円安や国際情勢の変化、サプライチェーンリスクの高まりなど、さまざまな背景を反映して製造業の国内回帰・多元化が昨今のキーワードとなっています。一方で、実態はどうなっているのか、自社はどのように対応すべきかと疑問に思ったり、悩んだりしている人も少なくないでしょう。
そこで、製造業の国内回帰・多元化をテーマに2022年末現在の状況と展望をまとめてご紹介します。
まずは、製造業の国内・海外の設備投資額の推移をデータで見てみましょう。
以下は、製造業の国内・海外の設備投資額の推移を表すチャートです。「2008年7-9月期~2022年4-6月期」までが対象となっており、グラフの「左:右」への動きがそれぞれ国内法人設備投資額の「減少:増加」を、グラフの「上:下」への動きがそれぞれ海外現地法人設備投資額の「増加:減少」を表しています。
【製造業の国内・海外の設備投資額の推移】
2007年7-9月期から2010年7-9月期までリーマンショックを起因とする世界的な景気後退を背景に国内法人設備投資額を減らしたグラフは、それ以降、2013年10-12月期まで海外現地法人設備投資額を大きく伸ばします。
そこから国内法人設備投資額が2019年1-3月期まで伸び続けることに。直近のグラフは複雑な形を描いていますが、そこに反映されているのは、2019年末ごろからの新型コロナウイルスの流行による国内・海外両方の設備投資額の減少と、2021年1-3月期以降のそこからの回復です。
こうしてみると、2007年7-9月期から2010年7-9月期までを景気後退による設備投資全体の減退期、そこを抜けてから2013年10月-12月期までを海外投資伸長期、そこから2019年1月-3月期までを国内投資伸長期と呼び、そこからコロナ禍を経て現在はコロナ禍からの回復期と呼ぶことができるでしょう。
2022年4-6期までのトレンドは、2017年10-12月期から2019年1-3月期と一致しており、国内だけでなく海外の投資額も上昇していること、以前より国内回帰のトレンドはあったことを押さえておく必要があります。
製造業の国内回帰トレンドはコロナ禍以前から生じていたものです。とはいえ、パンデミックによるサプライチェーンリスクや、国際情勢の変化による地政学的リスク、急速な円安といった動きが今後の産業界に大きな影響を与えることは間違いありません。
「2022年版ものづくり白書(経済産業省)」では、社会情勢の変化のうち、2021年度の製造業界の企業の事業に影響を及ぼしたものについてのアンケート結果が紹介されており、その回答においてのトップ10は以下の通りです。
出典:2022年版ものづくり白書┃経済産業省
そして、上記のような社会情勢の変化に起因して支障をきたした業務内容のトップ5は以下の通りです。
出典:2022年版ものづくり白書┃経済産業省
原材料価格の高騰やパンデミックによる調達や営業活動への影響は当然ながら国内・海外いずれの事業活動においても生じるものであり、その時々で海外進出・国内回帰のトレンドはあるものの、「多元化によるリスクの分散」がいずれにおいてもリスクヘッジの一つとなるでしょう。
国内回帰・海外進出といった枠組み以上に、現在目指すべきポイントとして多元化が存在することについて先述しました。
多元化の対象として、近年進む消費地の近くでの生産を進める「地産地消」や国内での一極集中を回避する「分散化」とともにキーワードとしたいのが、「令和2年版 通商白書(経済産業省)」でも取り上げられている「アンバンドリング」です。
アンバンドリング(unbundling)は日本語で「分離」と訳され、それまで不可分に存在していたものを分離させることで新たな価値を生み出すことを意味します。
「令和2年版 通商白書」では1820-1990年代に貿易網の発達により国境を越えて生産地と消費地が分離されるという第一のアンバドリングが発生し、1990年-2015年に情報通信網の発達によりアイデア(技術・デー タ等)の移動コストが低下し、生産プロセスが分離されるという第二のアンバンドリングが発生したと説明されており、次に生まれると目されているのがバーチャル空間で垣根を超え「バーチャル移民」として労働者が価値を提供しあうなど、コミュニケーションが距離を問わず分散し個人単位での「タスク」の分離が可能になる第三のアンバンドリングです。
分散によって生じるコストやリスクが懸念される多元化ですが、アンバンドリングの進展により大きくその自由度が高まる未来像があることも押さえておきましょう。
政府刊行物など信頼のおける資料を参照しながら、製造業の国内回帰・多元化の現在と未来についてご紹介しました。新型コロナウイルスの流行や円安はもちろん大きな影響を及ぼしたものの、設備投資トレンドや多元化の必要性、アンバンドリングの進化などコロナ禍以前から共通する点も存在します。
10年後、100年後を見据えた設備投資に取り組んでいきましょう。