この記事では国産半導体企業ラピダス(Rapidus)が狙う次世代半導体や、ラピダスがもたらすメリットや今後の課題について解説します。
近年、コロナ禍などの影響で起きた世界的な半導体不足により、日本国内の自動車や電機メーカーの多くが生産能力の低下という問題を抱えています。半導体の供給については、改善すると見られていますが、今回の問題をきっかけに先端半導体の国産化が、日本の製造業の競争力向上において重要なテーマと考えられるようになりました。
しかし現在の国内半導体産業は、アメリカや台湾、韓国メーカーと比べて大きく遅れを取っており、挽回には高い壁が待ち構えています。今後ますます半導体開発競争が激しくなると予想される中、国内の主要な企業の共同出資によりラピダスは設立されることになりました。
ラピダス(Rapidus株式会社)は2011年にトヨタ自動車やNTT、ソニーグループ、三菱UFJ銀行など、日本を代表する大手企業が共同出資して本格稼働しました。2027年の量産を目標として、次世代半導体の国産化を目指しています。社長には米半導体大手ウエスタンデジタル日本法人社長の小池淳義氏が就任しました。
ラピダスには経済産業省による支援が決定しています。すでに決定していた開発費700億円の支援に加えて、2023年4月25日に2600億円の補助金を拠出することが決まりました。経済安全保障の観点からも、国は半導体産業強化を重要視しています。
新工場の建設地は北海道千歳市の工業団地内に決定。新千歳空港へのアクセスが良好で、半導体需要の大きい自動車関連工場が進出している地域に建設されます。今後10年間で5兆円の設備投資を計画しており、2025年に試作ラインの整備、2027年の量産開始を目標としています。
PCやスマートフォンの性能向上にはこれまで、半導体の回路幅の微細化で5ナノメートルほどとして、チップに100億個を超えるトランジスタを集約する技術が活用されてきました。ラピダスが量産化を狙う次世代半導体とは、回路幅をさらに微細化して2ナノメートル以下に収めた半導体です。
2023年現在、3ナノメートルの半導体の量産技術はサムスン電子(韓国)や台湾積体電路製造(台湾)が確立していますが、2ナノメートル以下の量産技術はまだ確立されていません。微細化が進むほど達成に膨大なコストと時間が必要となるため、半導体メーカーの中でも一部のメーカーでしか技術開発ができなくなってきています。
今後はAI(人工知能)への活用で、半導体には高い演算処理能力が求められます。そのため、各国の大手半導体メーカーは、2025年を目標に2ナノメートル以下の半導体の量産を実現するための激しい開発競争を展開しています。
ラピダスは国や大手企業の資金を基に、次世代半導体の量産技術開発で先行することで、かつての半導体産業の繁栄を復活させることを目指しています。国内で安定的に半導体を供給できれば、関連する製造業の競争力を上昇させることにもつながります。
例えば2020年から起きたコロナ禍などによる世界的な半導体不足では、国内の製造業の多くが生産能力を落としました。しかし今後ラピダスによる半導体の量産化が成功すれば、納期遅れの解消だけでなく、グローバル競争においても有利な立場を確立できます。
一方でラピダスの半導体の国産化には、課題や懸念点もあると考えられています。その一つに、半導体の国産化プロジェクトは2012年に経営破綻したエルピーダメモリの二の舞になるという懸念があります。
エルピーダメモリはラピダスと同じように、国内大手企業が共同で出資した半導体メーカーでしたが、韓国や台湾のメーカーとの競争に敗れた経験があるからです。ラピダスも次世代半導体の量産化が遅れれば同様に、シェアを確保できず収益化を実現できない可能性があります。
近年、データ活用は幅広い分野で用いられるようになり、政治、経済、安全保障など各分野でビッグデータの処理能力向上が求められています。そのほかにも量子コンピューターや、5G通信などの実用化により、半導体の演算処理能力向上がますます求められています。
韓国、台湾企業との技術競争の遅れを取り戻すためには、国家レベルでのバックアップが必要と考えられます。さらに官民の協力体制を強化し、企業間の連携を拡大していく必要があります。ラピダスに出資するNTTがNECや富士通との業務提携を進め、同じくホンダは米GMとの連携を強化させるなどの動きが出ています。このような連携企業の増加が、今後のラピダスの次世代半導体量産化に大きく影響を及ぼすと考えられます。