経営戦略を立案する際に、IPランドスケープと呼ばれる特許情報を活用する手法を導入する企業が増えています。本記事では、IPランドスケープの概要や活用するメリット、一般的な調査の流れについて解説します。
IPランドスケープとは、特許などの知的財産を意味するIPと、風景や見通しを意味するLandscapeを組み合わせた造語です。知財情報のデータの分析を通してさまざまな洞察を得て、企業の経営戦略に活かす試みのことをいいます。
IPランドスケープが広まった主な要因として、近年のビッグデータ分析やAI関連技術の進歩に伴い、大量の知財データを分析しやすい環境が整ってきたことが挙げられます。また、知財情報は無料で入手でき、特許庁で審査されているため客観的かつ信頼性があるデータです。そのため、企業の経営戦略における情報源の一つとして活用したいというニーズが高まっています。
知財情報の分析から得られる代表的な情報として、技術および市場の動向、市場における自社や競合のポジションなどがあります。それらの情報をもとに、今後の経営戦略、新たに取り組むべき技術、協働先や顧客候補などを検討します。IPランドスケープを実施する担当者には、特許を読み解く力、データを分析する力、調査対象の分野に関する専門知識が求められます。
IPランドスケープは、調査目的の把握、特許データの母集団の設定、市場全般に関するマクロ分析、特定技術やプレイヤーなどのミクロ分析、戦略提言および報告書作成、の流れで実施します。
はじめに、調査するテーマや目的を把握してから具体的な調査方法の検討を進めます。目的が曖昧だと分析のポイントが定まらず、役に立つ結果は得られにくいでしょう。経営戦略を検討する経営層や、新規技術の開発を行う研究開発部門などにヒアリングを実施し、調査対象の分野と調査目的、期限、進め方などを確認します。
ただし、ヒアリング相手も調査すべき分野を明確にできていない場合もあります。その際は調査結果を頻繁に展開しながら何度もヒアリングを重ね、調査すべき分野を絞り込む作業が必要です。
ヒアリングした結果を元に、調査対象となる知財データの母集団を設定し、使用するデータベースやツールなども決めておきましょう。抽出条件としては、技術用語などのキーワード、対象となる国や期間、IPCやFI記号、Fタームのような特許分類などを活用するとよいでしょう。抽出条件が決まったら、実際にツールを用いて抽出し、期待する知財データを含んだ母集団になっているか確認します。
分析の最初のステップは、母集団を俯瞰するマクロ分析により、調査対象の分野全般の傾向を把握することです。例えば対象分野について多く特許を出している出願人のランキングを作成すると、競合となり得るプレイヤーを把握できます。また、特許数に関する時系列のグラフを作成して技術のトレンドを確認する、競合が注力している分野や近年の動向を確認する、といった分析も可能です。
ただし、母集団の抽出が不適切だと誤った結果が出てしまい、その後のミクロ分析においても的外れな分析となってしまうかもしれません。市場レポートやニュース記事、企業が発信する情報、論文など知財情報以外の資料も調査し、分析結果の妥当性を確認することも重要です。
マクロ分析の次のステップとして、ミクロ分析でさらに詳細な分析を進めます。例えば、近年の特許出願数が増えている企業や、自社の競合企業など、特定の出願人についてより深掘りして調査します。調査対象の企業が近年出願を増やしている特許のジャンル、被引用数の多い特許の傾向などを調べることで、その企業の強みや今後の方針などが見えてくるかもしれません。
マクロ分析と同様に、ミクロ分析でも知財以外の資料も調査して妥当性を確認するとよいでしょう。出願人が公開するWebページを確認することも有用で、過去に特許を出した技術を用いた具体的な製品が載っている場合もあります。
特許の分析結果を元に、今後自社が取り組むべき分野、有望な協働先など経営戦略に活かせる情報を提言します。調査結果の報告書の作成を求められることも多いでしょうが、当初ヒアリングを通して決めた調査目的に沿った内容であるか、ぜひ確認してください。また、第三者が報告書を見て分析結果をすぐ理解できるよう、情報を絞り込んで整理しながらまとめるとよいでしょう。
通常の市場調査には多額の費用がかかりますが、知財情報を活用したIPランドスケープは安価に信頼性のある調査ができます。実際の分析作業では、調査目的を明確にすること、目的に沿った情報を抽出することが重要で、それを怠ると誤った結論が導かれる恐れがあります。
まずはご自身が専門知識を持つ分野の調査から始めてみてはいかがでしょうか。知識があれば分析結果の妥当性を判別しやすく、調査を進めやすいでしょう。