サイバー攻撃による被害は企業や組織にとって致命的となる可能性があり、その対策としてサイバーBCP(事業継続計画)の策定が求められています。本記事では、サイバーBCPの基本的な考え方やビジネスへの影響、サイバーBCP策定時に注意すべきポイントについて解説します。
サイバーBCPとは、サイバー攻撃によって事業の存続が危ぶまれるような緊急事態が発生した場合の対応計画のことです。一般的なBCPは自然災害などを想定したものですが、それに加えてサイバー攻撃に特化したBCPの必要性が増しています。
一般的なBCPとは、自然災害や大火災、テロなどの緊急事態が発生した際に、事業の損害を最小限に抑え、早期に事業を復旧させるための計画のことです。緊急時の対応について事前に計画を立てて準備を進めておくことで、事業の縮小や廃業を防ぎ、事業を継続できるようになります。それだけでなく、市場からの信用を失わず、組織の競争力を維持できるという効果もあります。
BCPのポイントは、どの事業を優先して復旧させるべきかを明確にし、復旧までの目標時間や提供可能なサービスのレベルを設定することです。また、事業の復旧が困難だと見込まれる場合の代替策やBCPの内容に関する従業員との認識合わせも重要です。BCPを運用していくには、事業内容に合わせてBCPの基本方針と運用体制を確立し、日ごろから継続的にテストを重ねて内容をアップデートしておかなければなりません。
近年、サイバー攻撃が増加しており、企業や組織に対する脅威が高まっています。このような状況では、従来のBCPとは異なる、サイバー攻撃に特化した対策が必要とされています。BCPの中でも、ITシステムの事業に関する方策を「IT-BCP」、特にサイバー攻撃のリスクに焦点を当てた方策を「サイバーBCP」と呼びます。
サイバー攻撃には、マルウエアなどの不正プログラムの感染やシステムを妨害するDDoS攻撃などがあります。自然災害とは異なり、サイバー攻撃には特定の組織を狙った標的型攻撃が多く、適切な対策によるリスク低減が可能です。
一方で、サイバー攻撃は被害に気づきにくく、早期発見できなければ被害が拡大する可能性があります。また復旧時の対応が不適切であれば、再攻撃を受けることもあります。もし個人情報の漏洩などが発生すれば、たとえサイバー攻撃を受けた側であっても、賠償金の支払いのような加害者視点での対応が必要な場合もあるのでご注意ください。
サイバー攻撃は年々増加しており、その影響は極めて大きいです。総務省が公開する令和5年版の情報通信白書によると、2022年におけるサイバー攻撃関連の通信数は、2015年と比較して8.3倍に増加しました。また2021年度において、日本国内で発生したセキュリティインシデントによる1組織当たりの年間平均被害額は約3.3億円となっています。
近年の傾向として、WebカメラやルーターなどIoT機器を対象とした攻撃が増加しています。ビジネスにおけるデータの価値が高まる中で、データの損失や漏洩はビジネスに大きな影響を与えかねません。金銭的な被害だけでなく、顧客やパートナー企業との信頼関係を損なう可能性もあります。
サイバーBCP策定において重要なのは、データのバックアップ、代替手段の準備、そしてインシデント発生時の初動対応体制の三つです。
データは事業運営における貴重な資産です。定期的なバックアップは必須であり、その保存先や世代管理も考慮する必要があります。ローカルだけでなく、遠隔地やクラウドを活用することで、リスクを分散することも検討しましょう。また、データ管理によるコア業務への影響を最小限に抑えるため、自動バックアップシステムなどの導入も有効な対策となります。
自然災害などのさまざまなリスクにも備えて、代替手段を準備しておくとよいでしょう。ただしサイバー攻撃においては、被害状況が明らかでない場合も多く、同じ構成の代替手段を使用するのは再攻撃を受けるリスクもあります。被害を受けた際は、攻撃の原因と範囲を把握した上で、システムを復旧する必要があります。また代替手段では、メインの機器とは異なるサーバーやOS、ソフトウエアなどを使用しておくことで、同じ攻撃手段が通用せず、リスクを低減できるでしょう。
インシデントが発生した場合には、原因分析と対応を迅速に行うための体制を確立しておく必要があります。特にサイバー攻撃が進行中の場合は攻撃を止めることを最優先とすべきで、初動対応が遅れると被害が拡大する可能性が高いです。
BCPの発動判断を素早く行う明確な基準を設定し、全員でその基準を共有しておくことが重要です。サイバー攻撃の新しい手法は常に警戒し、システムの監視や攻撃の検出を強化しておきましょう。従業員への教育や訓練も不可欠で、それによって対応の不備や弱点を早期に把握できます。
現代の企業や組織にとってサイバー攻撃は避けられないリスクとなっており、その被害を最小限に抑えるため、サイバーBCPの策定が求められています。事前にサイバー攻撃のリスクを評価し、適切な対応体制を整えておくことで、経済的な損失を抑え、組織の信頼性を高めることが可能です。サイバー攻撃の手法は日々進化しているため、BCPを策定するだけでなく、定期的に見直しと更新を行うようにしましょう。