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2024年版ものづくり白書の要点を解説

レンテックインサイト編集部

2024年版ものづくり白書の要点を解説

2024年5月に、経済産業省・厚生労働省・文部科学省がものづくり白書を公開しました。毎年発刊されているこの報告書には、日本の製造業の現状や今後の展望がまとめられており、注目すべきポイントが数多くあります。本記事では、2024年版ものづくり白書の要点をまとめて解説します。

CXとDXによる「稼ぐ力」の向上

2024年版ものづくり白書によると、製造業の全般的な業況は大企業・中小企業ともに2023年12月時点では改善傾向にあったものの、2024年3月時点では悪化へ転じています。営業利益に関しては、2023年は前年よりも減少しているものの、2020年の新型コロナウイルス感染拡大以前よりは高い水準にあることが示されました。

このような近況の中で、今回のものづくり白書で強調されていたのがCXと DXの重要性です。どのような内容なのかをまとめてご紹介します。

CXによる組織経営の仕組み化

日本の主要な製造業企業は売上の半分以上を海外で稼いでおり、グローバル展開がここ15年ほどの主な成長戦略となっています。直近では連結ベースで過去最高益を更新した企業も多い一方で、利益率という観点では欧米企業よりも低水準であり、規模が大きく事業や地域が多角化するほど収益性が下がるという分析結果が示されています。

ものづくり白書ではその要因として、海外子会社も含めた企業グループ横断的な仕組みが整備されていない点を挙げています。日本企業の多くは組織設計を始めとするさまざまな権限を海外子会社に委譲する「連邦経営」を行っているため、経理・人事といった機能が重複したり、個別最適化された制度・ルールが作られたりしており、それが原因で非効率的な状況が生まれているということです。

今後、日本の製造業がグローバルで稼ぐ力を強化していくには、国内外の組織がシームレスにつながり、経営資源を最大限に活用できるようにしなければなりません。ものづくり白書は、ヒト・モノ・カネ・データに関わる共通基盤をグローバルで横串を通して整備するといったようなCX(コーポレートトランスフォーメーション)が求められていると主張しています。

DXによる製造機能の全体最適とビジネスモデルの変革

昨今では、日本の製造業の多くが「業務効率化・生産性向上」「人手不足への対応」「新商品・サービス・事業の開発」「既存の商品・サービス・事業の高付加価値化」などを目的にDXに取り組んでいます。しかし、実態としては個別工程のカイゼンにとどまっており、製造機能の全体最適や事業機会の拡大を目指す取り組みはまだまだ少ないという調査結果が示されました。

ものづくり白書は、製造機能の全体最適に向けて、経営戦略に沿ったデジタル戦略を思い描くとともに、製造現場の業務プロセスの全体像を熟知した上でデジタル技術を実装していくべきと主張しています。また、事業機会の拡大に向けては、アフターサービスなどのサブスクリプションサービスや、プラットフォームビジネスなど、ビジネスモデルの変革に取り組むべきと述べられています。

ものづくり企業の人材育成

ものづくり白書によると、中小製造業における従業員の過不足状況はコロナ禍で一時的に過剰気味になったものの、2023年にはコロナ禍以前の水準に近付いており、改めて人手不足が深刻化しています。このような状況下では生産性向上などを目的に既存の人材を積極的に育成していくことが求められますが、従業員の能力開発を実施した企業の割合はコロナ禍以前の水準には戻っていません。

ものづくり白書は、デジタル化に対応した人材の確保・育成が重要であることを強調しています。実際に、中小企業の中でもデジタル技術の活用が進んでいる企業は2019年から2023年にかけて営業利益を伸ばしている割合が高く、賃上げなどの従業員の処遇改善も進んでいるという調査結果が示されました。活用割合が多いデジタル技術としては、CAD/CAM、生産管理システム、クラウド、ICT、プログラミング、ロボット、IoTなどが挙げられています。

政府は製造業の人材育成に対して、助成金やデジタル技術を含む多様な職業訓練の提供、技能検定の推進などの施策を打ち出しています。特に中小企業の方は、これらの制度を積極的に活用していくとよいでしょう。

2024年版ものづくり白書の要点を解説 挿絵

新たな価値を生み出す基盤づくり

政府は文部科学省を中心に、デジタル技術を使いこなすための知識と技術を身につけ、新たな価値を生み出せる人材を育成する取り組みを進めています。

例えば、高等教育の段階において数理・データサイエンス・AIなどの教育体制を強化し、DXを推進できる人材の育成を目指しています。また、日本の主要産業であるものづくりの次世代を担う人材を育成するため、各学校段階でのものづくりへの関心を高めるための教育や、社会人の学び直しの支援などの取り組みも始まっています。

さらに、政府は日本が目指すべき未来社会の姿として「サイバー空間とフィジカル空間を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する人間中心の社会」である「Society 5.0」を提唱しており、その鍵となる先端的技術の研究開発も推進しています。具体的には、人工知能技術、マテリアル、光・量子技術、環境・エネルギーなどの技術領域であり、最新の研究内容や今後の展望がものづくり白書で示されています。

ものづくり白書を参考に「稼ぐ力」の向上を

2024年版ものづくり白書には、日本の製造業に関するさまざまな調査結果や課題、今後の展望などがまとめられています。その中でも特に強調されていたのがCXとDXによる「稼ぐ力」の強化が重要という点であり、製造業が競争力を高めていくために重要な視点が示されました。このような情報をいち早く取得し、スピード感を持って改革していくことで、製造業の競争力は高まっていくでしょう。製造業企業はものづくり白書を参考に、自社の現状と今後について考えてみてはいかがでしょうか。

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