2023年、日本は稀に見る円安環境に突入しており、経済の鈍化と共に円高回帰の見通しも立たない中、企業は時代に適した事業展開を求められるようになってきました。
この記事では、日本の製造業が円安環境の中でも成長を遂げるためにどのような取り組みを検討すべきか、ポイントを解説します。
世界のグローバル化に伴い、2000年代以降は日本企業による海外工場や海外拠点の設置が急速に進みましたが、ここ数年で起こっている新しいトレンドは、その真逆を行くものです。
日本の大手メーカーの海外工場の閉鎖や、製造拠点の日本移転が進んでおり、国内企業による国内製造の見通しが色濃くなってきました。また、円安の影響で海外企業の製造拠点が日本に設置されるケースも増加しており、台湾の半導体企業であるTSMCが熊本工場を設置する動きは、その代表例といえるでしょう。
製造業界が国内回帰を進めるのには地政学リスクなども含めた複合的な要因が考えられます。円安がこの動きに与えている影響としては、エネルギー・部材調達・輸送コストの高騰、および優秀人材の海外流出が挙げられます。
一つ目は、各コストの高騰により海外で製造を行うメリットが小さくなっている点です。
燃料費が高まったことで部材の生産コストが上がっただけでなく、輸送のためのコストや電気代の高騰が顕著になり、従来のようなコストパフォーマンスを維持することができなくなりました。
結果、海外から国内への部材の調達や、製品の輸送コストがこれまでになく大きくなってしまい、国内に製造拠点を設置した方が経済的な負担が小さくなっているのが現状です。
二つ目は、優秀な能力を持った人材が次々に海外企業へと流出している点です。製造業は人材不足の解消が喫緊の課題と言われる中、有望な人材は海外企業に取り込まれてしまい、国内産業の担い手が見つからない問題を抱え続けています。
人材の流出が止まらない最大の原因は、給与などの待遇面で満足のいくオファーを提示できていない点にあります。
人材不足が深刻化していながら、海外の企業と比べて日本企業は十分な給与待遇をエンジニアなどに提示することができておらず、日本での人材確保はますます難しくなり、技術力の向上も望めなくなってきているのが現状です。
このような問題を乗り越えつつ、円安環境の中でも製造業が成長するためには、効率的な生産システムの導入と、海外市場の開拓が重要になります。
まず製造業界に必要なのが、効率的な最新の生産システムの導入です。早いうちから設備投資を加速してDXを進め、従来よりも高度な生産システムを整備することで、成長力を身につけることが急がれます。
現場を人の手に過度に依存しない、スマートな工場づくりを進め、少数精鋭で業務を進めるとともに、海外勢に負けない高度な技術力を確保することが大切です。
もう一つは、海外市場の開拓です。よく知られていることですが、円安は輸出ビジネスにおいては追い風となる要因といえます。国内産業は国内市場に特化したビジネスモデルを構築していますが、円安を機に海外市場への積極的な展開を進め、成長の機会を見いだす必要があるでしょう。
とはいえ海外の技術力も飛躍的に向上しており、質の高さだけでは日本企業がアドバンテージを見いだすことは難しくなっているのも現状です。前述のDX施策による生産性の向上や、質の高いマーケティングによるブランド認知などにも包括的に取り組む必要があります。
この記事では、円安環境が製造業に与えている影響や、円安環境下におけるさらなる成長に必要な取り組みについて解説しました。
輸入業や国内市場をターゲットにした企業にとっては向かい風の円安ですが、海外市場をターゲットにした輸出業であれば比較的ビジネスの余地は見いだしやすいといえます。
地政学リスクなど、産業の国内回帰には円安以外の要因もありますが、いずれにせよ人口の縮小により国内市場の発展は望み薄である以上、海外のマーケットの中で商機を見つける努力は続けるべきでしょう。