政府は行政サービスの効率化やデジタル化を推進しており、情報システムの調達方式の見直しも進めています。従来の調達方式では、手続きの負担が大きく、参入障壁も高いなど、官民双方に負担がありました。そこで、新しい調達手法としてデジタルマーケットプレイス(DMP)の導入が検討されています。本記事では、DMPの概要やメリット、検討経緯と今後の見通しについて解説します。
デジタルマーケットプレイス(DMP)とは、デジタル庁が運営する調達プラットフォームのことです。DMPではクラウドソフトウエアおよびその導入支援サービスが調達対象となり、Webサイト上にサービス内容を登録できます。
DMPは、事業者がクラウドソフトウエア(SaaS)やその導入支援サービスを登録し、行政機関がそこから目的のサービスを検索・選定して簡易に調達できる仕組みです。従来、行政機関の調達は複数のベンダーにサービスとその価格を提案してもらい、最適なものを選ぶ「総合評価方式」が一般的でした。しかし、この過程で調達期間が長くなる、手続きの負担が大きい、参入障壁が高く市場の透明性が低いなどの課題がありました。
DMPでは、事前にデジタル庁と基本契約を締結した事業者がサービス内容を登録するカタログサイトを設けます。サービスの仕様や価格が公開されているため、行政機関は迅速かつ効率的に最適なサービスを選べます。また、市場の透明性が高まり、多様な事業者の参入が期待できるでしょう。
DMPにおける調達対象としては、クラウドソフトウエアおよびその導入を支援する販売会社のサービスが想定されています。一方、IaaSやPaaS、受託開発によるソフトウエアは調達対象外となる見込みです。
調達プロセスは以下の通りです。事業者は、デジタル庁との基本契約に基づき、DMPのWebサイト上に自社のクラウドソフトウエアやサービスの仕様、契約約款、価格表などの情報を登録します。行政機関は、DMPの検索機能を使って、目的に合ったクラウドソフトウエアやサービスを絞り込みます。
絞り込んだ検索結果を確認し、行政機関が最終的に利用するソフトウエアやサービスを選定します。この検索結果はエビデンスとして保存可能です。選定したソフトウエアやサービスについて、行政機関と事業者の間で個別契約を締結することで、実際の発注を実施します。
DMPの導入には行政機関と事業者それぞれにメリットがあります。さまざまなサービスを公平な場で比較できるようになり、調達手続きの簡素化にもつながります。
行政機関側には大きなメリットが三つあります。一つ目は、DMPに登録されたサービスから目的に合ったものを簡単に検索でき、比較も容易になることです。従来は行政機関が必要に応じて独自に情報を収集していましたが、DMPなら一括で比較検討できます。
二つ目は、クラウドサービスを調達するため、迅速な導入が可能になることです。自前でシステムを構築するよりはるかに短期間で運用を開始できます。
三つ目は、調達手続きの負担が大幅に軽減できることです。DMPでは仕様やコストなどが明記されているため、調達仕様書の作成や事業者選定での手間が省けます。
一方、事業者側にも三つのメリットがあります。一つ目は、DMPに自社サービスを登録することで、幅広い行政機関に無料でサービスをアピールできることです。従来のような個別の営業活動が不要になり、コストを抑えられます。
二つ目は、調達手続きが簡素化されることで、参入障壁が下がり、新規参入がしやすくなることです。これまでは調達に慣れた大手ベンダーに有利な状況がありましたが、中小企業やスタートアップも公平に参入できるようになります。
三つ目は、DMPにさまざまなサービスが掲載され、参加企業が可視化されることです。透明性が高く、公平な調達が実現します。
これまで、デジタル庁ではDMPの導入に向けた検討を重ねてきました。2022年には有識者や関係者から成る「オープン・タスクフォース」を設置し、日本におけるDMPのあり方について議論しました。
2023年度に入ると、具体的な実証の場としてDMPのテスト版であるα版のサイトを公開しました。テスト版サイトでは、実際にソフトウエアの登録や検索が可能で、利用者の視点から課題を洗い出す作業を行っています。
2024年度後半にはDMPの正式版サイトの公開を予定しており、実際にDMPを経由した調達を可能にすることを目指しています。
DMPは行政のIT調達を変革する新しい仕組みです。迅速な調達が可能になり、多様なベンダーの参入が実現することで、行政サービスの質の向上が期待できます。DMPのテスト版であるα版サイトでは、すでにソフトウエアの登録や検索が可能です。行政機関向けITサービスを検討している事業者は参加を検討してみてはいかがでしょうか。