世界的なカーボンニュートラル推進の流れの中で、自動車業界を中心に電動化が進む昨今のエネルギー事情。そんな中、2023年3月末、EU(欧州委員会)とドイツ政府の協議において環境に優しい「e-fuel(イーフューエル)」を使用する場合に限り、2035年以降もエンジン車の販売を認めたというニュースが話題を呼びました。
はたして「e-fuel」とは何なのか、そのメリットや課題はどこにあるのかを明らかにしていきましょう。
「e-fuel」は、CO2(二酸化炭素)とH2(水素)を合成して製造される「合成燃料」の一種です。“人工的な原油”とも言われる通り、ガソリンなどと同様に既存のICE(内燃機関)で用いることができ、そのエネルギー効率の高さと備蓄・輸送・供給のしやすさなどのメリットに注目が集まっています。
「e-fuel」からエネルギーを取り出せば、化石燃料と同様にCO2を排出することになりますが、CO2は「e-fuel」の原料として回収されるため、結果としてゼロ・エミッション(脱炭素化)につながるというわけです。また、酸性雨や環境汚染の原因となる硫黄分や重金属分の割合が原油に比べて少なく、その点もクリーンなエネルギーとして着目すべき点だと言われています。
もう一つの要素であるH2の製造は「e-fuel」の場合、太陽光、風力、地熱といった再生可能エネルギー由来の電力を用いて水を酸素と水素に分解する「水電解」によって行われるのが基本方針です。「その電力エネルギーをそのままEVに用いれば良いのではないか?」と思われる方も多いでしょうし、そうした意見も少なくありません。しかし、合成燃料としてエネルギーを貯蔵することで既存のICEを活用でき、また航空機などバッテリー駆動の実用化が発展途上にある領域でも用いられること、速やかな輸送により災害時の燃料供給にも貢献できることは大きなメリットです。
政府は2021年6月18日発表の資料『2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略』において、下記スケジュールで合成燃料の商用化に向けた研究を進めていくことを掲げています。
※参考:『2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略┃経済産業省』P68
もちろん、「e-fuel」にも課題は存在します。その筆頭として挙げられるのが「製造コストの高さ」です。2020年8月のNEDO(国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構)の調査に基づく試算によると、「国内の水素を活用し、国内で合成燃料を製造するケース」の製造コストは「約700円/L」。これは、H2(634円/L)、CO2(32円/L)、製造コスト(33円/L)の合計で算出された金額です。
ご覧のとおり、水素の製造コストが大きいため、「海外の水素を国内に輸送するケース」では「約350円/L」、「合成燃料を海外で製造するケース」では「約300円/L」までコストは下がります。しかし、現状、化石燃料と比較すると、そのコストの大きさは企業にとって無視できないものです。
この対抗策の筆頭は、合成燃料製造技術の研究推進による各コストの低減です。前述のNEDOがグリーンイノベーション基金事業として実施する、「CO2等を用いた燃料製造技術開発プロジェクト」はその一環です。また、2022年9月16日に経済産業省で実施された『第1回 合成燃料(e-fuel)推進官民協議会』では、合成燃料の製造コストを「200円/L」にまで引き下げることが目標として言及されています。
また、製造コストの高さに関連して、大量生産に耐えうる製造効率が達成できていない点も課題であり、「CO2等を用いた燃料製造技術開発プロジェクト」では既存技術の高効率化、革新的技術開発の両面で、技術開発を進めることが明言されています。
e-fuelの2大原料の一つであるCO2を回収・利用するための技術全般を「CCUS(Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage:CO2の回収、利用、および貯留)」と言い、合成燃料のみならず、脱炭素に向けた有効な取り組みとして、二酸化炭素の回収・貯留のみを指す「CCS(Carbon dioxide Capture and Storage)」とともに研究が進められてきました。
CO2分離回収の方法は発電所や工場でから排出された化石燃料のCO2を回収する手法がメインですが、将来的には大気中のCO2を直接分離回収することも目標とされており、同技術は「DAC(Direct Air Capture)」と名付けられています。DACも排ガス中からのCO2回収の何倍とも言われるコストの高さが課題であり、内閣府主導の『ムーンショット型研究開発制度』でも同テーマの研究開発プロジェクトが推進されています。
「e-fuel」の現状や課題について、まとめて解説してまいりました。ゼロ・エミッションを達成できる液体燃料ということで、将来的な可能性が大きく期待されています。ただし、「e-fuel」が認められれば既存のICEはすべて問題なく使える、というわけではなくCO2排出量削減に向けての努力が引き続き必要であることには変わりません。今後の実用性の高まりを、期待とともに注視していきましょう。