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AI・IoTコンサルタント 伊本貴士の経営に役立つ最新技術解体新書 DX元年にデジタル化すべきもの

レンテックインサイト編集部

2021年は、DX(デジタル・トランスフォーメーション)元年になるだろうと思っています。

アメリカで新型コロナウイルスの1日あたりの感染者数が過去最高を記録し、日本においても緊急事態宣言が発令される等、2021年も企業は新型コロナウイルスによって活動の制限を強いられることになるでしょう。

ただ、企業が新型コロナウイルスの収束を期待しながら耐えるにも限界があります。
そろそろ、壊す物は壊し、新しいビジネス活動のあり方を創る時期に来ているでしょう。
その中で、できるだけ新型コロナウイルスの影響を最小限にするためには、人に依存せず、IT技術を最大限利用した仕組みを検討しなければなりません。

そこで、まずはDXからという話になるわけですが、DXは単にデータ化/デジタル化だけをすれば高い効果が出る物ではありません。

データの取得と活用方法

在庫の状況に関して、全く把握していない企業はあまり存在しません。大まかには、どの企業でも把握はしているわけです。
センサやICタグの導入をすれば、それをリアルタイムに正確な数を把握できるかもしれません。
データ化することは、費用をかけ、専門家の指導を受け、着実に進めていけば可能です。

その後データをどう活用するのかが重要なのです。
データ化するだけでは企業にとって新しい価値には繋がりません。

在庫状況をリアルタイムかつ正確に把握できるようになり、顧客へ商品を届けるまでのリードタイムがどのくらい短縮できるのか、在庫の数を減らしながらも在庫切れのないように調整可能なのか、在庫が少なくなった場合に自動でアラートを送付する仕組みを実現できるのか、といった「データをどう活用するのか」という視点が非常に重要です。
当然、その活用方法は企業ごとに違いがあります。また同じ企業であっても事業所や部署ごとにどう活用できるのかは違いがあるので、それぞれがそれぞれの状況に合わせて考えていく必要があります。

人間の感情を数値化する

売上情報、在庫情報などは、本来であれば既にデジタル化されているべき情報です。
今後は、それらに加えて「新しいデータ」を集めることで新たな武器にする必要があります。

まずは感情データです。これまで、人の感情をデータ化するということは、あまり行われてきませんでした。
例えば、顧客満足度をデータ化することで、自分たちのビジネスは顧客にとって必要なものであり続けているのかどうかを見ることができます。
今後、一時的に売り上げが上がったとしても満足度が低いものは、すぐにライバル企業や代替品に顧客を奪われる可能性が高いです。

満足度をデータ化するためによく使われるものとしてアンケートがあります。
ただし、アンケートは「アンケートに答えてくれる人」という偏りがあるデータなので、全体を表しているとは言えません。
そこで、最近ではソーシャルデータの分析や、リピート率の分析などを通して、より確かなデータ化が考えられます。
さらに、AIを使って映像や声を分析することで、顧客が商品を迷って選んでいるのか、店員に対して不満を持っているのかなどを分析することも可能になっていくでしょう。

このように、最新技術を使って感情を数値化することは、企業にとって自分たちのやり方が間違っていないかどうか確認するツールとして非常に効果が高いです。

また、顧客だけではなく、従業員に対する満足度を数値化する動きも盛んに行われています。
中には、従業員の血圧や心拍数などを取得し、AIを使って過重労働やストレスを監視している企業もあります。
優秀な従業員を多く確保することは、今後企業にとって最重要課題になるでしょう。
そのためにも今からデータ分析を用いて従業員の満足度を上げていくことは非常に重要です。

職人技をデジタル化する

先進的なDXへ取り組んでいる一部の企業では、人間の感覚のデータ化を行っています。
世の中には、まだまだ人間の感覚に頼らざるを得ない箇所がたくさんあります。

例えば、化学薬品の調合、高級工芸品の研磨、カメラなどのレンズの磨きなどがそれに該当します。

とはいえ、職人の高齢化に伴い、いつまでも特定の個人に頼ることもできませんし、後継者を育てようにも希望する若者がいません。
そこで、将来的にロボット制御に置き換えることを目的に、いまから職人の感覚を数値化する試みが行われています。

微妙な力加減の調整が必要な作業に関しては、物体を触った際の反発力を計測する力覚センサと、ザラザラなどの皮膚感覚を計測する触覚センサ、職人の作業の様子を撮影した映像からAIを使って人間の骨格を計測し、人間の動きを数値化します。
その上で、ロボットにも力覚・触覚センサをつけることで、人間と同じ感覚をロボットに持たせるものです。

この試みはまだまだ発展途上ですが、ロボットができる作業の幅が広がるほど、今後選択できる戦略の幅が広がるでしょう。

売上情報など数値化しやすいデータに関しては、その活用方法を考えつつ迅速にデジタル化を進めていくべきであり、その次のステップとして人間の感情や感覚といった新しいデータをデジタル化する目標を見据えなければなりません。そう考えるとコロナ禍であっても今年1年で考えるべきことはたくさんあると思います。

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