みなさんはOMOという言葉をご存知ですか?
OMOは単なるIT導入にとどまらないDXの本質的な概念を理解するにあたって押さえておきたいキーワードの一つです。本記事ではそんなOMOの意味や製造業に与える大きな影響について、最新情報をもとにご紹介します。
OMOは「Online Merges with Offline」の略で「オンラインとオフラインの融合」を意味します。メール、ECシステム、ビデオ会議ツールなどオンライン上のシステムやツールを用いて業務を進めたことがない方はいらっしゃらないでしょう。とはいえ、それはあくまでオフラインの作業の成果の伝達やオフラインとは別の窓口としての利用でした。
OMOのポイントは“オンラインとオフラインのビジネスを同等に考える”という点です。
ここで具体的な例を見てみましょう。
OMOという概念を日本で広めるきっかけとなったDX関連の名著『アフターデジタル オフラインのない時代に生き残る』(日経BP、2019)で紹介されているのが、中国平安保険の事例です。同社は「平安好医生(Ping An Good Doctor)」という医療・健康アプリによってオンライン健康診断や医薬品や栄養サプリのネット販売、健康ライフスタイルの提案といったサービスを提供。サービスを利用するためにアプリユーザーが提供する健康データを活用して、営業・マーケティング活動を行うという仕組みを確立しました。
ここで重要なのが“ユーザーとの接点がオンラインから始まっている”ということです。アプリをユーザーに使ってもらい、そこから得たデータをもとに営業活動やキャンペーンの企画、新商品の開発、ひいては事業方針の策定まで行ってしまう。そんなオンライン・オフラインを分け隔てなく考える企業の戦い方が、OMOです。
かつてO2O・オムニチャネルといった言葉がオンラインマーケティングのキーワードとして流行しました。O2Oは「Online to Offline」の略でオンラインクーポンや位置情報サービスの提供によって、オンラインで情報を発信しオフラインでの購買を促すこと、オムニチャネルはWebサイト・メールマガジン・店舗・SNSなどあらゆるチャネル(=流入経路)でユーザーに働きかけることを指します。
いずれもオフラインを前提に、オンラインをより活用していこうというニュアンスがある点で、OMOの前段階にあることがよくわかるのではないでしょうか。
OMOという言葉が生まれたのは2017年9月ごろのことです。Googleチャイナの元CEOである李開復(リ・カイフ)氏により提唱されたと言われています。
「OMOは結局Web系の企業や小売業と深く関わるだけで、工場で実製作を行う製造業とは関係ないのでは?」──そんな風に感じた方もいらっしゃるでしょう。
しかし、OMOは製造業のあり方も大きく変革することが予想されます。
その理由の一つは、製造業のサービス化が進んでいるためです。例えば自動車業界ではCASE、MaaSという言葉を旗印に「移動」のサービス化という“100年の一度の変革期”が訪れています。ライドシェア、自動運転といったサービスが技術の進化とともに勢いを強めており、2020年7月には米EVメーカーのテスラがトヨタ自動車の時価総額を追い抜いたことが話題になりました。中国版テスラといわれるEVメーカーのNIOは、充電デリバリーや有償メンテナンスサービス、会員制ラウンジやユーザー向けSNSの提供といったトータルなサポートで人気を博し、テスラを猛追しています。
サービス化の進展により、購入時点しかユーザーと接点を持てなかったカーメーカーが長きにわたって関係性を保ち、販売接点を持てるようになったのが、NIOがOMOメーカーである証左であり、同社の成功の秘訣でもあります。
OMOが一般化すれば、顧客との接点をつくりだせるプラットフォーマーがユーザーとの接点を握ることになります。そこで起こるのが、産業構造の逆転です。オフラインの時代には、メーカーが製品を生み出し、それを卸売やリテール、流通、飲食が仕入れ、一般消費者に流通させるという流れが支配的でした。しかし、プラットフォーマーが顧客との長期的な関係を築き、データに応じて製品を提供するようになれば、メーカーはサービス提供者の下請けとなる可能性すらあります。
だからこそ、メーカーの間でDXやデータ活用、プラットフォーマーとの提携に注目が集まっているのです。
コロナ禍はさまざまな産業でリモートワークなどデジタル技術の活用を加速させました。それは、OMOの概念を広めることにも一役買ったようです。
人との接触が制限される中でオンライン上での活動が活発になるのは必然的なことといえるでしょう。
コロナ禍の中国においてオンライン注文で生鮮食品を配達する「毎日優鮮(MissFresh)」や「盒馬鮮生(フーマーフレッシュ)」に大きな注目が集まりました。日本でもリアル店舗主体のビジネスが大きな打撃を受け、オンラインの活用により在宅需要に対応できた企業が伸長したのはご存知の通りです。
ここへきて、感染症の流行といった未曽有の事態のリスク対策としてもOMOに評価が集まり始めました。toCだけでなく、toBの領域でも展示会などでリアル接点を開拓することが難しい中で、ウェビナーや動画マーケティングなど、オンラインの活用に注目が集まっています。ぜひ自社に関係のあることがらとしてOMOの事例を収集してみてください。
DX時代の注目キーワード、OMOについてその概念から製造業でなぜ注目すべきかという理由までまとめてご紹介しました。コロナ禍によりOMOの普及は加速し、今後も産業全体のデジタル化が進むことが予測されます。
製造業のサービス化とともに業界の動向を読み解くためのフレーズとして念頭に置いておきましょう。