ICT環境の発展や国際情勢の影響を受けて、日本社会は現在大きな変化の渦中にあります。
その中でも製造業に深く関わるものとして耳目を集めているのが「Society 5.0」です。
皆さんもどこかで一度は耳にしたことがある言葉ではないでしょうか。
本記事ではSociety 5.0の概念と製造業への影響、現在どの段階まで進んでいるのか、これからどのように進むと予測されるのかについてご紹介します。
Society 5.0を一言で表すと、“日本社会全体におよぶDX(デジタルトランスフォーメーション)”です。DXの必要性は製造業界においても叫ばれて久しいため、何となくイメージのつく方は多いでしょう。念のため簡単に説明すると、IoTやAIといったIT技術を企業の事業のあり方そのものに組み込んでしまうのがDXです。以前から唱えられていた「デジタル化」「ICTの利活用」といった言葉とは、IT技術を“産業の根幹に組み込んでしまう”という点で異なります。
2004年にスウェーデン・ウメオ大学のエリック・ストルターマン教授が提唱した「ITの浸透が、人々の生活や仕事をあらゆる面で良い方向に変化させる」というDXの概念を日本社会の設計に応用したのがSociety 5.0といえるでしょう。Society 5.0という言葉の初出は2016年に公表された第5期科学技術基本計画。平成28年度から本年度にあたる平成32年度(令和2年度)までの5年間の科学技術政策について、10年先を見据えて定義された計画です。
(参照:内閣府 科学技術基本計画)
Society 5.0により行政サービスのスマート化やオーダーメイド医療の提供、自動運転車の実用化が可能となり、少子高齢化や生産年齢人口の減少といった現在予測されている社会問題の解決につながることが期待されています。
Society 5.0の概要についてご説明しました。
ここまでご覧になって「結局製造業にとって何の役に立つの?」と疑問に思った方もおられるのではないでしょうか。
そこで、三つの観点からSociety 5.0が製造業に与える影響を解説します。
一つ目は、そのものずばり製造業自体がDXにより変化するということです。
製造業ではDXによって以下のような進化を果たすことが目指されています。
社会全体のDX化を目指すSociety 5.0では関わりの深い業界の変化の影響を受けることもあります。
例えば物流業界ではルート・遅延時間・ムダ走行など移動体のデータを取得することで配送の最適化を実現、さらには自動運転トラックの実現にも目線が向けられています。物流業と自動車業の両業界の連携により積み込み・積み下ろし作業の自動化などもさらに高度化し、一般化が進められていくことでしょう。
物流業界と同様に、製造業でも関わりの深い業界それぞれに変化が生じ、その影響で製造業にも変化が起こるでしょう。
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Society 5.0は国・自治体によって進められる国家戦略です。
そのため、その実現に向けた法整備や研究開発の公募・支援の取り組みが盛んに行われています。
例えば、長野県では「AI・IoT等先端ツール活用DX推進事業」が実施され、所定の条件を満たした事業者には、IoTの活用にまつわる分野で100万円以内、AIの活用にまつわる分野では200万円以内の補助金(補助率は最大2分の1)が支給される機会が用意されています。
(参照:長野県 AI・IoT等先端ツール活用DX推進事業(中小企業先進的取組等支援補助金))
2020年、世界の様相は大きく変わりました。その原因は新型コロナウイルスの流行です。その影響でSociety 5.0の推進が加速すると言われています。
人との接触が難しくなり、オンライン上でのやり取りが急増したウィズコロナ社会。Society 5.0で拡充が進められていたデジタル空間の価値はさらに大きいものとなりました。
また、5月に総理大臣官邸で行われた令和2年第7回経済財政諮問会議の資料では、第5期科学技術基本計画の反省として“Society 5.0”を社会実装するスピードで中国・アジア諸国をはじめとした海外に差をつけられたことが挙げられており、令和3年度からの第6期科学技術基本計画では”次の5年はSociety5.0に向けて科学技術・イノベーションエコシステム変革をやり遂げる期間(スピード感と危機感を持った計画の策定の必要性)”と示されています。
(参照:令和2年第7回経済財政諮問会議の資料)
Society 5.0の概念、製造業への影響、現在とこれからの方向性についてご紹介しました。Society 5.0は今後さらに推進され、まさに社会に当たり前のものとして実装されることが目指されています。
その流れに乗り遅れぬよう、業界全体としてDXへの取り組みが求められています。