人手不足の進む中で、大企業のみならず中小企業やベンチャー企業でのAI活用が期待されています。『戦略的基盤技術高度化・連携支援事業(中小企業のAI活用促進に関する調査事業)最終報告書』(経済産業省)によると、日本の中小企業におけるAIのインパクトは2025年までに経済効果にして最大11兆円、労働人口効果にして160万人分とのこと。しかし、同資料では同時にその効果に関する経営層の理解や開発・運用リソースの不足によりAI導入率は低い水準に留まっていることも指摘されています。
そこで本記事では、中小企業では具体的にどのようにAI活用が行われているのか、外部AI人材との協働で意識すべきことは何か、などについて解説します。
「AI Quest」とは、経済産業省がAI人材を育成するためのプログラムとして2019年度~2021年度に実施した「課題解決型AI人材育成事業」の別名です。同事業においては事前に設定されたテーマに基づいてAI Questに参加しマッチングした受講生と中小企業が、下記のような課題解決に取り組みました。
このプロジェクトでは、AIに対する理解がまだ不明瞭/テーマや課題の抽出は済んでいるがプロジェクトが本格的に進められてはいない/プロジェクトは設計済みだが、実証段階には進めていない、という三つのフェーズに企業が分けられています。課題解決を通してAI人材に学習の場を提供し、企業も学びを得るという目的のプログラムではありますが、そのほかの外部AI人材との協働においても、豊富に存在するAI Questの報告書を参考に自社のフェーズを見極め、プロジェクトを段階的に前に進める計画を立てることが推奨されます。
参考:2021年度AI Quest 中小企業と外部AI人材の協働事例集(経済産業省)
「マナビDX Quest」は「AI Quest」を引き継ぐAI人材育成プロジェクトで、2022年度から開始されました。地域の中小企業と外部のDX人材が協働し、課題解決プロジェクトを前に進める点は前身事業を引き継ぎつつ、その名の通りAIに限らずSaaS改善、ペーパーレス化、IoTなど広くデジタルによる課題解決を対象としています。2023年度のプログラムにおける企業の満足度は97%で、75%が「ネクストアクションが明確となった点」を評価しているといいます。
もちろん、AIに関するプロジェクトも数多く報告されており、以下のような事例が挙げられます。
こうしたプロジェクトに企業として、あるいは受講生として参加することで、外部の目を獲得しながらDX人材育成の足掛かりとできます。中には、社内から50名近くが「マナビDX Quest」へ参加し、社内コミュニティを形成することで、プログラムを通して形成した学びの文化を定着させることに取り組んだ企業もあるようです。このように外部人材との交流を介して社内のカルチャーや人材を育てる目線も、IT人材の確保が求められる現代において重要です。
参考:2023年度「マナビDX Quest」地域企業協働プログラム事例集(経済産業省)、マナビDX Quest PBL・協働プログラム 2022年度参加者の声 (経済産業省)
「ITコーディネータ(ITC)」は、IT経営とDX推進に特化したプロフェッショナルとして設けられた役割で、その資格取得者は2023年時点で約7,000名存在します。2001年のITコーディネータ協会設立以来、中小企業の支援に取り組んできたITコーディネータは、自社のリソース不足に悩む企業が伴走支援を依頼できる身近な存在の一つでもあります。
ITC団体は各地域に設立されており、例えばITC九州では、国際的な食品の衛生管理の手法である「HACCP」に対応した工場入場管理システムの導入計画立案からPoC、補助金の活用提案、アフターサポートまでITコーディネータの支援を受けて実施した事例が紹介されています。
このような各地域に存在するITコーディネータのコミュニティは、AIモデルの構築やシステム構成に関する相談のみならず、「自治体や金融機関の支援を受けられないか」「AI導入を通じて経営戦略自体を刷新したい」といった相談にも応じてくれる可能性があります。
参考: 支援機関を通じた中堅・中小企業等のDX支援の在り方に関する検討会(プレゼン資料) (経済産業省)
実際の事例をご紹介しつつ、中小企業は外部AI人材とどのように協業すべきかについて考えてきました。「AI Quest」「マナビDX Quest」のような短期(2~3カ月が標準)のプロジェクトでも企業の課題認識や目標設定がはっきりしていれば、確かな成果が報告されています。まずはご紹介したようなケーススタディを踏まえて、自社のフェーズを見極めることから始めましょう。