IT人材不足が続く日本の産業界。サイバー攻撃も増加・巧妙化の一途をたどる中で、情報処理技術者試験の中で唯一の国家資格である「情報処理安全確保支援士(登録セキスペ)」に注目する個人・企業は少なくないでしょう。しかし、登録資格は取得したものの登録するかどうか迷っているという個人の声もまたよく耳にします。
いったい、「情報処理安全確保支援士(登録セキスぺ)」とはどんな資格で、そのメリット・デメリットにはどのようなものがあるのでしょうか。詳しく本記事でご紹介します。
「情報処理安全確保支援士(登録セキスぺ)」がサイバーセキュリティの専門人材を認定する国家資格として創設されたのは2016年10月のことです。その業務内容は『情報処理の促進に関する法律』の第六条にて、以下のように定められています。
情報処理安全確保支援士は、情報処理安全確保支援士の名称を用いて、事業者その他の電子計算機を利用する者によるサイバーセキュリティ(サイバーセキュリティ基本法(平成二十六年法律第百四号)第二条に規定するサイバーセキュリティをいう。以下同じ。)の確保のための取組に関し、サイバーセキュリティに関する相談に応じ、必要な情報の提供及び助言を行うとともに、必要に応じその取組の実施の状況についての調査、分析及び評価を行い、その結果に基づき指導及び助言を行うことその他事業者その他の電子計算機を利用する者のサイバーセキュリティの確保を支援することを業とする。
出典:情報処理の促進に関する法律┃e-Govポータルその取得にあたっては、春・秋の年2回実施される「情報処理安全確保支援士(登録セキスペ)試験 [SC]」を受験するのが一般的なルートです。午前・午後で多肢選択式・記述式の問題が出題され、令和5年度秋期試験からは、これまで午後Ⅰ・午後Ⅱに分割されていた午後の試験が150分の記述式試験に統合されることとなりました。この試験の受験手数料は7,500円(国家資格のため非課税)です。
合格後は、試験を運営するIPA(独立行政法人情報処理推進機構)に登録申請書・現状調査票や誓約書、情報処理安全確保支援士試験の合格証書(写し)といった必要書類を提出することで登録が行えます。その際、登録免許税(9,000円)・登録手数料(1万700円)が必要となります。
情報処理安全確保支援士(登録セキスぺ)資格の有効期限は登録日から起算して3年です。登録更新のためには、義務付けられた講習をすべて修了し、情報処理安全確保支援士ポータルサイトから登録更新申請を行わなければなりません。講習には1年に1回、ポータルサイトからの受講が求められるオンライン講習と、3年に1回受講が求められる実践講習または特定講習が存在します。
なお、現在、情報処理安全確保支援士(登録セキスぺ)の登録資格を得る手段には、情報処理安全確保支援士試験に合格するルートのほかに、下記の二つも存在します。
「情報処理安全確保支援士(登録セキスぺ)」の資格を取得するメリットは、サイバーセキュリティ対策のスペシャリストとしての個人・企業の信頼性を高める条件となるという点につきます。
情報処理安全確保支援士(登録セキスぺ)に登録することで、カード型の登録証が発行され、同名称やロゴマークを名刺や論文で使用できるようになります。情報処理安全確保支援士(登録セキスぺ)でない方が同名称を使用した場合、「情報処理の促進に関する法律」第61条により罰則の対象となるため、まさに独占的な権利となります。また、「情報処理安全確保支援士検索サービス」に名称とともに得意分野や保有スキル、勤務地などを記載することで、自身を必要とする企業や団体に見つけられやすくなります。
政府は「令和7年度(2025年度)までに情報処理安全確保支援士(登録セキスぺ)の登録者数を3万人にする」という目標を掲げており、入札要件に情報処理安全確保支援士(登録セキスぺ)の配備を含めた公告を行う、DX投資促進税制を受ける条件の一つにもなっている「DX認定」の審査で考慮に含める、中小企業の情報セキュリティマネジメント指導業務を依頼する、などの取り組みを行っています。
一般社団法人情報処理安全確保支援士会(JP-RISSA)のように情報処理安全確保支援士(登録セキスぺ)であることが加入要件である団体も存在し、講習や同団体でのネットワーキングを通じたさらなるスキル向上につながる点もメリットといえるでしょう。
コストの大きさがデメリットとして挙げられることが多い 「情報処理安全確保支援士(登録セキスぺ)」の取得をためらう、あるいは登録を廃止する理由として代表的なのが、更新費用や講習の受講など資格維持に必要なコストが大きく感じられる、というものが挙げられます。
毎年のオンライン講習に必要な受講費用は2万円かつ、標準学習時間は6時間。さらに、3年に1回の実践講習はもっとも安価な「実践講習A」でも8万円の受講料と、個人学習+グループ討議で構成された標準で7時間の学習時間が必要となります。
実践講習の場合、IPA実施のものに準ずると経済産業省大臣が認めた民間事業者の特定講習という選択肢も存在するものの、やはり3年間で合計10数万円の更新費用が必要となることは変わりません。そのため、資格取得支援制度などを利用し、企業負担で取得・維持に取り組むケースが一般的です。
個人のキャリア形成などでは、資格以上に実務経験や実績が重視されるため、コストに比べてメリットが小さいと判断されるケースもあるでしょう。CISSPやCISM、CompTIA Security+といった国際的な情報セキュリティの専門資格やほかの国内の資格と比べて、国家資格であるという点がどれくらいアドバンテージとなるのかも、情報処理安全確保支援士(登録セキスぺ)の取得・維持においての判断軸となるはずです。
サイバーセキュリティに関する唯一の国家資格である「情報処理安全確保支援士(登録セキスぺ)」について解説してまいりました。2023年4月1日における登録者総数は2万1,633名で、情報処理安全確保支援士試験の毎年の合格率は10%台後半〜20%台前半を行き来しています。 一定の難易度の試験を通過した(あるいはそれと同様の実力があると経済産業大臣から認められた)証明になる点を踏まえ、試験合格後、登録申請を行うかどうかの判断を行ってもよいでしょう。