本記事では、SCOPE3の算定方法や削減事例をご紹介します。
2023年12月にUAEドバイにて開催された第28回気候変動枠組条約締約国会議(COP28)で、2030年までに再生可能エネルギーを3倍に引き上げることや、エネルギー効率の改善などが合意されました。
それを受けて今後、日本政府のカーボンニュートラル実現への取り組みが強化され、国内の企業に対しても対応策が求められる可能性があります。
カーボンニュートラル実現への入り口として、CO2排出量やサプライチェーン構造の把握が必要といわれています。 その中でまだ多くの企業が取り組めていないSCOPE3の算定は、今後必要性が増してくることが考えられます。
SCOPE3とは、事業者が行う生産活動の中で、取引先などのサプライチェーンが排出するCO2排出量や、ユーザーが製品を使用・廃棄した時に発生するCO2排出量などの合計です。
サプライチェーンには、製品の原材料メーカーや、運送会社、廃棄・リサイクル業者などが含まれます。
SCOPE3のほかにSCOPE1とSCOPE2を加えたCO2排出量が、製品のライフサイクルアセスメントにおけるCO2排出量にカウントされます。
SCOPE1、2、3の内訳は以下の通りです。
事業者の工場や事業所で発生するCO2が対象で、都市ガスやガソリンなどが排出源
事業者が購入使用した電気や熱などのエネルギーを生成するときに、発電会社などが発生させたCO2が対象
SCOPE1、2を除いた事業者の活動に関して発生したCO2が対象
これらの合計量が大きいと環境負荷が高い製品と認識され、環境意識の高いユーザーや取引先から厳しい評価を受ける場合があります。
SCOPE3は、ガイドラインに基づいて分類されたカテゴリルールを使用して算出します。
カテゴリには原材料調達、輸送・配送、従業員の出張・通勤、製品の使用・廃棄などが含まれています。これらのカテゴリごとに「活動量 × 原単位」によってCO2排出量を算出します。
例えば製品の輸送・配送カテゴリでは、燃料の総使用量に排出原単位を乗算して排出量を求めます。
原単位は政府が公表しているデータベースや実測値から求める方法があり、前者を利用する方が手間やコストはかかりませんが、精度が低下する恐れがあります。
現在はデータベースを利用する企業が多く、実測値で取引先からのデータ提出が難しいことなどが理由とされています。
さらに詳しい算定方法は、環境省が「サプライチェーンを通じた温室効果ガス排出量算定に関する基本ガイドライン」を示しています。
SCOPE3の算定作業は、SCOPE1や2に比べてハードルが高く、取り組みが始められていない企業が多いのが現状です。その理由は主に3点あります。
ガイドラインを参考にしても、必ずしも自社の事業活動が網羅されているわけではないので、担当者の判断が難しいケースがある
算定の範囲や精度の決定は、社内の関係部署にデータ収集を依頼している場合は部署間の調整が必要なため、簡単にはいかない可能性がある
必要なデータを社内関係部署や社外取引先から収集する場合が多く、スムーズに進まない
SCOPE1・SCOPE2のみに取り組む企業が多いのが現状ですが、SCOPE3の削減はカーボンニュートラル実現や、社会への訴求活動に繋がるため、多くの企業で進められています。
早くから取り組むことで投資家や消費者、海外企業から環境意識の高い企業として認知されることにつながります。
環境省ホームページに掲載されている一例をご紹介します。
事業者 | 活動内容 |
---|---|
YKK AP |
・家庭やオフィスのネットゼロに向けて省エネ製品を展開 ・断熱窓の提供で2020年度比117%のCO2排出量削減を達成 |
グローリー |
・サプライチェーン排出量の削減を2030年長期計画で取り組み ・使用電力の少ないG-エコ製品の投入などで削減を推進 |
イトーヨーカ堂 |
・経年的な評価や、社内外へのアピールのため取り組みを開始 ・レジ袋のバイオマス素材化など環境負荷低減を実施 |
大林組 |
・2005年京都議定書をきっかけに開示を開始 ・SCOPE3が排出量の9割を占める ・販売した製品の使用に関する低炭素型資材の適用、省エネ設計 |
味の素 |
・商品カテゴリ排出量の半分以上が家庭内調理で発生 ・家庭内調理時間の短いCook Do製品開発で削減を計画 |
出典:環境省ホームページ
COP28で協議された通り、地球温暖化対策は世界的な取り組みの加速が求められています。
SCOPE3は算定ルールが複雑で、データ収集に手間やコストがかかるため導入にはハードルがありますが、早くから取り組みを開始することで社外へのアピールや、経年的な変化をウォッチできるメリットがあります。