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受発注のデジタル化は製造業にどんなメリットをもたらすか

レンテックインサイト編集部

皆さんは、政府が掲げる「電子受発注システムの導入率約5割」の達成目標年度が2023年であることをご存じでしょうか。DXの前段階として、デジタル化(デジタイゼーション、デジタライゼーション)により、現場の非効率を解消し、企業の競争力向上やISDNサービスの終了、将来的に拡大が予想される人材不足といった問題に対処することが求められます。

本記事ではその第一歩として、受発注のデジタル化は製造業にどのようなメリットをもたらしてくれるのか、受発注デジタル化を支援する「中小企業共通EDI」とは何か、などについてご紹介します。

日本企業の受発注デジタル化はどれくらい進んでいるのか?

まずは、日本における受発注デジタル化の進展状況についてデータで見ていきましょう。

中小企業庁が88,800社を対象に実施した『令和3年度取引条件改善状況調査』(調査期間:令和3年9月~令和3年11月)によると、回答が得られた全22,757社のうち、電子受発注に2021年までに対応と回答した企業(受注側)は48.5%(2019年以前から対応:39.3%、2020年に対応:5.8%、2021年に対応:3.4%)でした。一方、「対応を検討中」と回答した企業は16.6%、「当面対応の予定なし」の企業は34.8%となっています。

製造業は比較的電子受発注に対応済みの企業の割合が高く、10,296社中、2021年までに対応と回答した企業は54.7%(2019年以前から対応:47.0%、2020年に対応:5.0%、2021年に対応:2.7%)でした。とはいえ、「当面対応の予定はなし」の企業も全体の約3割(29.9%)存在しています。

なお、製造業における電子受発注対応の理由で最も割合が高かったのは「取引先からの要請」(75.0%)で、それに「業務効率化」(65.0%)が続く結果となりました。

なお、発注側企業の電子受発注システム導入率はより低く、全体で40.9%と報告されています。

このように、電子受発注システム導入率は目標の約5割に迫るものの、特に発注側では対応の遅れが見られます。また、取引先からの要請という必要に迫られての導入が最もポピュラーな理由であることから、電子受発注導入の主目的である業務効率化やデータ活用を達成するには、まだまだ乗り越えなければならない壁があることが推察されます。

受発注デジタル化により得られるメリットとその検証結果

FAXや電話から電子受発注システムへの移行で得られるメリットとしては、以下のようなものが挙げられます。

(1)入力や郵送、転記や書類管理の工数削減による業務効率化
(2)データの手書きや入力、計算における人的ミスの削減
(3)受注から納品までのプロセスの記録による資産化・コンプライアンス強化
(4)ペーパーレスや管理の効率化によるコスト削減・環境負荷の軽減
(5)受発注情報のリアルタイムな共有による属人化・情報のサイロ化防止

前述の『令和3年度取引条件改善状況調査』によると、製造業における電子受発注電子受発注導入に関する受注側のメリットとして挙げられた中で最も多くの割合を占めた回答トップ5とそのパーセンテージは以下の通りです。

1位:業務の定型化・マニュアル化が可能になった(43.4%)
2位:生産性が向上した(42.2%)
3位:残業時間を減らすことができた(20.6%)
4位:遠方の取引先との交渉が可能になった(13.8%)
5位:出張コストを減らすことができた(12.9%)

業務時間削減効果については平成28年度に行われた中小企業庁の『経営力向上・IT基盤整備支援事業(次世代企業間データ連携調査事業)』でも検証されています。自動車、水インフラ、農林水産、輸出、卸・小売、サービスの6業界、北海道、東京(多摩)、静岡、愛知、大阪の5地域にまたがる12のプロジェクトの効果検証では、全体平均で49.2%、発注企業で51.1%、受注企業で47.3%の業務時間削減効果があったことが報告されています。その割合は中小企業ではさらに跳ね上がり、全体で53.3%、発注企業で56.7%、受注企業で50.8%の効果があったということです。

受発注デジタル化における「中小企業共通EDI」とは?

受発注デジタル化の歴史は、「EDI(Electronic Data Interchange:電子データ交換)」の発展の歴史とも言えます。
その歩みは1970年代の「個別EDI」に始まり、1980~1990年代にかけてJTRNやEIAJなどの「業界標準EDI」が勃興、さらにブラウザ上で完結するWeb-EDIなどそのシステムも進化してきました。

長い歴史をかけてEDIは徐々に発展をつづけてきたものの、いまだ業界横断的な標準が存在せず、サプライチェーン強化や企業、業界の枠を越えた情報連携がなかなか実現されない状況にあります。

そこで、中小企業庁主導のもと、2018年3月に『中小企業共通EDI標準(初版)』が公開されました。その後、消費税の軽減税率の導入などの変化に応じて、ITコーディネータ協会のつなぐIT推進委員会によりアップデートが繰り返されており、2023年8月現在の最新版はインボイス制度(適格請求書等保存方式)への対応が組み込まれた「ver.4.1」です。

また、同EDI標準を実装したITツールに対し、「共通EDIプロバイダ」「レベル2業務アプリ」「レベル1業務アプリ」「連携補完アプリ」の4種類の認証を行う『共通EDI認証制度』も運用されており、共通EDI認証製品・サービスの導入をサポートする「共通EDI推進サポータ」制度も運用されているとのこと。

IT導入補助金などとともに、EDIの新規導入、刷新において押さえておきたい制度です。

受発注のデジタル化は全企業にとって避けては通れない

受発注デジタル化の2023年現在の状況とメリット、標準化に向けた「中小企業共通EDI」について解説してまいりました。ペーパーレス化や脱FAXが進み、政府を中心に電子商取引を促進するための取り組みが行われている中で、受発注のデジタル化は全企業にとって避けては通れない課題といえるでしょう。変化に合わせるだけでなく、競争力強化につなげられるような攻めの施策として、ぜひ受発注デジタル化に向き合ってみてください。

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