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第5次産業革命を担う「バイオミメティクス」のちから

レンテックインサイト編集部

現在、企業はICTおよびビッグデータ、そしてAIを用いた第4次産業革命のただなかにあると言われます。イノベーションに関し、先進諸国と比較して日本の遅れが指摘される中で、目指すべきは一刻も早いキャッチアップとともに、その先を見据えることです。
第5次産業革命の到来はすでに予見されており、その扉を開く技術の一つが「バイオミメティクス」などのバイオテクノロジーだと目されています。
製造業ではすでにいくつもの事例が見られるバイオミメティクス。その実例や期待される可能性について見ていきましょう。

バイオミメティクスは“動物や植物など自然界に存在する生物の模倣を新たな製品や技術の創出に生かす取り組み”

バイオミメティクスとは、直訳で「生物模倣」を意味し、“動物や植物など自然界に存在する生物の模倣を新たな製品や技術の創出に生かす取り組み”を指します。生物を発想の原点とするという考え方は決して新しいものではなく、例えば15世紀にレオナルド・ダヴィンチが鳥類を参考に飛行機をデザインしたことはよく知られています。

これまでに実用化されたものでも、分泌物を塗りつけることで膨張した木材につぶされることを防ぎながら木造船を掘り進むフナムシにヒントを得た掘削技術「シールド工法」や、山で服や愛犬に付着した野生ごぼうの実の構造をスイス人工学者のジョルジュ・デ・メストラル氏が応用した「面ファスナー」などバイオミメティクス由来のイノベーションは数限りありません。

第5次産業革命で、バイオミメティクスが注目を集める理由

第5次産業革命でバイオミメティクスが注目を集める背景には、労働生産性向上に向けたイノベーションの要請と、ナノテクノロジーや3Dプリンターといった技術・ツールの充実があります。

平成29年版 労働経済の分析 -イノベーションの促進とワーク・ライフ・バランスの実現に向けた課題-』(厚生労働省)によると、労働生産性に深くかかわる「全要素生産性(TFP:Total Factor Productivity)」はイノベーションと正の相関関係があります。同資料によると、製造業はTFP上昇率・イノベーションの実現割合が比較的高い業界です。しかし、その内訳を詳しく見ると「非技術的イノベーション」の割合が高く、プロダクト・イノベーション、プロセス・イノベーションなど「技術的イノベーション」においては主要国に水をあけられています。

技術的イノベーション・非技術的イノベーション実現状況の国際比較

IT Insight 第5次産業革命で、バイオミメティクスが注目を集める理由

※文部科学省科学技術・学術政策研究所「第4回全国イノベーション調査統計報告」(2016 年)、OECD “Innovationstatistics and indicators” をもとに厚生労働省労働政策担当参事官室にて作成
※出典:平成29年版 労働経済の分析 -イノベーションの促進とワーク・ライフ・バランスの実現に向けた課題-(厚生労働省)、p78

こうしたイノベーションの要請を背景に、模索されている手法の一つに「バイオミメティクス」は位置づけられます。

生物を構成する原子や分子の構成を解析するナノテクノロジーや緻密なプロトタイプを短期間で再現する3Dプリンターが発展普及したことで、バイオミメティクスの可能性が広がっています。

そして第4次産業革命先進国であるドイツ主導でバイオミメティクスの国際規格(ISO)化が進められ、日本でも「2030年に世界最先端のバイオエコノミー社会を実現する」という目標を掲げバイオ戦略策定が進められています。

実際に活用されているバイオミメティクスの事例

現代の企業のイノベーションにバイオミメティクスがどのように生かされているのか、具体的な事例を見ていきましょう。

シャープでプロジェクト化されたバイオミメティクス「ネイチャーテクノロジー」

環境省の経済情報ポータルサイトで紹介されているのが、2008年ごろより「ネイチャーテクノロジー」という名称でバイオミメティクスをプロジェクト化し、実践しているシャープ株式会社の事例です。

その始まりは、アホウドリ、イヌワシ、アマツバメといった鳥類の翼の構造を応用したエアコン室外機のプロペラファンのデザインでした。結果として、送風効率の向上により20%の消費電力削減に成功したとのこと。

ほかにも、イルカの尾びれと表皮しわを応用し、もみ洗いの効果を高めたパルセータ(洗濯機底の回転翼)や、きのこの傘の形状を生かしたふとん乾燥機アタッチメントなど、数々のネイチャーテクノロジーが生み出されています。

具体的な性能向上とともに、消費者の耳目を集めるマーケティングにもバイオミメティクスは貢献しているといいます。また、生物という完成品を模倣することで試作品の精度が高められるため、開発期間の大幅な短縮にもつながっているということです。

タコ、アリ、チョウチョ……未来のスマートファクトリーにつながるロボットたち

バイオミメティクスは、消費者に向けたプロダクトだけでなく、工場やロボットのイノベーションにも大きな効果をもたらすことが目されています。

たとえば関西大学システム理工学部では、吸着能力の高いアームロボットの開発において、タコの吸盤機構を参考にしました。これにより、ワークの凹凸や曲面にかかわらず、高い吸着力を保持しながら把持することが可能になり、さらにごみのつまりなどの抑制にもつながるということです。

また、ドイツのFesto社はアリ型ロボット「BionicANTs」やチョウ型ロボット「eMotion Butterflies」など、将来のスマート工場における活用を見越した生物模倣型ロボットを多数発表しています。

バイオ技術が時代の要請と合致し、第5次産業革命につながる

バイオミメティクスの意義や第5次産業革命で注目を集める理由、事例などについてご紹介してまいりました。バイオミメティクスのほかにもゲノム編集技術やバイオマス燃料など、数多くのバイオ技術が、イノベーションや環境保護といった時代の要請と合致することで第5次産業革命は訪れます。

新たな発想を得るにあたって、“生き物を模倣する”という手段があることを、今一度意識してみましょう。

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