みなさんは“LPWA”をご存じでしょうか。
IoT/M2Mの運用に適しているとして無線LANやLTE、Bluetoothに代わり大きな注目を集める通信規格の一種です。
スマート工場化が成果につながるかどうかは、そのインフラである通信環境に大きく左右されます。
LPWAの概念やメリット・デメリットについて本記事で押さえましょう。
LPWA(Low Power Wide Area) は“遠距離・省電力”という特徴を持つ通信規格の一種です。
その中にはさまざまな通信規格が含まれ、大きく「ライセンス系(セルラー系)」と「アンライセンス系(非セルラー系)」に分かれます。
ライセンス系(セルラー系) | アンライセンス系(非セルラー系) | |
---|---|---|
無線局免許 | 必要 | 不必要 |
通信規格例 | LTE-M、NB-IoT、Cat.M1 | LoRaWAN、SIGFOX、Wi-Fi HaLow、Flexnet、RPMA |
免許が必要なライセンス系LPWAは主に携帯事業者によって携帯電話用の通信規格であるLTEをベースに提供されており、比較的利用する周波数帯域が広くなっています。一方、アンライセンス系は帯域がかなり絞られているため通信容量は限られますが、かなりの低コストで導入できます。また、アンライセンス系は事業者の回線ではなく専用のネットワークを用意できるためセキュリティ性が高いとみる向きもあります。
LPWAは2016年ごろにまず海外で広まりはじめ、IoT/M2Mへの注目が高まるとともに日本でも普及してきました。
総務省の資料によると2021年にLPWAの販売台数は3.8億台、接続売上高数は約10億ドルに達することが予測されています。
「LPWAとは何か」について一通りご説明しました。
ここからはLPWAの代表的なメリットを“IoTに役立てる”という観点から三つに分けてご紹介します。
LPWAのメリットでまず挙げられるのはなんといってもボタン電池ひとつで数年間稼働することもあるその省電力性です。
IoTによる取り組みとして代表的な“データの見える化”。集積したデータをもとに工場の課題をあぶり出し、業務効率化や働き方改革を進めたいと考えている方は多いでしょう。その際、データは長期にわたって収集する必要があります。
効率化を実現するためのIoTで電池交換・充電の手間がかかっては本末転倒ですし、手間が増えたと社員の不満が生じかねません。そこで、省電力なLPWAがものをいうのです。また、電池で数年持つならば電源確保の必要がないため、設置場所の自由度が高まります。
この“電力消費が少ない”という特徴からLPWAには山林・河川の監視や都市データの収集といった役割も期待されています。
LPWAのもう一つの代表的な特徴が、その通信範囲の広さです。
1台のゲートウェイで最大数キロメートルまで通信可能なLPWAならば、広大な工場のIoT化も比較的安価に実現することができます。例えばWi-Fiの通信範囲は100~300メートル程度、Bluetoothに至っては10~100メートル程度であることを考えると、その通信可能範囲のインパクトが伝わるでしょう。
LPWAの三つ目のメリットは、LTEといったこれまでの通信規格に比べ、通信コストを抑えられるということです。
例えばLTEの通信では安価なプランでも年間数千円以上かかるのが当たり前なのに対し、アンライセンス系LPWAの一種であるSIGFOXには端末一台当たり年間100円から利用できるプランが用意されています。
また、消費電力が抑えられることで結果としてコストの削減にもつながると言われています。
メリットの多いLPWAですが、他の通信規格と比較して劣っているといえる点もあります。
それは、“通信速度が遅い”ということです。
そもそもLPWAは周波数帯域(一般に広いほど通信速度が早い)を狭くすることで低電力・長距離通信を可能にしているため、その点はやむをえない仕様といえるでしょう。
IoT/M2Mにおいて送受信されるデータは温度・照度といった各センサの数値やGPSの位置情報など、かなりシンプルで容量の軽いものです。つまり、通信速度の遅さは多くの場合IoT化においてそれほど問題となりません。
それと引き換えに省電力・広範囲・低コストな通信を実現できるLPWAはまさに“IoT/M2M向けの通信規格”といえます。
IoT/M2M用の通信規格として注目を集めるLPWAについてご紹介しました。
もう一つ、IoTにまつわる通信規格として良く取りざたされる超高速・低遅延な5GとLPWAはある意味対照的な通信規格といえます。
そこで5Gはリアルタイムでの遠隔操作など通信速度が求められる領域に、LPWAはある程度遅延しても長期・低コストで運用したい領域に、と目的によって使い分ける意識を持ちましょう。
さまざまな通信規格の特徴を押さえ目的と合致させることが、工場のスマート化を成功させる近道です。