2022年2月、公正取引委員会作成の『官公庁における情報システム調達に関する実態調査報告書』が公開され、一部で話題を呼びました。同資料で問題と指摘されている、ベンダーロックイン。行政のみならず、民間企業でもその特性と対処法を把握することが求められます。
ベンダーロックインとは何なのか、どんなデメリットがあるのかから、ベンダーロックインの原因・回避手段までこの記事で押さえていきましょう。
ベンダーロックインとは、製品やサービスの利用において特定のベンダーに対する依存を余儀なくされることを意味します。
社内システム構築を大手SIerに任せており、運用・管理体制は複雑化。他社製品に乗り換えたい・新しい取り組みに乗り出したいと思ってもなかなか踏み出せない……。
このような状況は、まさにベンダーロックインの典型例といえるでしょう。ベンダーロックインは「価格交渉などで不利になる」「ベンダーの業績悪化やサービス終了が大きなリスクとなる」といった問題を引き起こすだけでなく、企業間の競争を鈍化させITシステムの刷新を遅らせることで日本のDXを足止めする一因となってきたとも言われています。また、DXの主要素であるデータ活用を推し進めるにあたっても、ベンダー・製品独自の仕様や権利関係の問題により、データの移行や分析が進められない、という問題が生じます。
とはいえ、まだ社内のIT人材・部門の層が厚くない企業にとって外部のITベンダーは不可欠であり、自社の特性を理解してくれるなじみの企業は頼りになる存在であるのもまた事実です。
信頼のおけるベンダーと良好な関係を築きつつも、“ロックイン”には陥らないバランス感はどんな企業にも求められるでしょう。
ベンダーロックインが発生してしまう原因にはどのようなものがあるのでしょうか?
冒頭で取り上げた公正取引委員会の調査において、既存ベンダーと再契約することになったと回答した官公庁の割合は全体の98.9%と、そのほとんどを占めていました。
その理由についてアンケートを取ったところ、「入札の結果,既存ベンダーが落札したため 」(33.6%)、「技術的には他社にも委託できるが,以下の理由(自由記載)により既存ベンダーと特命随意契約を締結したため(自由記載例:既存ベンダーによる情報システムの安定的な稼働が望めること,既存ベンダーへの委託費用が他社よりも明らかに安価であること等)」(21.7%)といった理由のほかに挙がったのが、下記のグラフの項目です。
出典『官公庁における情報システム調達に関する実態調査報告書』(公正取引委員会)より加工して作成
上記の項目は大きく分けて「既存システムに関する理解がベンダーに依存してしまっている問題」(オレンジ色)と「データ・機能(技術)の権利がベンダーに依存してしまっている問題」(青色)に分けられます。
これらをさらに突き詰めると、前者はユーザユーザー側のIT人材不足や、仕様変更によるシステムの複雑化・ブラックボックス化、後者は不十分な権利処理や成果物に対する認識の不明瞭化などの課題に行き着きます
このように、ベンダーロックインはユーザー側が引き起こしている側面も多分に存在します。それは、官公庁でも民間でも変わりません。だからこそ、同じ轍を踏まないためにもベンダーロックイン回避の戦略を持つことが求められるのです。
ベンダーロックインを回避する手段として「オープンソース化」と「疎結合化」が挙げられます。
前者は、ソースコードが公開されており、多くの場合無償での利用や改変が可能なOSS(オープン・ソース・ソフトウエア)を基盤にシステムを構築すること、後者はOSやWebサーバー、データベースなどを互いに独立した形でシステムを構成し、柔軟性や自由度を高めることを意味します。疎結合な情報システムを実現するには、APIによるデータ連携等が必要になりますが、『情報通信白書平成30年版』(総務省)によると、その認知度は平成30年度時点で50%以下。令和に入り、認知度は高まったことが推察されますが、まだまだその活用は十分とはいえないでしょう。
ベンダーロックインを回避するためには、究極的にはユーザー側がベンダーに依存しないための知識や体制を整えることが求められます。必要なのは、システム構成と権利、利用部門の求める仕様について文書に落とし込めるだけの知見であり、ベンダー並みの技術がなくとも身につけることは不可能ではないはずです。
ベンダーロックイン問題について、基礎から取り上げてまいりました。「クラウドロックイン」という言葉もある通り、かつてに比べてIT利活用の選択肢が増えたように思える現代でも、ベンダーロックイン対策は避けて通れません。
DXという刷新の機運があるからこそ、特定のベンダーに偏らない多様な選択肢を検討してみましょう。