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AI・IoTコンサルタント 伊本貴士の経営に役立つ最新技術解体新書 IoT・DXの導入を阻害する三つの要因

レンテックインサイト編集部

 新型コロナウイルスの影響がいつまで続くのか、見通しが不透明な中IoTやDXの導入を進める企業が増えつつあります。その理由としてはリモートワーク、リモート制御の必要性が高まったことや、新たな事業での利益確保、無駄なコストの削減などの緊急性が高まったことが考えられます。

ところが、IoTやDXの導入がスムーズに行く企業は多くありません。
今回は、具体的に何が原因となってIoTやDXの導入が上手くいかないのかについてその解決策と共に考えてみたいと思います。

データと利益の乖離

 私自身がコンサルタントとしてアドバイスを行う中でも最も多いのが、「データが利益と結びついていない」という問題です。

例えば、ある企業では100点の商品を販売しているとします。それぞれの商品に関して、在庫がいくつあるのか、売上数がいくつあるのかなどは多くの企業でデータ化されています。
ところが、それぞれの商品ごとに毎月どれくらいの利益があるのかについては、データ化されていない所が多くあります。

利益については、単純に売上から費用を引けばいいわけですが、費用というのは仕入れ値だけではありません。
実際には、営業の人件費、製造の人件費、倉庫の賃料、広告費などさまざまな費用が、商品を売るまでにかかっています。
完全には難しいとしても、費用がどれくらいかかっているのかをある程度まで計算できるシステムがなければ、商品ごとの利益を算出することは難しいでしょう。

商品ごとの利益がわかれば、商品ごとに利益が出ているものと、出ていないものがわかります。
もしかすると、知らないうちに売るほど赤字になるものを一生懸命売っているのかもしれません。
それらを含めて「見える化」して、どの商品をいったいどのくらい売れば利益が上がるのかを計算できないと、IoTもDXも予算をつけることは難しいでしょうし、スタートを切ることもできません。

逆に、ここの売上を増やし、費用を減らすことで、会社の利益がこれだけ上がりますという話が具体的にできれば、プロジェクトはスムーズにスタートを切ることができるでしょう。

全体最適化の欠如

IoTやDXを導入する場合、それらによって効率化を目指すことになりますが、中にはプロジェクトが企業における一部分しか見ていない場合があります。
その原因としては、役割によって細分化されたチームが自分たちの所しか見ておらず、結果的に全体へ目配せする人がいないことが考えられます。

物事は、一部分だけ良くなっても、最終的に全体が良くなるとは限りません。

例えばある工程で作業を1.5倍効率化したとしましょう。しかしながら、それによって次の工程において仕掛品が増え、その結果全体の生産性が落ちる可能性があります。

IoTやDXなどのプロジェクトでは、プロジェクトがある程度進んだ時点でそれが判明するということがよくあり、その場合プロジェクトは頓挫する可能性もあります。

あくまで、まずは全体の効率化を目指して設計した上で、個々の部分における具体的な効率化を目指す必要があります。

 

データの点在化

 私が見た企業の中でも、特に大企業に多いのがデータの点在化です。

IoTやDXでもそうですが、AIなどを活用する際には、これまで重要とされていなかったデータが必要になる時があります。

多くの企業では、決算関連のデータや、経営分析に使ってきた売上などの情報は、基幹システムに保存されていますが、例えば工場の稼働状況や、現場の労働時間、品質データなどは基幹システムに保存されていないことが多くあります。
基幹システムに保存されていないデータは、他の小さなシステムに保存されていたり、中には社員のパソコンに保存されていたりと、点在化している場合があります。

その場合、データ分析用として統合データベースを用意し、そこへさまざまな情報を集約し管理する必要があります。

しかし、その作業が困難を極める場合があります。
まず、どのデータがどこに存在しているのかがわからないことがあります。また、データの仕様が不明である、もしくはデータごとに基準やルールが違う場合もあります。

さらに、元々基幹システムやその他のシステムが外部にデータ提供できるように開発はされていないこともよくありますし、大量のデータを外部と連携するには性能が不足している場合もあります。

いずれにせよ、システムの専門家と相談しつつ、一つずつ絡んだ紐を解くように解決していかねばなりません。そのため費用と時間が発生し、結果的にIoTやDXが進まないということです。

しかしながら、いつかは解決しなければいけない問題であり、先送りするほど問題は深刻化します。

これら三つの問題は、残しておけば今後企業にとって大きな問題となるかもしれません。
IoTやDXを使う緊急性が高い今だからこそ、このような長年解決できなかった問題に取り組む必要があるのだと思います。

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