製造業の国家戦略プロジェクトとして現在最も人口に膾炙しているのがドイツの「インダストリー4.0」です。IoTやAIといったデジタル技術で製造業のビジネスモデルに変革をもたらすことを目的としています。同様の取り組みは、米国の「インダストリアル・インターネット・コンソーシアム(IIC)」やフランスの「産業の未来 (l'Industrie du Futur)」、日本が2017年に掲げた「Connected Industries」などさまざまに存在します。
そんな中、今回取り上げるのは、中国が2015年5月に発表した「中国製造2025」です。その計画方針や背景にある事情、具体的な取り組みなどのポイントを押さえ、日本にとっても大きな存在となっている中国製造業の今とこれからを見据えましょう。
中国製造2025は中国版の「インダストリー4.0」ともいうべき取り組みで、以下の三つのマイルストーンに向けて中国のものづくり体制の強化を行う内容となっています。
2049年は中華人民共和国建国100周年の年です。
この年までにIoTやAIといったデジタル技術と製造業の融合を推進。製造「量」により世界をリードし「世界大国」と呼ばれる状態から、製造の「質」で世界をリードする「製造強国」としての地位を確立し“China Dream”を実現することを掲げています。
中国は安価な労働力を背景に「世界の工場」としての地位を確立し、製造業において世界一の付加価値額を達成するまでになりました。しかし、一方で経済成長に伴う人件費の高騰や高度な技術不足、エネルギー効率の悪さなどにより一人当たりGDPはアメリカや日本、韓国、ドイツなどに及ばず、習近平総書記が2014年5月に示唆した「新常態(ニューノーマル)」に合わせた産業構造の変化を迫られていたのです。
現代のシルクロード経済圏を確立する「一帯一路構想」とともに、中国製造2025は中国という国の成長プランにおける柱となっています。
中国製造2025の中身についてもう少し詳しく見ていきましょう。
まず掲げられているのが、以下の5つの基本方針です。
グリーン発展は環境保全に配慮した技術や工場建設や循環型の経済発展の促進を、構造最適化は先端製造業やサービス型製造業への転換を指します。5つの方針のいずれも世界・日本と大いに通じており、同じ理想に向かって各国である意味イノベーションのレースが起こっている現状が見て取れます。
この基本方針は以下の9つの戦略に落とし込まれています。
5つの基本方針に従い、環境保護の姿勢やデジタル化による産業構造の変化を取り入れつつ、製造業のより高度で本質的な強化を行うための戦略です。
(※)印で示した重点産業は以下の10項目に分類されています。それらはより細分化すれば括弧内の分類を含めた23分野となります。
これらの分野内で具体的な数値的目標が定められており、例えば産業用ロボットの2025年の自国ブランドの市場占有率は70%が目標とされています。
現在進む中国製造2025の取り組みとして挙げられるのが以下の5つの重点事業です。
国家製造業イノベーションセンターとは工業技術研究の拠点となる施設であり、2025年までに40カ所程度の建設が予定されています。スマート・インテリジェント製造はいわゆるDXに象徴されるデジタル技術と製造業の融合です。工業基礎力は基礎部品、基礎工程、基礎材料、基礎技術など中国の製造業の発展においてネックとなっている分野であり、それらの重点的な強化が計画されています。環境に配慮したグリーン製造は2025年までに主要先進国並みへの引き上げを予定。ハイエンド設備は前述の重点産業へのイノベーション投資です。
また、中国製造2025を実現するための国の支援と補償については、以下の8つが掲げられています。
米中貿易摩擦の発生や新型コロナウイルスの世界的流行といった向かい風の中でも同計画は継続されており、今後もここまでに言及した方針に沿ってイノベーションが進められていくことが予想されます。
中国のインダストリー4.0「中国製造2025」について解説いたしました。
2025といえば、「2025年の崖」という言葉が思い浮かんだ方もいるのではないでしょうか。2018年9月に経済産業省の「DXレポート」で発表された、DXの未達により生じる課題の名称です。
2025年は中国にとっても日本にとっても一つの節目といえるでしょう。その年に向かって製造業はどう変化すべきなのか、市場はどう変化するのか、みなさんもぜひ考えてみてください。