本記事では、政府が掲げるグリーン成長戦略とは何か、その制度や今後の動向について解説していきます。
2022年に行われた第27回気候変動枠組条約締約国会議(COP27)で、世界気象機関(WMO)は、産業革命前からの世界平均気温が約1.15℃上昇、2020年から2年間で海面上昇が1センチメートル進んだと報告しました。気候変動による影響で、世界的に干ばつや大雨、洪水などが頻発し、経済的損失が増加しています。
パリ協定以降、世界平均気温を1.5℃の上昇に抑える目標が国際的な合意となりました。太陽光発電や風力発電などの自然エネルギーの活用や、電気自動車の普及など、CO2排出量削減のための取り組みは先進国を中心として一層の広がりを見せています。日本では2050年のカーボンニュートラル達成を目標として、グリーン成長戦略を策定しています。
グリーン成長戦略とは、2050年のカーボンニュートラル達成を目的とした技術革新や社会実装を支援する政府の取り組みのことです。環境対策のために経済を停滞させるのではなく、新たな成長分野としてエネルギーや環境分野に焦点を当てる考え方がベースになっています。
カーボンニュートラルの達成には、従来のビジネスモデルを大きく転換することが必要となります。企業がこれまで取り組んできた、化石燃料をエネルギーとした低コスト大量生産のビジネスモデルでは、利益を最大化するために大量のCO2排出を余儀なくされました。そのため、従来のビジネスモデルのままCO2排出量を減らそうとすれば、売り上げや利益の減少が避けられません。
これからのビジネスモデルには、製品の製造や物流、販売などでCO2をできる限り排出しない方法が求められます。そのために必要な技術革新や設備投資などを活性化させ、新たなビジネスへ成長させることが、グリーン成長戦略の重要な考えとなるのです。
政府がグリーン成長戦略に指定している14の産業と、その取り組みをご紹介します。
・風車、関連部品の開発・製造による洋上風力市場の拡大を目指す
・サプライチェーンの構築に対する支援を検討する
・カーボンニュートラル燃料であるアンモニア・水素燃料を普及させる
・アンモニアの混焼、専焼技術の開発や、サプライチェーンの構築を必要とする
・水素運搬船や水電解装置の技術開発により、水素価格の低減を進める
・2030年に既存インフラに合成メタンを1%注入、2050年には合成メタンを既存インフラに90%注入するなど、都市ガスのCN達成を目指す。
・メタネーションの高効率化などの革新的技術開発、安価な海外のサプライチェーンの構築等により、2050年までにLNG価格と同等のコスト(40~50円/m³)を目指す。
・安全性や経済性に課題がある原子力発電の技術開発を進める
・原子力発電の運転再開を目指す日本企業への支援を行う
・物流や日常の交通手段として使われる自動車などのカーボンニュートラルを進める
・電気自動車や合成燃料を普及させるための技術開発を支援する
・5Gなど次世代情報インフラの構築や半導体の省エネ化を進める
・カーボンニュートラル燃料である水素やアンモニアをエネルギーとする船舶の開発を支援する
・大型船でのゼロエミッション実用化や、スペース効率向上の技術革新などを進める
・港湾、臨海部へ水素やアンモニア輸入拠点を作り、カーボンニュートラルへのインフラ整備を進める
・スマート交通や物流施設の省エネルギー、脱フロンでカーボンニュートラルを進める
・農村部の森林や海洋の炭素貯蔵能力を拡大させて、食料生産の持続性を実現する
・藻場や干潟などを対象としてカーボンオフセット制度導入を検討する
・水素や代替燃料を利用する技術で国際競争力を強化させる
・装備品電動化、航空機向け電池の性能向上などを進める
・CO2を吸収するコンクリートの市場拡大を検討する
・藻類を培養したバイオ燃料の実証を進め、大規模化やコスト低減を図る
・エネルギーマネジメントシステムによる省エネルギー技術開発を進める
・次世代太陽光電池の実証を加速し導入を支援する
・バイオマス化、再生材利用を拡大させるため高機能化や低コスト化を進める
・リサイクル品回収ルートの最適化を図る
・J-クレジット制度の導入でCO2削減量取引の簡素化、自動化を進める
グリーン成長戦略を支える政府の支援金は、グリーンイノベーション基金として政府予算2兆円が組まれています。企業などの取り組みに対して、継続的な支援が最長10年間実施されます。
グリーンイノベーション基金は中小、ベンチャー企業や大学などの研究機関でも利用が可能です。ただし、国から支援を受けるためには、革新的・基盤的な研究開発要素を含むことが求められます。
現在は海外から水素を輸送・貯蔵・発電するための技術開発を行うプロジェクトがスタートしています。さらに今後はアンモニア、LNG燃料で動く次世代船舶の開発、水素航空機技術の開発などが着手される予定です。
グリーン成長戦略はこれから、カーボンニュートラルに向けて多くの分野で進められていきます。企業の技術開発や設備投資、新たなビジネス環境の構築で市場拡大が見込まれていますが、2050年カーボンニュートラル実現には多くの課題が残っています。経済合理性を追求する企業、快適性・利便性を優先する消費者などの意識改革が進んでいくことも重要だと考えられます。