本記事では、半導体の役割や電力損失が発生する原理、電力損失の改善方法について解説します。
半導体は電気機器の内部で重要な役割を果たしますが、一方で電力損失の主要因ともなり得ます。そのため、半導体をどれだけ効率的に運用できるかは、電気機器の省エネ効果を大きく左右します。
電気機器の内部において、半導体は主に電流の制御に使用されており、電力の変換回路でも活用されています。半導体は電力損失量が大きいため、わずかな改善でも大きな省エネ効果が期待できます。
電気機器の制御には、トランジスタやMOSFET、集積回路などの半導体素子が広く用いられています。半導体の主な用途は電流の制御で、電流を一方向のみに流すダイオードや、電流をスイッチのようにオンオフするトランジスタなどがその代表例です。
特に、高電圧や大電流を扱える半導体を、パワー半導体と呼びます。パワー半導体が効果を発揮する例として、直流電源を交流電源に変換するインバーターや、交流電源を直流電源に変換するコンバーターといった電力変換回路があります。大電力用のMOSFETやIGBTを高速でオンオフし、任意の電圧波形を生成します。
電気機器に使用する部品の中でも、半導体の電力損失量は特に大きく、全体の損失のうち大部分を占めています。大電力を扱うパワー半導体や、高い処理能力を持つ集積回路の電力損失が特に大きくなりがちです。
例えば、エンジンと電力の両方を動力源とするハイブリッドカーの電力損失のうち、約20%はパワー半導体によるものです。またサーバーの消費電力のうち、約25%はパワー半導体が使用される電源における電力損失によるものと言われています。そのため、半導体の電力損失のうち、わずか1%改善するだけでも大幅な省エネ効果が期待できます。
半導体の電力損失の主な要因として、導通損失、スイッチング損失、漏れ電流の三つがあります。電流をオンオフするトランジスタやMOSFETではスイッチング損失が、集積度の高い集積回路においては漏れ電流が課題となりやすいです。
導通損失とは、電気素子に電流が流れる際に発生する電力損失のことです。このとき消費した電力は、ジュール熱と呼ばれる熱として外部に放出されます。半導体に電流が流れるときの導通損失の大きさは、電流値の2乗に比例し、半導体が持つ抵抗成分に比例します。導通損失をP[W]、電流をI[A]、抵抗成分をR[Ω]とおくと、以下の式で書き表せます。
導通損失は電流値の2乗に比例するため、大電流が流れる用途であるほど影響が大きくなります。大電力向けのパワー半導体は特に影響が大きいでしょう。半導体の導通時の抵抗成分のことをオン抵抗と呼びますが、導通損失を抑えるには、なるべくオン抵抗が低い半導体を選定します。また、半導体以外の部品や基板上の銅箔パターンも抵抗成分を持つため、電流を流せば同様の導通損失が発生します。
スイッチング損失とは、トランジスタやMOSFETなどで電流のオンオフの切り替えの際に発生する電力損失のことです。電流が流れるとき、半導体素子に印加される電圧はほぼ0とみなせます。しかし、電流が流れないときには半導体素子に電圧が印加されます。電流が流れている状態と、電圧が印加されている状態が、瞬間的に切り替われば問題はありません。
しかし、半導体素子が持つ容量成分のため、電流のオン状態とオフ状態の切り替えには若干の時間の遅れが発生します。その結果、電流と電圧が両方とも発生するタイミングがあり、電力損失を引き起こしてしまいます。半導体素子のオン時における電圧の立ち上がり時間やオフ時の立ち下がり時間が長いほど、またスイッチング周波数が高いほど、スイッチング損失が大きくなります。
スイッチング損失の対策としては、容量成分の低い半導体素子の選定により電圧の立ち上がり時間や立ち下がり時間を短くする、応答性を犠牲にしてスイッチング周波数を低くする、などが挙げられます。
CPUなどの集積回路の内部で用いられている半導体において、漏れ電流(リーク電流)が損失の原因になり得ます。半導体の製造技術は近年も進歩を続けており、微細化が原子レベル近くにまで達するようになりました。そのようなミクロな領域では、量子力学のトンネル効果により、絶縁体を突き抜ける電流が発生します。この電流が漏れ電流であり、半導体に電圧が印加されていれば、スイッチング動作をしていなくても流れる電流です。
漏れ電流が回路に流れると、導通損失となって電力を消費します。高性能なICでは、電力損失のうち約4割が漏れ電流によるものと言われています。漏れ電流を防ぐためには、CPUの使用しない部分の電源を遮断するなどの対策が効果的です。
電気機器において半導体は欠かせない存在ですが、半導体の電力損失は電気機器全体のうち大きな割合を占めています。本記事では、電力損失の主な要因として導通損失、スイッチング損失、漏れ電流の三つをご紹介しました。
導通損失は大電力を扱う用途、スイッチング損失は高いスイッチング速度を必要とする電流制御、漏れ電流は高度に微細化した集積回路において、影響が大きくなりやすいです。電気機器の省エネを考える際は、これらの半導体の電力損失に注目することをおすすめします。半導体素子はさまざまな分野の機器で使用されているかつ電力損失量が大きいため、わずかな省エネでも全体としては大きな効果につながることになります。