世界トップクラスの自動車メーカーとして活躍する韓国のHyundaiは、自動車産業のみならず、製造業全体に通用する新しい概念として「メタモビリティ」を提唱しています。
この記事では、同社が提唱するメタモビリティとはどのような技術なのか、実現によって得られるメリットや、実現に必要なテクノロジーについて、解説します。
メタモビリティは、2022年1月にラスベガスで開催された世界的なテクノロジーの見本市である「CES」にて、Hyundaiが提唱した人間の移動に関する新しい概念です。
テクノロジーの力を活用し、現実世界とバーチャル世界の垣根を超え、人間がより自由に空間を移動できるような技術の実現を目指します。
また、メタモビリティの実現にあたっては従来動かなかったものが動くようになる、という点も重視されています。
これまで人間の移動を実現する技術は自動車や飛行機といった、移動に特化したものばかりであったのが、メタモビリティにおいては最新技術を活用し、移動したい時にすぐ動けるような、技術の垣根も超えていく世界になっていくことが想定されているのが特徴です。
メタモビリティの実現が大きく現実味を帯びるようになったのには、ロボティクスの大幅な技術革新に加え、以下のような技術の台頭が背景にあります。
メタバースは、仮想空間を構築してその空間の中で現実世界のように生活や経済活動を営むことができる技術です。
メタバースが注目されるようになったのは、ブロックチェーン技術によってデータの複製を不可能にすることができるようになり、アバターや仮想空間で取引される通貨に現実世界のそれと同等の価値を付与できるようになったことが理由に挙げられます。
現実世界のようにほかのユーザーとコミュニケーションをとるだけでなく、金銭のやり取りをしたり、土地のやり取りができたりするようになれば、現実世界と仮想世界の垣根は経済活動の面ではなくなっていくでしょう。
こういった時代に備え、メタモビリティによって現実と仮想空間を意識することなく移動できるテクノロジーを整備し、人間の移動の概念をアップデートしていく必要があります。
スマートフォンやスマートウォッチといったスマートデバイスの登場も、メタモビリティの実現を大きく後押ししています。
これらのデバイスの最大の特徴は、いつでもどこでもユーザーがインターネットにアクセスし、情報をインプットしたり、逆に情報を発信したりすることができる点です。
メタモビリティにおいてスマートデバイスは、特にメタバース空間への移動を速やかに実行する上で重要性が高いと考えられています。
スマートデバイスがメタバースに最適化していけば、ゆくゆくはワンタッチですぐにユーザーをメタバース空間に連れていくことも可能でしょう。
メタモビリティの実現に向けたプロジェクトはすでに進行しつつあります。Hyundaiがまず提唱するのは、小型ポッドに人間を乗せて目的地まで輸送をするという技術です。
小型ポッドは自律走行が可能な乗り物の一種で、バスの乗り場まで走行を終えると、あとは専用のバスがポッドを回収し、目的地まで連れて行ってくれます。
従来の乗り物とは異なり、乗り物に「乗る・降りる」という概念がほぼ消失しているこの技術は、移動効率の飛躍的な向上、あるいはバリアフリーの側面から実現可能性が検証されています。
今日では自動車の自動運転が盛んになっていますが、経済的合理性や運用効率の高さから、今後はこういったメタモビリティ技術が私たちの移動を支えてくれるようになる可能性もあるでしょう。
自動車製造やその他モビリティ製造のノウハウも、こういったメタモビリティに吸収されていくことも想定しておかなければなりません。
この記事では、Hyundaiの提唱するメタモビリティとはどのような概念なのか、普及によって何が変わるのかについて解説しました。
現状、メタモビリティはまだアイデアレベルに留まっている考え方ですが、既存技術の延長線上に存在するこの概念は、近い将来に実現する可能性の高いテクノロジーでもあります。
既存のモビリティ産業は、こういった新しい人間の移動に関する概念に吸収されていく可能性も検討しておく必要があるでしょう。