福島県沖における地震の発生と寒波の影響により、2012年の制度制定以降初めて「電力需給ひっ迫警報」が出されたのは2022年3月のこと。同年にはウクライナ危機を受けてのエネルギー価格高騰も全世界的に生じ、安定した電力利用について考え直す機会となりました。
電力の供給・需要の変動にICTを活用することで効率化、安定化などを測る「スマートグリッド」。今だからこそ押さえておきたい、現在のスマートグリッドのあり方とそれを取り巻く状況について見ていきましょう。
スマートグリッドとは、その名の通り“スマート(賢い)電力網”のこと。主に、十分な量を貯めておくことが難しく、ジャストインタイムで用意することが求められる電力を、供給側だけでなく需要側でも(双方向で)コントロールすることで、より柔軟かつ効率的に利用することを意味します。
都市など大規模地域全体のインフラにスマートグリッドを導入する「スマートコミュニティ」から、工場など近接した地域内でエネルギーの供給と消費を行う「マイクログリッド」までスマートグリッドの規模は大小問わず、FEMS(工場)・HEMS(住宅)・BEMS(ビル)など、エネルギーマネジメントシステムの対象も多岐にわたります。また、実現するための手法もスマートメーター、VPP(仮想発電所)、DER(分散型エネルギー資源)など複数の方面で存在し、スマートグリッドの議論においてはどの対象をイメージしているのかを共有することが欠かせません。
そもそもは、2005年ごろに欧州で定義されたスマートグリッドの考え。2008年に当時のオバマ米大統領が打ち出した「グリーン・ニューディール政策」の一環として、世界的に広まりました。日本でも脱炭素に向けた再生可能エネルギーの導入拡大目標が掲げられる中、2012年7月にいわゆるFIT(再生可能エネルギーの固定価格買取制度)が開始したことで、よりスマートグリッドへの注目は高まりました。
日本の停電時間、停電回数は欧米諸国と比べても極めて低い水準にあり、日本のスマートグリッドが目指しているのは、当初米国のスマートグリッドの目的として大きかった送電網の改善による安定性の向上ではなく、電源の分散化や災害対策の強化による、一段上の電力網の構築でした。
そんなスマートグリッドを取り巻く状況はこの10年でどのように変化したのでしょうか?
『令和3年度エネルギーに関する年次報告┃エネルギー白書2022』によると、日本のエネルギー消費における電力化率は2020年度で27.2%。COVID-19の流行による石油・石炭利用の減少などを背景に2019年度比で1.5ポイント増加しており、電力の需要が右肩上がりに高まっていることが見て取れます。
省エネ法(エネルギーの使用の合理化及び非化石エネルギーへの転換等に関する法律)改正により、30分ごとの電力使用量の計量と双方向通信による制御や見える化が可能なスマートメーターの導入が電気事業者に義務付けられたのが2014年4月1日のこと。
2021年3月末時点で、その設置率は全国で85.7%に達しており、2024年度には100%に達する予定です。東電エリアではすでに100%設置完了しています(『電力データ活用による 新たな付加価値創造┃資源エネルギー庁 電力・ガス事業部』より)。ただし、その使用期限は最長10年と定められており、2024年からは、最初期に設置されたメーターから、レジリエンスや再生可能エネルギー大量導入に合わせ、より高度なデータ取得・制御が盛り込まれた次世代スマートメーターへと置き換えられていくことになります。
2022年4月に施行された改正電気事業法により、電気事業者以外の事業者も電力データを一定のルールのもと、活用することが可能となりました。需要ピーク時のネガワット取引(需要側の節電により押さえられた電力の取引)や、データを利用した輸送、広告などのサービスが今後より隆興していくことになるでしょう。
また、FIT価格の引き下げが進められていること、寿命を迎えたソーラーパネルの廃棄問題が懸念されることなど、再生可能エネルギーの普及に対し向かい風となる要素も存在します。ただし、2024年度より企業の工場・倉庫などを対象にした「10kW以上の屋根置きソーラーパネル」に対しては、2~3割平地設置より高いFIT価格を設定する新区分も経済産業省より発表されています。また、再生エネルギーの売電価格に割増金を交付するFIP制度も2022年4月から開始されました。
このように、新電力、再生エネルギーなど電力自由化とその影響に関して良い点・悪い点の両方が出そろった上で、構築検討するのが2020年代のスマートグリッドです。
本記事では、2023年初頭の日本におけるスマートグリッドを取り巻く状況の変化と今後の見通しについて取り上げました。この内容を踏まえた上で、スマートグリッドのサイバーセキュリティや無理のないDR(ディマンド・リスポンス)の実現方法など、より具体的な方法について検討すると良いのではないでしょうか。