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産業用イーサネットのメリットと可能性 代表的な通信プロトコルそれぞれの特性は?

レンテックインサイト編集部

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産業用ネットワークの構築において、2大シェアを占めるのが「産業用イーサネット」と「フィールドバス」です。中でも、新規設置されたノードにおける産業用イーサネットの市場シェアは2021年には65%に達しており、今後もその割合は増加することが期待されます。そんな産業用イーサネットの特性やメリット、将来性について本記事でまとめて見ていきましょう。

イーサネット、フィールドバスと比較しての「産業用イーサネット」の特徴

そもそもイーサネット(Ethernet)とは何でしょうか?

その誕生の歴史は、1970年代初頭にさかのぼります。PC(パーソナルコンピューター)の先行的な事例として知られる「Alto」(アルト)のネットワークを構築する用途で、イーサネットが開発されたのは1973年のこと。その後、IEEE(Institute of Electrical and Electronics Engineers:米国電気電子学会)により標準化され、オフィスや家庭における有線LAN用通信規格としての地位を確立します。しかし、工場や生産設備などの自動化システムにおけるデータ交換や制御信号の伝送などを行う産業用ネットワークにおいてフィールドバスと地位を逆転させたのは、2010年代後半になってからでした。

通信が決められた時刻に行われるリアルタイム性(時間確定性)やコスト面において、通常のイーサネットにはフィールドバスに比べて課題がありました。産業用イーサネットの代表的なプロトコルは産業設備の安定稼働のために欠かせないリアルタイム性の課題を解決した上で、さらに温度変化や振動、ノイズ、湿度など過酷な環境にも耐えられる堅牢性や、高い耐衝撃性などが備えられています。

フィールドバスと比較して、産業用イーサネットのメリットといえるのが、通信速度・通信容量における優位性です。さらに、社内の通信ネットワークの統一や、今後の発展性にも期待が持たれることから、そのシェアが拡大しています。ただし、従来から用いられてきたことへの信頼や安定性から、フィールドバスへの需要も根強く存在します。

産業用イーサネットの代表的な通信プロトコルとその特徴

産業用イーサネットの通信プロトコルとして代表的なのが、PROFINET、EtherNet/IP EtherCATです。それぞれのプロトコルは、異なる組織によって開発・管理されており、独自の特性と市場シェアを持っています。

PROFINET (Process Field Net)

PROFINETは、ドイツのPI(PROFIBUS & PROFINET International)によって管理されている通信プロトコルで、リアルタイム通信とITとの統合をサポートしています。モーションコントロールや安全性に関する要件を満たすために設計されており、自動車や製造業などの産業分野で広く使われています。

EtherNet/IP (Ethernet Industrial Protocol)

EtherNet/IPは、アメリカのODVA(Open DeviceNet Vendor Association, Inc.)によって管理されている通信プロトコルで、標準のTCP/IPとUDPを利用してデータを伝送します。EtherNet/IPは、拡張性と互換性に優れており、システムの統合や遠隔監視でも用いられます。また、広範な産業分野での適用が可能であり、製造業やエネルギー、インフラなどで採用されています。

EtherCAT (Ethernet for Control Automation Technology)

EtherCATは、ドイツのBeckhoff Automation(ベッコフ・オートメーション)によって開発された高速通信プロトコルです。リアルタイム性と高い同期性を実現し、産業オートメーションやロボティクスで広く利用されています。EtherCATは、データの更新速度が速く、短いサイクルタイムを実現できるため、高応答性の求められる制御システムに適しています。

これらのプロトコルは、それぞれ異なる特性や利点を持っているため、適用される産業やシステムに応じて選択されます。適切なプロトコルを選ぶことで、システムの効率性や信頼性を向上させることができます。また、CC-Link IE、Modbus TCP、FL-netなど、ほかにも産業用イーサネットの通信プロトコルの種類は多く存在します。

「TSN(Time-Sensitive Networking)」とは?

現在、PROFINET、EtherCAT、EtherNet/IPといった既存プロトコルへの組み込みが進んでいる技術として、TSN(Time-Sensitive Networking)について耳にしたことがある方も多いのではないでしょうか。

TSNは、産業用イーサネットにおいて、リアルタイムかつ、デターミニスティックな通信を実現するための技術です。TSNは、IEEE 802.1とIEEE 802.3に準拠する一連の標準であり、スケジュールされたトラフィックやリソース予約、フレームプリエンプション、および同期化などの技術を提供します。

TSNは、ネットワーク内のデータ伝送に優先順位を設定し、リアルタイム性を確保します。これにより、産業用イーサネットにおけるリアルタイム制御やモーション制御の可能性が大いに広がると考えられます。また、通信遅延やジッタ(デジタル信号のゆらぎ)が最小限に押さえられることで、産業用ネットワークにとって重要な通信の確定性が高まります。

その結果、インダストリー4.0やスマートファクトリーにおける機器間のコミュニケーションやデータ分析、遠隔制御の効率性を高め、生産性向上やコスト削減、安全性向上といったメリットにつながると言われています。

産業用イーサネットの進化と拡大は今後もつづく

「産業用イーサネット」とは何かについて、イーサネットの誕生の歴史という過去から、現在高いシェアを誇る通信プロトコル、そしてTSNの普及する未来についてまで視野を広げて解説してまいりました。車載イーサネットなど工場外での活用事例も増加している産業用イーサネットの世界は、今後も広がっていくでしょう。

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