情報量が際限なく増大し、多様化する社会ニーズに対応するため、NTTは「IOWN構想」という次世代のICTインフラに関する提案を行っています。本記事では、IOWN構想の背景や内容、そしてその中で注目される三つの主要な技術分野について解説します。
IOWN(Innovative Optical and Wireless Network)構想とは、高速大容量通信や膨大な計算リソースを提供できる、革新的な光通信技術を中心とした新しいネットワークや情報処理基盤の構想のことです。2024年の仕様確定、そして2030年の実現を目指しており、既存のインフラの限界を超えて多様性を受容できる豊かな社会を創ることを目的としています。
既存のインターネットの伝送および処理能力は限界に近づいており、多くのデバイスがネットワークに接続されることでエネルギー消費も増加しています。一方で、多種多様な価値観の中で他者への理解を深めるために、より高度な情報処理が求められるようになりました。このような背景から、NTTはエレクトロニクスとフォトニクスの融合や、通信の大容量化および低遅延化、高度な機密性と安定性の提供、業界や地域を超えたリソース活用、デジタルツインの活用などに取り組んでいます。
またIOWN構想では、高度な未来予測による社会の変革を目指しています。例えば、医療分野では、各人の生体データやゲノム情報を基にした高精度な未来予測により、病気の予防や早期治療が可能になると期待されています。IOWN構想を推進するため、NTT、インテル、ソニーの3社が中心となって「IOWN Global Forum」を設立し、さまざまな業界から協力者を募っています。
IOWN構想は、「オールフォトニクス・ネットワーク」、「デジタルツインコンピューティング」、「コグニティブ・ファウンデーション」の三つの技術分野から成り立っています。
オールフォトニクス・ネットワークは、ネットワークから端末までのすべてに光技術を導入し、低消費電力で高品質、大容量、低遅延の伝送を実現することを目指しています。具体的な目標としては、電力効率を100倍、伝送容量を125倍、エンド・ツー・エンドの遅延を200分の1にすることを掲げています。
この技術の鍵となるのは光電融合技術であり、チップ内の配線部分に光通信技術を導入して消費電力を低減するとともに、光技術を活用した高速演算技術を組み込んだチップの実現に向けて研究を進めています。
デジタルツインとは、物理的なモノやヒトをデジタル上で再現する技術のことです。デジタルツインコンピューティングでは、多様な産業やデジタルツインを組み合わせて都市の人や自動車などを高精度に再現し、未来を予測することを目指しています。
実世界の物理的な再現のほかに、人の内面のデジタル化に関する取り組みも進められています。人の意識や思考をデジタル上で表現することにより、人の行動やコミュニケーションなどの社会的側面について、高度な相互作用が可能な仮想社会を創生できると考えられています。デジタルツインは実世界とサイバー空間の中間層を構築するための要素として、重要視されています。
コグニティブ・ファウンデーションは、増え続けるICTリソースが全体最適となるよう管理し、必要な情報をネットワーク内に流通させる役割を持っています。「マルチオーケストレータ」という機能がクラウド、エッジ、ネットワーク、端末など、さまざまなICTリソースを制御し、ユーザーのニーズに応じて最適なサービスを提供します。
ICTリソースを柔軟に制御するには、収集した多様な情報をもとにシステムが自ら最適化するよう進化することが重要とされており、それを可能とする自己進化型サービスライフサイクルマネジメントが考案されています。
ほかには、使用シーンに応じて最適な無線アクセスを提供する「Cradio」という最適化技術の研究開発が進められています。4G/LTE、衛星通信、Wi-Fi、WiMAX、LPWA、5Gなどの無線通信方式に対応し、AIによる通信品質の予測を利用して、人が意識せずとも最適な無線方式を選択できるというサービスを目指しています。
NTTが提案するIOWN構想は、次世代の通信や情報処理基盤により、多様性を受け入れ、豊かな社会を築くことを目指す取り組みです。2030年までにサービスが広く普及することを目標として、NTTをはじめとする関連企業が取り組みを進めています。
2023年3月には、IOWNサービスの第一弾としてオールフォトニクス・ネットワークのサービスが開始されました。今後のIOWN構想の発展や、それに関連する各種技術の進化にも注目してみてはいかがでしょうか。