今から発展・実用化が期待されるテクノロジーの一つに、量子コンピューティングがあります。従来のコンピューターとは桁違いの計算速度を実現するといわれるこの技術。将来的には現状の暗号技術にとってリスクともなるといわれており、量子セキュリティ・量子インターネットといった対抗手段についても押さえておきたいところです。
量子コンピューティングは、我々の情報セキュリティにどのような影響をおよぼすのか。そして量子セキュリティ・量子インターネットとは何なのか。
本記事で基礎から押さえていきましょう。
「量子コンピューティング」とは、0と1の両方が存在する重ね合わせ状態を利用することで情報処理を行う手法です。私たちが現在使っている「古典コンピューター」は0と1の2進数で情報処理を行います。それは、一般的なコンピューターの何千倍、数万倍もの計算速度を誇る『富岳』などのスーパーコンピューターであっても変わりません。
量子コンピューターは重ね合わせ状態を利用することで計算プロセスを効率化し、古典コンピューターの何億何兆倍もの速度で計算を行ったり、現在処理が困難な複雑な問題を解いたりすることが可能になるとされています。
例えば現在、私たちのインターネット通信の安全を保証するために使われることの多い「RSA暗号」は桁数の多い合成数の素因数分解に非常に時間がかかることを前提としています。しかし、1994年に提案された「ショアのアルゴリズム」を用いることで計算回数を大幅に削減し、RSA暗号は短時間で解読可能になることが予想されています。また、ショアのアルゴリズムはRSA暗号と同様に広く用いられている楕円曲線暗号を支える離散対数問題の解を求めるにあたっても有効です。
すなわち、量子コンピューティング技術が悪意ある攻撃者によって発展させられ、悪用されれば、現在用いられている暗号の多くが無意味なものとなってしまう可能性も否定できません。シミュレーションやルート最適化、高速予測などさまざまなメリットを人類にもたらすと考えられる量子コンピューティングですが、このようなリスクを抱えていることも押さえておきましょう。
「量子コンピューティング」とは何かについて、より詳しくは『量子コンピューティングとは?注目の背景について解説』をご参照ください。
「量子セキュリティ」とは、量子力学の原理を利用して、情報を安全に伝送する方法です。その根底にあるのが「量子鍵配送」と「ワンタイムパッド」の二つの技術。
量子鍵配送とは量子状態を用いて乱数を生成し、暗号鍵を共有する方法です。何者かにより内容が観測された場合に量子状態は壊れてしまうため、確実に盗聴を検知できるという特徴があります。
ワンタイムパッドとは、暗号鍵を通信ごとに生成し、使い捨てる暗号化方式であり、長期間にわたって暗号の安全性を保つことができます。
量子鍵配送によって事前に暗号鍵を共有し、共有した暗号鍵とワンタイムパッドを用いることで情報理論的に絶対的な安全性を実現するのが、“量子セキュリティ”の仕組みです。
このように有効性の高い量子セキュリティですが、その実現にあたっては現在のところさまざまな制約が存在します。また、多変数多項式暗号、格子暗号、同種写像暗号、符号暗号など、耐量子計算機暗号(量子計算機に対抗しうる暗号)の研究も進められています。
さらに、現在の2048ビットのRSA暗号の寿命は2030年ごろまでとされており、それまでに3072ビット以上の鍵長に移行することが推奨されています。
「量子インターネット」とは、量子通信で構築されたインターネットを意味します。
量子インターネットを用いれば、完全に秘匿された二つの拠点間の通信も可能になります。それはすなわち、金融取引や国家レベルの機密情報のやり取り、国民投票などをプライベートな通信を介して行える可能性が開かれるということです。また、物理的に距離の離れた量子コンピューター同士を接続し、並列処理を行わせることで分散量子計算を実現し、飛躍的に計算能力を高められるとも目されています。ほかにも、超高精度な原子時計の同期によるナビゲーションシステムの発展や、天文学にも量子インターネットは貢献すると考えられています。
このようにさまざまなメリットを持つ量子インターネットの実現に向けて各国は力を入れて取り組んでおり、日本でもグローバル量子暗号通信網の構築や量子インターネット実現に向けた要素技術の研究開発に数十億円規模の予算が計上されています。
将来実現の期待される「量子セキュリティ・量子インターネット」について解説してまいりました。量子の性質を利用し、はるかに高精度な計測を可能にする「量子センシング」、これまでにない機能を発現する「量子マテリアル」など、量子技術の実用化が我々にもたらす進歩はほかにも多数存在します。 量子時代の到来を見据えて、貴社のDX戦略立案に取り組んでみてはいかがでしょうか。