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TSMC熊本工場が始動。今後の展望は?

レンテックインサイト編集部

TSMC熊本工場が始動。今後の展望は?

2024年2月24日に、台湾のTSMCが熊本県に建設した半導体工場の開所式が行われました。投資額が1兆2,900億円に上り、日本政府からも巨額の支援を受けている一大プロジェクトであることから、今後の動向が気になっている人は多いでしょう。そこで本記事では、TSMC熊本工場の現状や、今後の展望についてご紹介します。

TSMC熊本工場が2024年2月に始動

半導体受託製造(ファウンドリー)の最大手である台湾のTSMCは、子会社である「Japan Advanced Semiconductor Manufacturing株式会社(JASM)」を熊本県に設立しました。TSMCにとっては日本初となる工場であり、ソニーコンダクタソリューションズやデンソー、トヨタ自動車などが一部出資しているほか、半導体を経済安全保障上の重要物資と捉えている日本政府が4,760億円もの補助金を出しています。

TSMC熊本工場の建設は2022年4月に始まり、当初の計画通り2年足らずで開所するに至りました。その背景には、日本国内での半導体生産の知見を持つソニーグループや、建設を担った鹿島建設などの尽力があったといえます。新工場は熊本空港から車で15分ほどの距離にある熊本県菊陽町に建設され、その敷地面積は東京ドーム4.5個分に相当します。現在は2024年末の生産・供給開始に向けて、人材の雇用や教育、生産ラインの構築といった準備が進められている状況です。

TSMC熊本工場の役割

TSMC熊本工場では、22/28nmプロセスや12/16nm FinFETプロセス技術を用いた半導体を製造し、生産能力は300mmウエハー換算で月産55,000枚となる見込みであることが公表されています。半導体におけるプロセスとは、「半導体チップをどれだけ微細に作っているか」を示す言葉であり、基本的には数値が小さいほど高性能と考えればよいでしょう。

現在の最先端は3nmや2nmプロセスと言われており、TSMC熊本工場の製造プロセスは数世代前のものとなっています。しかし、半導体チップは必ずしも最先端のものが求められているわけではありません。数世代前であっても、用途によっては十分な性能を発揮します。新工場で製造された半導体は主に日本市場に向けて供給される予定であり、日本の主要産業である自動車や産業機器、ソニーのイメージセンサーなどでの活用が見込まれています。

また、日本にとっては雇用の創出や関連する半導体企業の集積などのメリットもあります。実際に、新工場では1,700人の雇用が予定されており、台湾の技術者などの移住に伴って近郊ではマンションの建設ラッシュが起きているといいます。もともと九州は半導体関連企業が多く、かつては「シリコンアイランド」と呼ばれていた地域ではありましたが、さらに多くの企業や人材が集まってくることでしょう。TSMCの進出をきっかけに、日本が半導体生産地として発展していくことが期待されています。

TSMC熊本工場が始動。今後の展望は? 挿絵

すでに第二工場の建設も決定

TSMCはすでに隣接地での第二工場の建設を発表しており、こちらは2024年末の着工、2027年末の生産開始を目指しています。第二工場では、より微細で現在の日本では製造できない6/12nmプロセスと、日本国内での需要が大きい40nmプロセスの半導体を製造する予定となっており、第一工場と同じく主に日本市場向けに供給される見込みです。6/12nmプロセスの半導体はAIや自動運転などの先端分野で求められる高性能なものであり、日本経済の発展に大きく影響すると考えられています。

日本政府は第二工場に対しても最大で7,320億円の補助金を出すと発表しており、半導体の国内生産を積極的に後押しする姿勢がうかがえます。まだ確実ではありませんが、すでに第三工場の誘致を進めているという噂もあり、今後の動向が見逃せません。TSMCはアメリカのアリゾナ州でも第一、第二工場の建設を進めていますが、現在の最先端である2nmプロセスを導入した第三工場の建設を計画していると発表しています。日本でも、より微細な半導体を製造する第三工場を建設する可能性があるといえるでしょう。

日本の半導体産業が活発化するきっかけとなるか

TSMCの熊本進出によって、日本の半導体産業が活気付いていることは間違いありません。半導体受託製造の最大手であるTSMCの存在は材料メーカーや半導体製造装置メーカーなどの関連企業を呼び込んでおり、九州が再び「シリコンアイランド」として復活する兆しが見えつつあります。また、TSMCだけではなく、政府が累計9,200億円の支援を行っており、最先端半導体の国産化を目指すRapidus(ラピダス)にも期待が集まっています。日本の半導体産業がこれからどのように発展していくのか、引き続き注目していきましょう。

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