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“自前主義”からの脱却を実現するオープンイノベーション 各社が取り組むワケは?

レンテックインサイト編集部

グローバル化やDX、少子高齢化、新型コロナウイルスの世界的流行など企業を取り巻く環境に大きな変化が生じている現代。大企業、中小企業を問わず、「これまでのやり方から脱却しイノベーションが生じる仕組みを作らねば……」と考えている製造業関係者の方は少なくないでしょう。
現代型のイノベーションの創出に有効な取り組みとしてよく耳にするのが「オープンイノベーション」です。その基本的な考え方や注目を集める理由、大企業・中小企業の事例や実践のポイントを具体的にご紹介します!

オープンイノベーションとは? 注目を集める理由は?

オープンイノベーションは“他社・研究機関・学術機関など自社以外の外部の組織と共同でイノベーションを生み出そうとする取り組み”を指します。2003年、米国の経営学者ヘンリー・チェスブロウ教授によって論文内で発表され、たちまち話題となりました。
日本の製造業では自社や自社の系列企業内でものづくりを完結させる“自前主義”の傾向が長らく幅を利かせていました。これには、多様な製品を生産するうえで規模の経済や範囲の経済を働かせやすい、取引コストが抑えられるといったメリットがある一方、従来の常識を覆す破壊的イノベーションが生じづらいというデメリットが存在します。

ICT技術の進歩やグローバル化により、研究開発に求められるスピードは加速し、破壊的イノベーションにより市場のルールが書き換えられる可能性も高まりました。その結果、自前主義・垂直統合型の取り組みから生まれるクローズドイノベーションだけでは、どんな大企業であっても生き残れないという考えが普及し、クローズドイノベーションの対概念である「オープンイノベーション」への注目が高まり続けているという事情があります。

製造業におけるオープンイノベーションの事例

ここからはオープンイノベーションの具体的な事例をテーマごとにチェックして、イメージをより確かなものにしていきましょう。

大規模な意見の公募

オープンイノベーションの成功例として良く挙げられるのが米国の一般消費財メーカーP&Gの取り組みです。同社は2000年より外部との協力によるイノベーションを50%以上にする目標を設定。自社ウェブサイト「コネクト+デベロップ」で新製品開発上の技術ニーズを公開し、パートナー・発明を公募しました。その結果イタリアのベーカリーと協業した「プリングルズ プリントチップス」など数々の成功事例が生まれ、同社の売上高・純利益の拡大に寄与したということです。

このような公募型のオープンイノベーションに向けた試みは、内閣府や旭化成ファーマ株式会社など国内でも多くの事例が見られます。

産学・企業間の連携

他社や研究機関と連携してイノベーションに取り組むのはオープンイノベーションの基本です。
韓国のサムスン電子のグローバル企業への成長にも、他社や大学との連携が大きく寄与しています。2013年に発売され、米国で話題となった「炭酸水の出る冷蔵庫」は家庭用炭酸水メーカー「ソーダストリーム」と共同で開発された製品です。技術的には日本メーカーでも十分開発が可能でしたが、炭酸水が好まれる欧米の文化に着目したアイデアや濃度が選べるユーザーインターフェースはソーダストリームの力なくして生み出されなかったでしょう。
“餅は餅屋”という慣用句がありますが、オープンイノベーションはまさにその実践によりローカライズや市場開拓を成功に導いてくれる可能性があります。

「オープンイノベーションの場」の設立

京都府の「けいはんなオープンイノベーションセンター」、日本GEの「GEセンター・フォー・グローバル・イノベーション」、NECの「Future Creation Hub」、京セラの「みなとみらいリサーチセンター」など、産学を問わず、オープンイノベーションの場を設ける組織は増加しました。
スペースを提供し、自由な共創を促すとともに、そのような場を設けることで自社は“オープンイノベーションに積極的である”というメッセージを打ち出す狙いがあります。
現在、新型コロナウイルスの世界的流行により、バーチャル空間でこのようなオープンイノベーションの場を実現する取り組みも盛んに行われています。

オープンイノベーション実践のポイント

オープンイノベーションを実践する際に押さえておきたいポイントを見ていきましょう。

オープンイノベーション文化の醸成

長らく自前主義で運営されてきた企業文化を塗り替えるのは容易ではありません。技術流出への懸念や自社技術への愛着といった研究者の心理がときにオープンイノベーションの障壁となります。
そこで重要なのが経営層によるオープンイノベーション文化の醸成です。オープンイノベーションによりノンフライヤーといったヒット商品を生み出し成功例として取りざたされることも多い米フィリップス社では、トップの積極的な発信やオープンイノベーション活動への表彰制度により、自社の自前主義文化を塗り替えたといいます。

人は変化に抵抗を覚える生き物です。だからこそ、トップダウンで積極的にメッセージを発信していくことが重要になります。

「事業・製品開発戦略」「自社の強み」「意思決定プロセス」の明確化

株式会社リクルートマネジメントソリューションズの組織行動研究所の2019年4月の調査によると、開発業務に携わる334名が回答した「オープンイノベーションを成功させる要因と思うもの」の1位が「新規事業開発および新商品開発に関する戦略の明確さ」、2位が「自社の強みの明確さ」、3位が「自社の意思決定のスピード」でした。
ここから、「事業・製品開発戦略」「自社の強み」「意思決定プロセス」の三つを明確に定義できている組織がオープンイノベーションに成功しやすいと考えられていることが推察されます。
そこで有効な手段の一つが「オープンイノベーション推進チーム」の設置です。前述のフィリップスでもオープンイノベーション推進チームが組閣されるとともに各マネジメントチームにオープンイノベーションの責任者が設置されるという体制構築がなされました。

企業規模が大きくなるほど、オープンイノベーションを一つのプロジェクトとして、人材を投下することが重要です。そのように真剣に取り組む姿勢は企業文化を“オープンイノベーション型”に変える源泉ともなるでしょう。

アフターコロナ時代もオープンイノベーションの流れは続く

オープンイノベーションの概念や事例、ポイントについてなるべく具体的にイメージが思い浮かびやすいようご紹介しました。「自社は自前主義に陥ってはいないだろうか?」とヒヤリとさせられた方もいるのではないでしょうか。

アフターコロナの時代もオープンイノベーションを求める流れは変わらず進んでいくと予想されます。DX推進にもつながるその考え方をぜひ取り入れてみてください!

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