日本では近年、半導体開発研究が再び盛んになっていますが、これは半導体産業が世界中で大きな需要を生んでいる産業であることが背景にあります。日本のハイテク産業の成長にも欠かせない半導体ですが、これを特に必要としているのが自動車分野です。
この記事では、自動車用の半導体開発と供給をより確かなものにするための組合であるASRA(自動車用先端SoC技術研究組合)について、解説します。
SoCはシステム・オン・チップ(System on Chip)の略称で、特定の目的を達成するのに必要な機能や要素がすべて実装された、統合型の半導体です。
通常、コンピューターを動作させるためにはCPUやその他プロセッサなどを別個に組み上げる必要がありますが、SoCは最初から必要な機能がすべて備わっているので、別個に材料を用意しなくても運用できます。
SoCの最大のメリットは、その軽量性と小型化にあります。従来のようなICチップをそのまま運用しようとすると、複数のパーツを組み上げる必要があるため、小型化には限界があります。一方でSoCなら、はじめから小さな半導体の中にすべての機能を搭載できるので、サイズの制限を受けることなく運用することができます。
このような特性を持つSoCは、近年のあらゆるハイテクデバイスにおいて採用が進んでいます。スマートフォンやカーナビ、IoT家電など、サイズに制約のあるプロダクトでもSoCがあれば強力なコンピューティングを実現できます。
そんなSoCの研究開発を国内でさらに促進すべく、2023年12月に設立されたのがASRAと呼ばれる団体です。
ASRAは「Advanced SoC Research for Automotive」の略称で、簡単に言えば高性能な車載用のSoC開発を企業が共同で行うための組織です。
同組織は主に異なるプロセスのノードや製造過程を経た半導体を組み合わせるチップレット技術の研究開発に注力することを目的としており、各分野のリード企業が同団体に所属することで、強力な技術革新を促すことが期待されます。
チップレット技術は、目的に応じて性能や機能、コストなどをカスタマイズしやすく、半導体活用の柔軟性をさらに高めることができます。このチップレット技術の強みを最大限引き出そうとしているのがASRAです。チップレット技術はまだまだ向上の余地がある技術と考えられており、同団体の研究開発を通じて高度な自動車開発にもつながることが予想されます。
ASRAには数多くの企業が参画を表明しており、その業界は自動車業界にとどまりません。
自動車メーカーからはSUBARUやトヨタ自動車、日産自動車などの大手企業が参画を表明しているのはもちろん、電装部品メーカーからはデンソーやパナソニックオートモーティブシステムズが、半導体関連企業からはソシオネクスト、日本ケイデンス・デザイン・システムズなどが参画しています。
全部で12社からなるこの組織は、車載用SoC開発において強力な推進力となってくれるでしょう。
ASRAは2028年までにチップレット技術を確立したいと考えており、2030年以降は実際に量産車へ同団体開発のSoCを実装することを目指しています。
チップレット技術の確立により、自動車メーカーからの要求へ応えやすく、それでいてコストパフォーマンスに優れたSoCを提供し、より民間レベルでハイテク活用を推進できることが期待されます。
自動車メーカーが中心となって車載用のチップレット技術を開発することは、自動車に最適化された半導体の開発にも繋がります。有人・無人を問わず安全と信頼が確立された自動車を提供する上で、ASRAの取り組みは社会的意義の大きなものになるといえるでしょう。
この記事では、車載用SoC開発を国内で強化するために誕生したASRAについてご紹介しました。日本の名だたる自動車メーカーが中心となって設立したこの団体は、今後の自動車のハイテク化や安価で高機能な商品提供の継続において、重要な意味を持ちます。
今後10年以内に一定の成果をもたらすことが期待されるASRAは、一般消費者にとって恩恵があるのはもちろん、モビリティ企業と縁の深い産業に携わる事業者にとっても大きな意味を持つことになりそうです。