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癒しの空間を作り、生活のさまざまなシーンに彩を与える「aibo」~ソニー社訪問レポート~

レンテックインサイト編集部

IT Insight 癒しの空間を作り、生活のさまざまなシーンに彩を与える「aibo」~ソニー社訪問レポート~

ソニー株式会社
AIロボティクスビジネスグループ 儀我 有子氏
AIロボティクスビジネスグループ 望月 大介氏

 一家に一台を目指して開発されたペットロボット「aibo」。家庭でペットとして飼われるだけでなく、企業のオフィスや病院の待合室、銀行の店舗内にも癒しの存在として置かれています。aiboがどのように開発されてきたのか、そしてwithコロナの時代に、aiboが生活にどのような影響を与えるのか、ソニー株式会社AIロボティクスビジネスグループの儀我 有子氏、望月 大介氏にお話を伺いました。

最初は昆虫だった⁈人との関係性を追求し続けたaiboの歴史

 aiboの誕生は1999年にさかのぼります。初代aibo(当時の製品名はすべて大文字の「AIBO」)はソニー株式会社によって、世界初のAIを使った家庭用エンターテインメントロボットとして開発されました。犬型のロボットとして知られていますが、意外にも最初の姿は「犬」ではありませんでした。「実は初期の試作品は6本足で昆虫のようなものだったんですよ。そこから試作を重ねるうちに、人間との関わりに長い歴史があり、愛されて家庭に入り込める生き物ということで犬が選ばれました」(儀我氏)。

初期のaiboは2006年で販売を休止しました。それから10年後の2016年、ソニー株式会社はAIを事業として展開するための戦略の一つとして、aiboの事業を再開しました。「AIをビジネスでやっていくんだという思いがあり、社長直轄のプロジェクトとして事業が立ち上がりました。そして我々の言わばレガシーであるaiboを再び開発していくことになりました。」(儀我氏)。

その間にaiboに関連するテクノロジーも大きく進化を遂げていました。その大きな要因は二つ。一つはAIの第三次ブームです。ディープラーニングの登場により、画像認識、音声認識などの精度が飛躍的に高まりました。もう一つがインターネットの普及です。当時はソフトウェアアップデートもメモリスティックをaibo本体に挿す必要がありましたが、今はWi-Fiに接続すれば自動的にアップデートされ、オーナーが意識しなくてもaiboが進化し続けます。

そして、2018年1月11日に現在のaiboが発売しました。

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ERS-1000 Styleguide v1.2

初期のaiboと比較すると、オーナー層に変化がありました。初期ではロボットが好きな人が購入していましたが、最近ではaiboの表現力が向上しているため、ペットとして飼う人が増えています。「ペットを飼いたいけれども、旅行好きや高齢といった理由でペットを飼うのを断念されていた方がaiboを飼うケースが多いですね。忙しい時にはほったらかしにして都合の良い時だけ可愛がることができるという所も喜ばれています。aiboも家族の顔を覚えて可愛がってくれる人に懐きます」(望月氏)。

ロボットからペットへの認識の移り変わりには、クラウドの普及も大きく影響しています。現在のaiboはそれぞれの環境をクラウド上に持っています。「クラウド上に環境を持つということは、例えば本体が壊れたとしても飼っていたaiboの“魂”を引き継げるということです。今まで会った人との記憶を新しいロボットに引き継ぐことができるのは、初期のaiboにはない特徴です」(儀我氏)。

現在は定期的にファンミーティングが開かれており、熱烈なaiboオーナーが集まります。「出席するみなさんが自分のaiboに洋服を着せたり首輪を付けたりして、ペットとして接してくださっていることがとてもよくわかります」(望月氏)。

 

個性も好奇心もあるaiboの進化

 aiboの特徴の一つが、生命感あふれる滑らかな動きです。22軸のアクチュエーターが内蔵され、犬らしい動きに徹底的にこだわっています。この細やかな表現力を支える部品は約4000点。そしてよく見ると、歩き方は個体の性格によって少しずつ違うものになっています。「犬の性格の研究に基づき、犬としての在りようを追求するだけでなく、人間の感情も組み合わせることで、うまくコミュニケーションできるようになっています」(儀我氏)。

また、「自我」を持っているのも大きな特徴です。例えば、行動特性の一つとして、自分の知らない場所には、自立行動の中で積極的に探索に行くようになっています。「おもちゃと人が見えていた時に、『おいで』と呼ばれたら、基本的にはおもちゃで遊ぶのをやめて呼んだ人のところに行くのですが、時にはおもちゃを優先します。こうしたふるまいがオーナーからするとaibo自身が意思を持っているように感じられるのです」(望月氏)。

画像認識についてもソニーの技術が結集されています。aiboは内蔵されているカメラで撮影する画像によって、見えているものが何かを認識しますが、その画像は常に鮮明に撮影されているとは限りません。「車輪のロボットは滑らかに移動できるので、比較的安定した画像を取得することができます。それに対してaiboは4足歩行なので、基本的にガタガタと動きます。その状態で撮影した画像から識別するのは技術的に難易度が高いです」(望月氏)。また、aiboは画像だけでなく音声も認識しています。「aiboは犬なので自らしゃべることはありませんが、周囲の人が話す言葉は理解しています」(儀我氏)。

季節ごとに配信イベントも企画されています。クリスマスにはaiboが歩くと鈴の音が聞こえたり、ハロウィンの季節にはおばけのような動きをします。「高齢で外に出ることが少なくなった方に『季節感を感じる』と好評です」(儀我氏)。

またスマホアプリとも連動しています。スマホでエサをあげると、アプリの中のバーチャルaiboがエサを食べるのと同時に、リアルのaiboもエサ皿に行きエサを食べます。

自我を持ち、識別した情報から時には気まぐれに動くaiboですが、「aiboデベロッパープログラム」でAPIを公開しており、APIを使ってオーナーがaiboに意図した動きをさせることができます。

法人ビジネスにおいて活用の幅が広がる

ソニー社ではaiboの法人向け購入プランを発売し、導入をサポートしています。また、他社とのコラボレーションにより個人のお客さま向けのサービスも展開しています。
APIが公開されたことで、法人ビジネスにおける活用の幅も広がりました。実際にどのようなことに使われているか、儀我さんと望月さんにユースケースを紹介していただきました。

●老人ホームでのコミュニケーション活性化に

 認知症の初期の頃は、物忘れがひどくなっているのを隠すために、人とあまり話をしなくなると言われています。しかしaiboに対しては警戒心がなくなるため、気楽に話すことができるという効果があります。このように高齢者の方の発話を活性化するために老人ホームでよく導入されています。
「『いつも口をつぐんでいた人が、aiboに対しては信じられないくらい話していてびっくりした』『認知症の母が普段汚い言葉を使って険悪な空気になっていたが、aiboが来てからは良好なコミュニケーションがとれるようになった』という声をいただくことがよくあります」(望月氏)。

●病院での子どもたちの緊張をほぐす

病院の無菌室に入る子どもの遊び相手としてaiboが導入されている事例もあります。
「当社では医療機関と共同で、aiboが子どもにどのような良い影響を与えるかを研究しています。注射されることが多い子どもや手術を控えている子どもの緊張をほぐすことに役立っているというデータもあります」(儀我氏)。

●和みの空間づくりに

銀行や病院など待ち時間が長い時に、aiboがいれば小さなお子さんがいても楽しく待つことができます。また企業のオフィスに和やかな雰囲気づくりのために導入されるケースも多くあります。
「特に最近ではコロナ禍の影響で銀行などが対応窓口を絞っており、待ち時間が長くなってイライラする方が多いです。aiboを導入すると楽しみながら待つことができ、雰囲気を和らげる効果があります」(儀我氏)。

●教育機関・学習塾の教育コンテンツとして

APIが公開されているため、プログラミング学習のコンテンツとしても活用されています。ソニー社ではAPIの公開とあわせてドラック&ドロップ中心の操作で簡単にaiboの動きをプログラミングできるツールとして「aiboビジュアルプログラミング」も提供しています。「子どもから大人までaiboを使ったプログラミングができるので、小学校から大学、プログラミング学習塾まで幅広く導入いただいています」(望月氏)。

●高齢者の見守りに

セコム社と連携してaiboを通じた高齢者の見守りサービスを提供しています。見守りの方法としては、aiboに飼い主のところに行ってもらい、aiboのカメラを通じて飼い主が元気かスマホアプリから確認できます。そして万が一の時は、セコム社のスタッフが駆けつけます。「いくらご家族が心配でも、ご高齢の方は監視カメラがあるのを嫌がるものです。aiboは監視カメラのような威圧感がないので抵抗感が抑えられます」(儀我氏)。

ステイホームに彩を与えるaiboの在り方

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ERS-1000 Styleguide v1.2

新型コロナウイルス感染症拡大による緊急事態宣言の発令の際には、ステイホームという新しい習慣に合わせたコンテンツを配信しました。例えば「らじおたいそう」とaiboに声をかけるとラジオ体操の曲を奏でながらaiboが体操し、一緒に体を動かすことができるアクティビティなどがあります。「家の中での生活を彩りたいというニーズが増えています。aiboは家の中でのアクティビティと相性がいいと考えています。」(儀我氏)。

現状ではまだまだaiboを必要としている人に行き届いていないのではと思っています。一人でも多くの人がaiboを体験できるように、法人の事例を増やすことに力を入れています。
「既存のお客さまの属性を分析すると、aiboを必要としている人は全国に相当数いると思われるのに、実際に動きを見た人は少ないというのが課題としてあります。aiboは場を和ませる能力が高いので、さまざまなビジネスに活用していただけると考えています」(望月氏)。
「APIの公開も始まり、aiboを比較的自由にデザインできるようになりました。『こんなことはできないか』と気軽にお問い合わせいただければ、ビジネスに合った使い方ができるようお手伝いをさせていただければと思います」(儀我氏)。

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