは、4つのチェーンの概要とデジタル化によって解決したい主な課題についてご紹介します。
エンジニアリングチェーンは「製品・工程設計を中心とした技術と情報をものづくりの各機能に訴求する連鎖」を指し、次のような役割を持っています。
● 新商品のコンセプトを具体的な製品やものづくりのプロセスとして具現化する
● 既存の商品やものづくりのプロセスの変更・改良(VA・VE)を具現化する
● 社内外の技術情報や設計図書などを管理・蓄積する
また、エンジニアリングチェーンで解決したい課題は次の三つに大きく分類されます。
1. さまざまなニーズを抽出し、商品開発のプロセスやエンジニアリングチェーンの変革に生かす仕組みづくり
2. 品質向上や高速化・効率化などエンジニアリングチェーンそのものの価値の向上
3. エンジニアリングチェーンの価値を向上させるためのデータ基盤の構築
サプライチェーンは「最終需要者に商品を供給するための、材料調達から商品納入までの『もの』を中心とした業務の連鎖」を指し、次のような役割を持っています。
● 需要予測に応じた供給計画を立案・実行して、商品を遅滞なく供給する
● リードタイムや在庫水準、納期順守率、コストなどを最適化する
● 時流に応じてサプライチェーンの構造を最適化する
また、サプライチェーンで解決したい課題は次の6つに大きく分類されます。
1. 需要予測の精度向上など、顧客との接点の活性化
2. いつ、どこで何を作らせるか判断できる仕組みづくりなど、供給計画の柔軟性向上
3. サプライチェーンをモニタリングしながら供給プロセスを管理する仕組みづくり
4. 製品の供給に関するオペレーションの効率化・高度化
5. 設計データをもとにしたシームレスなものづくりや場所に依存しないものづくりなど、製品の供給に関する構造自体の強化
6. 変化を察知してサプライチェーンの構造を再構築できる仕組みづくり
プロダクションチェーンは「自社の製造リソース(人、設備、工法、ノウハウ)によって原材料を加工し、商品として仕上げる一連の工程の連鎖」を指し、次のような役割を持っています。
● 製造リソースをコントロールし、商品を遅滞なく製造する
● コスト、生産性、品質、リードタイムなどを最適化する
● 商品に応じた工程管理・実績管理の方法を設計するなど、製造システムを最適化する
また、プロダクションチェーンで解決したい課題は次の4つに大きく分類されます。
1. 属人化の解消や品質・コストの最適化など、製造システム設計のあり方の強化
2. 作業者のスキル向上や予兆保全による安定稼働の維持など、製造リソースのコントロールの強化
3. 負荷の分散や品質問題の最小化など、製造プロセスのコントロールの強化
4. プロダクションチェーンの健全性を評価し、製造システムの構造を変革する仕組みづくり
サービスチェーンは「提供サービスの顧客への認知と品質の魅力の向上、および納入後の商品価値を維持向上させるための『サービス』を中心とした業務の連鎖」を指し、次のような役割を持っています。
● 提供するサービスを顧客に認知させる
● 商品を起点に顧客とのコミュニケーションを図り、サービスを提供する
● 顧客との接点から、潜在的ニーズも含めて情報収集・蓄積する
また、サービスチェーンで解決したい課題は次の4つに大きく分類されます。
1. サービス情報の提供による顧客認知度の向上
2. 生産進捗や納品予定日を提示するなど、顧客との商談プロセスの変革
3. 顧客の使用状況を踏まえたサービスの提案やクレーム対応の効率化など、アフターサービスの変革
4. 顧客ニーズをもとにした新たなサービスの提供
スマートマニュファクチャリングを構築する際は、企画、基本設計、ベンダー選定、実装の 4 つのフェーズで推進していきます。各フェーズでどのようなことを行うのかをご紹介します。
まずは、「顧客に選ばれ続けるにはどうすればよいか」という観点を意識しながら自社の経営課題を明確化します。また、その経営課題を解決するためにどのような業務やシステムが必要になるのかを、上述した4つのチェーンなどに細分化しながら検討していきましょう。
企画フェーズは最も重要であり、「スマート化することで自社が実現したいことは何か」をしっかりと明確化しておく必要があります。この後のフェーズで計画を見直さなくてはならない状況に陥ったとしても、当初の目的が明確であれば軌道修正することが可能です。
次に、スマート化の対象となる業務の現状の流れを分解して一覧化し、求められる要件を記載していきます。その上で、現状と比較しながら目指す姿を設定し、各業務に必要なインプットや業務基準・処理方法、アウトプット、必要なシステム機能などをまとめましょう。
このフェーズでは、スマート化の目的を共有した上で実際の業務担当者にも参画してもらい、当事者として目指す姿の設定に加わってもらうことが重要です。そうすることで、この後の実装フェーズでの大幅な手戻りを防止できるとともに、本当に使えるシステムを実装しやすくなります。
続いて、基本設計の内容を提案依頼書(RFP)に落とし込み、システムなどを提供するベンダーに共有します。ベンダーからの提案内容を総合的に評価して、最適なベンダーを選定しましょう。ベンダーを選定する際には、具体的な提案内容はもちろんのこと、アフターサポート体制やプロジェクト責任者の経験、面談時の印象なども考慮するのがおすすめです。
最後に、上述した三つのフェーズを経て決定したシステムなどについて、実現可能性や効果に関する概念実証(PoC)を行います。概念検証の結果で十分な成果を得られる見込みがあれば、実際にシステムなどを実装していきましょう。
最初はベンダーが主導でシステムの実装を進めますが、ベンダー側のテスト後はユーザーである自社が主導して稼働・運用に移行していきます。必要なデータの整備やマニュアルの作成などはベンダーのサポートを受けながらユーザー側が主導するべきなので、ベンダーに任せきりにならないように注意しましょう。
スマートマニュファクチャリングの構築に取り組むことで、自社のものづくりが部分最適から全体最適へと進化することが期待できます。社会環境が急激に変化する中でも稼ぐ力や競争力を高めていくために、「スマートマニュファクチャリング構築ガイドライン 」を参考にしながら自社の取り組みを検討してみてはいかがでしょうか。
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