これまでも、IoTやDXを通じてさまざまな企業が、業務の効率化というものを目指して活動してきました。
しかし、これまでも述べているように、局所的な最適化だけを目指した場合、良い結果に結びつかないという事例も多く存在します。
例えば、ある行程がボトルネックとされているとします。その行程の効率化を実現した時、スムーズに次の行程へ仕掛品が流れるようになりました。
ところが、今度は次の行程で作業が追いつかず、仕掛品が溜まるようになる。
このように、前の行程で仕掛品が溜まっていたので、後ろの行程で問題がないように「見えた」という話は、製造業以外での事例も多く存在します。
企業は、活動全体をデータ化し、全体最適化を検討しなければなりません。
例えば、生産活動においては、どこがどのくらいのパフォーマンスで作業ができれば、最終的にどれくらいの生産力を身につけることができるのかをシミュレーションするわけです。
これまでは、さまざまな箇所において人間が作業を行ってきました。
人間のパフォーマンスは、その日の体調や人間関係の変化などにも大きく左右されるため、こういった生産力の予想というのは難しかったわけですが、今後、リモート制御やロボット化が進むと、停電などの事故がない限りは、生産力の予測が比較的容易になります。
よって、今後はさまざまな分野で「シミュレーター」というものが大きな存在になっていくでしょう。
例えば、GPU(Graphic Processor Unit)で有名なNVIDIAという企業は、ISAACというプラットフォームを発表し、ロボット制御の開発を手助けすると同時に、将来的には、その動きをシミュレーションすることで、複数のロボットがどのように協調作業を行うことで、どのくらいの生産量になるのかを予測するとしています。
例えば、流通センターにおいても、多数のAGV(小型の無人搬送ロボット)を利用しているところがありますが、これもロボットをどう制御するのかに関しては、シミュレーターを使ってさまざまなシミュレーションを行っています。
ロボットを使わないとしても、企業全体における最適化を考えた場合、どういう形が現時点における理想型なのかをシミュレーションしなければ、逆に現場を大混乱に陥れるとんでもないカイゼン活動というものを実施してしまう可能性があるということに企業は注意すべきでしょう。
全体最適化では、言うまでもなくモノとお金の流れというものをデータ化し、制御しなければなりません。
例えば、各行程における作業を行う。その工程間においてモノが移動する時間やコストも当然考慮してシミュレーションすべきです。また、その仕掛品をどこに置くのかも重要な要素です。
また、お金の流れも同じです。一体何のために、どの企業に、どのくらいのお金を支払っているのか。それを把握できていなければ、無駄な費用を垂れ流しにしている可能性もあります。
そう考えると、これからの全体最適化シミュレーションにおいては、「モノ」同士の関係性というものが重要であり、それをデータ化する必要があると思います。
そこで私が注目しているのが、グラフデータベースと呼ばれる、これまでと全く違ったデータベースです。
グラフデータベースのグラフとは、データの傾向を表示する時のグラフではなく、グラフ理論と呼ばれる頂点と辺からなるデータ構造を示しています。
グラフデータベースでは、モノとモノの関係をそのままデータ化できるという特徴があります。
例えば、BobとSaraとMikeという3人がいたとします。
これまでのデータベースではBobは男性で年齢は20歳、など各々の属性情報は保存していましたが、3人の間にそれぞれどのような関係があるのかについては、あまりデータとして管理されてきませんでした。
それを管理するためには、人と人との関係性という別のテーブルを作る必要があり、関係毎にテーブルが増えると管理が複雑になるからです。
一方、グラフデータベースでは、自由にモノとモノとの関係性をデータとして登録できます。
よって、「BobはSaraのことを2020年11月1日から好きだと思っている」「SaraはBobのことを2019年6月1日から友達だと思っている」といった関係性を容易にデータ化することができます。
図:オープンソースのグラフデータベースneo4jの管理画面(メディアスケッチ株式会社作成)
また、関係性を使ったデータ検索を行うことも可能です。例えば、「人と人との関係性において、1990年1月1日以降で相手を友達だと思っている人の人数をカウント」という検索をすることも、グラフデータベースでは容易です。
実際に、グラフデータベースはグローバルなSNSなどのサイトで、人間関係を解析し、友達候補の選出や広告の最適化などに活用されています。
また、GEが開発したIoTプラットフォームのPredixでもグラフデータベースが採用されています。
今後は、このような人や機械、デバイスといったさまざまなオブジェクトをデータとして管理するだけではなく、その関係や、モノやお金の流れといったフローについてもデータとして管理することによって、企業活動に関わる全体が見える化され、最適化に繋がるということを認識しておいたほうが良いでしょう。