ホームIT半導体不足が自動車業界に与える影響と今後

IT Insight

半導体不足が自動車業界に与える影響と今後

レンテックインサイト編集部

近年の自動車業界は半導体不足による減産を余儀なくされていますが、次世代半導体の国産化に向けた新会社の設立など明るい兆しが見え始めています。

2022年上半期の自動車輸出台数は、半導体不足などの影響を受けて2019年上半期と比較して2割以上少ない水準となりました。自動車の電動化が進む現代では、半導体は自動車部品に欠かせない重要なパーツとなってきており、生産台数を左右する重大な要素となっています。そのため今後も半導体不足が続けば、新車の納入遅れによってユーザーが中古車市場へ流出したり、一部の電気部品では仕様のスペックダウンが起きたりするなど、さらなる悪影響が引き起こされる可能性もあります。問題が長引くほどユーザーの自動車離れといった大きな問題に発展する要因になりかねません。

本記事では、半導体不足がおよぼす自動車業界への影響と、今後の半導体不足問題の見通しについて解説していきます。

自動車に使われている半導体

これまで車載用の半導体は、情報機器や駆動系の制御などで幅広く活用されてきました。それにより自動車はより安全性・快適性・環境性などの性能を進歩させることが可能となりました。

特に高い快適性が求められる高級車では、100個を超えるマイクロコントローラが搭載されています。さらに今日ではハイブリッド電気自動車の普及による走行システムの電動化や、運転支援や自動走行などの新たな技術開発によって、ますます半導体が自動車に搭載される機会が増加しています。

それではどのような半導体が搭載されているのか、具体的にご紹介します。

  • 車載情報用:カーオーディオ、ナビゲーションなどの情報機器
  • 車体制御用:電動ミラーやダッシュボードなど
  • 駆動制御用:エンジンやブレーキなどの駆動制御機器
  • モーター制御用:ハイブリッドや電気自動車の走行システム

このほかにも新技術として注目を集めている事故防止や自動走行システムが広がれば、半導体のニーズはさらに活発になります。自動車の性能の向上のため、新たな技術の開発が進むことに伴って、ますます半導体不足問題の解決が求められるようになります。

半導体不足による自動車業界への影響

自動車に搭載される半導体のニーズが増す中、半導体不足問題の長期化が懸念されています。

例えばトヨタ自動車は、年間生産計画を引き下げることを発表しており、その理由として「個別の半導体については依然不足が続いている」と説明しています。実際にトヨタ自動車の一部車種では、納入時のスマートキーを従来の2個から1個に減らし、後から納品するといった苦しい対応を取らざるを得ないことを発表し話題となりました。

また、トヨタ自動車以外の国内自動車メーカーに目を向けると、スズキを除く6社が生産計画を下方修正しており、厳しい状況が続くと予想されています。

その原因として、自動車用半導体にはパソコンやスマートフォンといった大量生産されている民生用半導体とは異なる、型式の古い半導体や、専用の半導体が一部で使われていることが影響しています。

新車生産が困難な状況の中、その影響は中古車販売市場にもおよんでいます。一部の人気車種では、新車納期が6カ月以上かかるため、中古車が新車を上回る価格で販売されるケースが現れています。

中古車の平均成約単価を見ると、中古車オークション国内最大手のユー・エス・エスの実績値では110万円を突破しています。これは過去25年の最高値となっており、すでに2年以上も上昇を維持しています。こうした現象は半導体不足解消が進まない限り改善が難しいと考えられます。

今後の半導体不足解消の目途

今後の半導体不足への対応に目を向けると、一部では緩和に向けた動きがみられるようになりました。

2022年11月30日に日本自動車工業会が発表した自動車輸出台数は、10月が33万1958台で前年同期比の34.8%増となりました。これは3カ月連続の増加で、半導体不足問題が少しずつ緩和されつつあると考えられます。

また11月11日に東京都内で行われた新会社「Rapidus(ラピダス)」の初会見で、次世代のロジック半導体の技術開発・国内量産化を目指すことが公表されました。Rapidusにはトヨタ自動車、デンソーといった自動車関連企業が出資しており、トヨタ自動車は「次世代半導体を国内量産化するという新会社の設立趣旨に賛同した」と出資の意図を説明しています。また、デンソーは「新会社との連携により、自社の次世代半導体開発を加速させたい」という意図を説明しています。

これまで輸入に頼ってきた一部の車載用半導体についても、国内量産化が進めば不足問題の構造的な解決策となることが期待されています。

半導体不足解消の目途はまだまだ不透明

ここまで自動車業界における半導体不足の影響や、今後の半導体不足解消の目途について解説してきました。

自動車の性能向上のためには、搭載する半導体の数を今後も増やす必要があるにも関わらず、半導体供給の増加はなかなか進んでいないのが現状といえます。一方で自動車輸出台数の3カ月連続増加が示すように、最悪期を脱したとの見方もされており、2023年以降は生産計画を上方修正するメーカーも現れています。

さらに長期的には車載用半導体の国内量産化が進むことによって、構造的な問題の解決に繋がることが期待されています。

IT Insightの他記事もご覧ください

Prev

Next